第528話 動いた

 マンタ村に滞在して二日。ワイニーズ討伐にいったビシャチームとゴブリン駆除に向かった職員チームがやってきた。


「ビシャ! メビ!」


「とーちゃん!」


「かーちゃん!」


 獣人姉妹に両親のことが伝えられたようで、お互いがお互いを確認すると、感動的な再会を見せた。


 めでたしめでたしで終わらないのが人生。感動的再会は思う存分やってもらい、オレはアルズライズや職員たちを労った。


「また厄介事に巻き込まれているようだな」


「まーな。いつもの事になりつつあるよ」


 まだこの世界にきて一年ちょっとなのにな。人生十一回くらいやったくらいの濃厚な日々を送っているよ……。


「帰る途中で悪いが、荷物を運ぶのを手伝ってくれ。思いの外、運ぶものがあるんでな」


 やっていることは否定しようがないほどの盗賊行為だが、これはニャーダ族を苦しめてきた代償だ。法が働かないのなら力で執行するまでだ。


 職員にはニャーダ族の女子供を館に運んでもらい、残った職員とエルフたちに炭を土嚢袋に入れてもらった。


「アルズライズ。ミロイド砦にいってくれるか? 請負員にしたドワーフの訓練をして欲しいんだよ」


「戦力にするのか?」


「ああ。マガルスク王国から侵略されたときの壁にする」


「また考えることが壮大だな。まあ、それをなしえてしまうのがお前だが」


 確かに壮大な考えだが、緻密さはまるでない考えだ。行き当たりばったりと言ってもいいだろうよ。


 ホームからマンダリンを出してくる。


「ラダリオンもいってくれ。いざと言うときダストシュート移動したいからな」


「わかった」


 二人を見送ったらオレらも炭を土嚢袋に入れる作業に混ざった。


 そんなことを続けていると、十時の休憩前にイチゴから連絡が入る。やっとミヒャル商会が動いたか。


「あとは任せる」


 マーダ親子が寝床にしている家に向かった。 


「団欒中に悪い。人攫いの本隊が動いた。マーダ、くるか?」


「もちろんだ」


 外していたククリナイフをつかんで立ち上がった。


「タカト、あたしもいく!」


「あたしも!」


 ビシャとメビもそれぞれの武器をつかんで立ち上がった。親子だな~。


「わかった。メビとマーダは地上を移動。ビシャはマンダリンだ。プランデットを忘れるなよ」


 獣人姉妹に人を殺させたくないが、ダメだと言っても聞かないだろう。なら、父親に心構えを教えてもらおう。オレは自分のことで精一杯だからな。


 スケッチブックを取り寄せ、イチゴから送られてくるミヒャル商会の布陣(隊商と人員)を説明する。


「今、ミスリムの町を出た。マンタ村に人を寄越さなかったことをみると、こちらには寄らず王都に逃げるかもしれないな」


 それならまずはマイヤー男爵領までいくことは確か。なら、それまでの道はオートマップに入っている。狙う場所は死体を片付けるのに楽な場所で、積み荷をホームに入れやすい場所がいい。


「峠を越えた場所、この広場で襲うとしよう」


「──いいんじゃないか」


 と、ミシニーの声が横からした。


 気配が近づいてくることがわかっていたから驚きはない。が、こいつの足はどうなっているんだろうな? 壁を走ったり忍び足ができたりと、獣人顔負けだろう。


「街のニャーダ族は?」


「マルティーヌの者に館まで運んでもらったよ」


 いいように使われてんな、マルティーヌ商会。いやまあ、オレもいいように使っているけどな!


「マジッドたちまできたのか」


 ミシニーだけじゃなくニャーダ族の男たちもきていた。こっちは全然わからなかったよ。


「無理を言って連れてきてもらった」


「身内がいるなら再会を先に済ませてこい。すぐに出発する」


 時刻は十時半。随分と遅い出発だが、峠の前にも休める広場はある。そこで一夜を過ごして朝から峠を越える算段だろう。


「メビ。峠を越えた広場はわかるな?」


「もちろん。迂回しても暗くなるまでには到着できるよ」


 いつの間に。ワイニーズ討伐でかなり成長したな。


「なら、メビが先導しろ。オレ、雷牙、ビシャで先行する」


「マスター。わたしたちもいきます」


 と、マイズたちエルフまで同行を求めてきた。働き者ばかりだな。


「わかった。たが、アリサたちは残れ。ここを手薄にはできんからな」


 ニャーダ族の女子供は残っているし、荷物の運び出しもまだ残っている。空にはできん。


 ……ってまあ、ニャーダ族の女だけでも守れそうだけどよ……。


「ビシャ。まずお前が先行しろ。マンダリンを降ろせる場所を作ってくれ。広場から少し離れた場所な」


「了解」


 襲撃方法は移動してからにしてマンダリンをホームから出してくる。


「オレらは昼過ぎには出る。なにかいたらすぐに逃げるんだからな」


「わかってる。無理はしないし、安全第一で動くよ」


 マンダリンに跨がり、全速力で飛んでいってしまった。


「本当に成長したな」


 なんだか落ち着いた感じがする。ワイニーズ討伐前は年相応……ではなかったな。まだ子供っぽかったな……。


「メビ。悪いが、お前の請負員カードでマーダたちの靴を買ってやってくれ。オレはプレートキャリアを買ってくるから」


 時間がないので手分けして用意することにした。

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