第163話 獣人に銃

 死んだことを確認したらカインゼルさんと合流する。


「山の中に入ります」


「わしが先行する」


 抜いていたマチェットを振り回して山へと入っていった。元気な五十代だよ。


 そう奥に入った場所ではないので十メートルくらいで一匹目のロースランを発見。散弾とは言え、五メートル近いラダリオンが撃った散弾だ。それを数発撃ってるのだから生きてるわけもなかった。


 絶命してるのを確認してから二匹目のところへ。やはりこちらも絶命していた。


「おそらく番だな」


 カインゼルさんの見立てが正しいならこの二匹が親なんだろう。道にいたのより体が大きかった。体重も軽く五百キロはあるんじゃなかろうか? ラダリオンに運んでもらうか。


「こいつ、食えるんですか?」


 トロール的な姿をしてるが、異世界には元の世界の常識は通じない。見た目はアレでも食うかもしれないしな。


「ああ。若いのは美味いな。ただ、歳を重ねたものは堅くて食えたものじゃないがな。その分、魔石はモクダンの特異種くらいはあると思うぞ」


 てことは金貨一枚くらいになるのか? 銀貨一枚一万円としたら金貨は十万円くらい。まったく、こちらの金ばかり貯まっていくぜ。


 カインゼルさんにも渡しているが、請負員カードで買うほうがメインになっている。ジャラジャラと銀貨を持ってるのが面倒と、銀貨十枚くらい持って残りはオレに返してきたくらいだ。


「魔石だけ取り出しておくか」


 オレにはどこにあるのかわからんのでカインゼルさんに手本を見せてもらい、もう片方はオレがやった。


 ゴブリンで耐性がついたのでそこまで嫌悪感はなかったが、肉が硬くて三十分もかかってしまったよ。ふー。


「かなりデカいです」


 ソフトボールくらいはあるか? それになんか重い。一キロくらいあるんじゃなかろうか?


「そうだな。青い魔石だからミリエルに一つ渡しておくといいかもしれんぞ」


 青い魔石は命、回復を促進させるんだっけか? ゴブリンと同じとか親戚なんだろうか?


「そうですね。一つはミリエルに。残りは売りますか」


 確か、青い魔石は教会が欲しがってるんだったよな? 必要以上に持ってて教会に恨まれたくないよ。


 太い血管があるところに斬りつけて血が抜けるようにしてから山から降りた。


 銃声で隊商は完全に目覚めており、たくさんの火が焚かれていた。


「タカト。倒したのか?」


 オレらに気づいたミシニーが駆け寄ってきた。


「ああ、倒した。魔石以外はそちらに渡す。好きにしてくれていいぞ」


 オレらばかり儲けて恨まれても困る。肉でも売って臨時収入にしてもらおう。


「それは皆も喜ぶだろう。ロースランの肉は高く売れるからな」


 それはなにより。後片付けもそちらでやってくれ。


 あとはミシニーたちに任せ、カインゼルさんにメビのところにいってもらい、オレはダインさんたちには倒した旨を伝えた。


「……本当に倒してしまうとは思いませんでした」


 まあ、冒険者が倒せずにいられた存在。ぽっと出のオレに倒せると思うほうがどうかしてるだろうさ。


「倒すために用意しましたからね」


 ロースランは襲ってくるのだから迎え撃つ作戦を考えた。これが山の中から探して駆除しろだったらお手上げだったわ。


「オレとラダリオンは少し離れます。カインゼルさんとメビは残るので安心してください」


 これは打ち合わせのときにも言ったが、ロースランの襲撃で忘れてるかもしれないので再度言っておく。


「そ、そうでしたね。巣があるかもしれなかったんですね」


 群れの構成が家族なら巣に子やメスがいるかもしれない。作戦が失敗して逃げられるかもしれない。その可能性を考えてビシャを山の反対側から巣の背後に向かわせたのだ。


「タカト、ロースラン倒したよ!」


「お、P90で倒せたのか?」


「うん。顔を集中的に狙って、マガジン一本で倒した!」


 メビはナイフより銃のほうが才能あるんだな。ビシャはナイフ扱いが凄かったが。


「よくやった。うちに帰ったらケーキバイキングしてやるから楽しみにしてろ」


 ホテルのビュッフェが可能ならケーキの食べ放題も可能なはず。それなら普通に買うより安く済まされるはずだ。


「ラダリオン。巣にいく。お前は左から。オレは右からいく」


「わかった。元に戻っていく」


 小さくなったときの体に慣れたとは言え、やっぱり元の体のほうがしっくりくるようだ。


「オレらの動きに合わせろよ」


 巨人の歩幅とオレの歩幅は違うし、山歩きはラダリオンが優れている。本気を出されたら追いつけないよ。


「わかった」


 ヘルメットのライトをオンにして山へ入った。


 オレらの動きに気づいたビシャが動き出したのがわかった。


 お互い、位置を確認しながら山から百メートルくらいの岩場に到着。ライトを消して、単眼望遠鏡で熱源があるかを探す。


 ……洞穴にでも隠れてるのか……?


「01。臭いはわかるか?」


「00。臭う。たぶん、三匹いる」


 まったく、名犬ラダリオンの鼻は優秀である。


「01。追い立ててくれ」


「01了解」


 すぐに木の陰に隠れて地面に伏せると、ベネリM4の銃声が轟いた。


「00、一匹飛び出した。ビシャのほうに逃げた」


 すぐに笛を出して長く吹いた。ビシャのほうにロースランがいった合図だ。


「01、ビシャのほうに向かう。そちらは任せた」


「00、了解」


 ビシャもロースランの気配に気づいたのか、猛ダッシュ。メガネを渡してあるとは言え、この山の中でよく走れるものだ。運動神経はビシャのほうが優れているようだ。


 P90の銃声が聞こえ、一回の連射だけで途絶えしまった。十発くらいで倒したのか?


 笛が短く三回鳴り、ビシャが倒したことを伝えてきた。


 鬼に金棒ならぬ獣人に銃、だな。


 ビシャの気配のほうへ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る