第164話 高杉くん
「タカト、こっち!」
ヒーヒー言いながらなんとかビシャのところへやってこれた。夜の山、難易度高杉くん!
「ご、ご苦労様な」
こんなことならハイドレーションつきのリュックサック背負ってくるんだったぜ。
「うん。小さかったから簡単だった」
ライトに照らされたロースランはオレくらいの背丈で、灰色の毛を生やしていた。子供か? てか、これを食うとか異世界人メンタル高杉くん。
「それでも見事なものだ。お前は才能あるよ」
逆に自分の才能のなさに情けなくなる。天才ばかり纏めるとか胃が痛くなるわ。
「魔石、あるかな?」
若いのは魔石ができてないようだが、念のため裂いてみると、小石ていどのもが出てきた。ただ、濃紺色だった。特異種だったのか?
「ビシャ。こいつ食えるそうだが、食いたいか?」
オレは食べろと言われてもノーサンキューさせてもらいます。
「食べたくない。豚肉のほうが好きだし」
なら、討伐の証たる耳だけ切り落として持っていくか。
マチェットで耳を切り落とした──はいいものの、どうすんだこれ? 持って歩くのか? マジキモいだろう。
「ビシャ。ちょっとホームに戻るから警戒頼む」
そう言ってホームに戻った。
「タカトさん」
やはり起きてたか。まあ、寝てろと言っても無駄だから好きなようにさせてるよ。
「ロースランの群れは倒した。今は後片付け中だ」
軽く説明してクーラーボックスに氷を入れて外に出た。
切り落とした耳をクーラーボックスに入れ、血で汚れた魔石はウエスで拭いてカーゴパンツのポケットに入れた。
「よし。戻るか」
「うん」
「01、逃げたロースランは倒した。これから戻る」
「00、了解。こちらも片付いたから戻る」
また戻るのは苦でしかないが、戻らないと一生山の中。がんばれ、オレ!
そして、三十分かけてやっと下りられた。
あー! シャワー浴びてビール飲んで爆睡してー! と言う思いをグッと我慢。カインゼルさんたちを集めて作戦終了ミーティングをする。
倒したロースランは六匹。魔石はオレのリュックサックに放り込み、倒した証として切り落とした耳はクーラーボックスへポイ。てか、コラウスに戻るまで保管してなくちゃならんのか? 持ち歩きたくもないのでホームに置いておくことにした。
「ミシニーたちにあとは任せましたが、万が一のときのために交代で休みましょう」
「まずはタカトから休め。疲れが顔に出てるぞ。ラダリオン。わしらで警戒するぞ。ビシャも休め。メビはタカトを守れ」
よほど酷い顔なんだろう。一歩引いてオレを立ててくれていたカインゼルさんが前に出て指示を出してくれた。
ありがたく受け入れ、パイオニアの前席に横になったら気を失うように眠りに。そして、起きたら朝になっていました……。
「……やっちまった……」
寝坊したときの絶望感をまた味わう日がこようとは。このまま死にたい気分である。
「目が覚めたか」
起き上がったらミシニーがパイオニアに寄りかかって缶コーヒーを飲んでいた。守っててくれたのか?
「……どうなった?」
「隊商に被害なし。怪我人もいない。ロースランの片付けはつつがなく終わり、問題なく朝を迎えたよ」
そう、か。よかった……。
眠気はなくなってくれたが、やはりパイオニアで寝たから体が痛い。バキバキだぜ。
「川で顔でも洗ってきたらどうだ? 出発まで時間はあるからな」
だったらホームに戻ってシャワーを浴びてくるか。熱いお湯を浴びて固まった体を解したいからな。
ホームに戻ったらミリエルが電動車椅子の上で眠っていた。
マットレスまで抱えていき、毛布をかけてゆっくり眠らせてやった。
シャワーを浴びたら室屋のおむすびを買い、バスケットに詰めて外へ出た。
パイオニア一号へ向かうと、カインゼルさんはラダリオンに託して眠っており、ビシャとメビは自分で買った朝飯を食っていた。
「すまんな、一人だけ眠ってしまって。ビシャとメビは起きてたのか?」
「うん。でも、眠くないから大丈夫だよ。カインじいちゃんがライダンドにいくまで眠ったらいいって言ってたし」
そうだな。峠を越えたらライダンド伯爵領で、そう危険な魔物はいないってこと。いたとしても狼くらいだろうとのことだ。眠っても支障はないはずだ。
おむすびをラダリオンに渡し、ダインさんのところへ向かった。
ダインさんは起きており、ロースランの肉を焼いて食っていた。
……臭いは悪くないが、朝から肉とは異世界人の胃はどうなってんだろうな……?
「おはようございます。徹夜したんですか?」
「いえ、交代で寝ましたよ。さすがに徹夜はキツいですからね」
行商と言う職業はオレが考える以上にハードなんだろうな~。少ない睡眠だろうに、表情に眠気なんてまったくなかったよ。
「打ち合わせどおり、峠を越えるまでは先頭をお願いします。オレらは殿を務めますから」
ロースランを倒したとは言え、他にいないとも限らない。後ろから強襲されたら困るのでオレらが殿を務めるのだ。もちろん、冒険者が斥候として出て先を調べたりはするがな。
缶コーヒーを一本飲み、VHS−2を持って周囲の警戒に出た。
時刻が七時くらいになり、隊商が出発の準備に取りかかり、八時前に一旦主要メンバーが集まってライダンドまでの行程を確認し合う。
「では、最後まで油断ないよう取りかかりましょう」
護衛代表としてオレがシメて出発を開始した。
すべての馬車が出発したらパイオニア一号が続き、オレら二号組はしばらくキャンプ地に止まり、強襲はないと判断して出発した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます