第162話 戦闘開始
腕時計のアラームで目を覚ました。
……十九時三十分か。少しは眠れたな……。
パイオニアの前席で眠ったから体が痛い。次はどこでも眠れる体作りしないとな。
辺りはすっかり暗くなり、焚き火の明かりだけが仄かに辺りを照らしていた。
ポータブルバッテリーで辺りを照らすことも考えたが、明るすぎるとロースランに警戒心を与えすぎるかもしれない。今夜で片付けたいのだから襲ってきてもらわないと困るわ。
カップホルダーから缶コーヒーを取り、鈍った頭を目覚めさせるためにいっきに飲んだ。
「もう秋なんだな」
虫の鳴き声が夏とは違う。まあ、さすがに鈴虫の鳴き声ではないがな。
「……んうぅ……」
メビも起きたので、頭を目覚めさせるためにミルクココアを飲ませた。
「もう出た?」
「まだだよ。目が覚めたら食事をしておけ」
家にいるときはオレが用意するが、出かけたら各自で買うようにしてある。なにからなにまで用意してたら金がなくなる。駆除員と請負員は分けておかないと人が増えたときに揉め事の種になるからな。今のうちに決めておいたのだ。
オレは食欲がないので栄養ゼリーを胃に流した。
まだ深夜になるのは五時間以上あるか。長い夜になりそうだぜ。
完全に頭が目覚めたらカインゼルさんのところへいってみる。
「起きてましたか」
LEDランタンを地面に置いて、二代目G3を手入れしていた。
「ああ。今日は運転してただけだしな。少し眠れば充分さ」
それは羨ましい。オレは運転してただけで疲れたよ。
「ミシニーたちと交代します」
「ああ、わかった」
ミシニーのところにいき、交代する旨を伝える。
「後始末とか頼むから半分はゆっくり休ませておいてくれ」
「本当にロースランが襲ってくると踏んでるんだな」
オレに直感力なんてないが、周囲にゴブリンの気配がない。なにか警戒するように遠巻きにしてる感じだ。これは確実にロースランを警戒してるんだろう。
「これはくる流れだ。まあ、いつになるかまではわからんがな」
さすがにそこまではわからないが、くるのは確信できる。ロースランは必ず襲ってくる。
「まあ、タカトがそう言うなら信じるさ」
「助かる。ミシニーもしっかり休んでくれ。ロースランはオレらで倒すから」
そのための準備と作戦は整えた。現れたら必ず殺すさ。
「わかった。しっかり休んでおくよ」
パイオニア二号に戻り、暗視機能つきの単眼望遠鏡を出し、三脚に取りつけて西側を写した。
ヘルメットにつける暗視装置と悩んだが、それを買ったら二百万円を切ってしまう。それは不安なので七割引きシールを使って三十万円で抑えられるように三つ、買ったのだ。
「メビ。周囲を見回ってきてくれ」
「わかった」
メビは夜目が効き、嗅覚に優れているので暗視装置は持たせてない。ないほうが機動力があるからな。
そのうちラダリオンが起きてきて、所定の位置について菓子を食べ始める音がした。まったく、緊張感のないヤツだよ。
それから静かな時間が流れた。
時刻は九時。静かすぎて眠くなってきた。これならもうちょっと眠っておくんだったぜ。
単眼望遠鏡には夜の風景しか写ってなく、虫の鳴き声も続いている。
「──00。九時方向に熱源。数は一。ロースランだ」
と、カインゼルさんから無線連絡が入った。
九時方向に単眼望遠鏡を向け、倍率を上げると、人型のものが見えた。道からくるんかい!
「おそらく斥候だ。騒ぐなよ」
「02、了解です」
さすがカインゼルさん。本当に頼もしい人である。オレが女だったら惚れてるところだ。
十五分くらいして斥候のロースランが去っていってしまった。
「00。近いうちにくるぞ」
「02、了解。01、用意しろ」
「01了解」
それから三十分して西側からロースランらしき熱源が二つ、現れた。いや、コラウス辺境伯領側の道から一匹やってきた。
「00。西側に二匹。コラウス辺境伯領側の道から一匹確認」
「02。西側の二匹を確認。ライダンド側からも一匹くる」
「01。西側の二匹見えた」
計四匹か。体長三メートルくらいあると言うから四匹で充分ってことか。まあ、襲撃に参加しないのもいるだろうがな。
「タカト。川にロースランがいたよ」
音もなくメビが戻ってきた。わかってたからびっくりはしないよ。
「そちらはメビに任せる。ただ、オレらが攻撃するまで発砲はするな。限界線を突破したら構わないから」
「わかった! 任せて!」
やる気満々なメビ。任せてもらえたことが嬉しいようだ。
「安全第一、命大事にだからな」
「うん。わかってる!」
コラウス辺境伯領側のロースランが止まり、こちらを伺っている。
「02、01。用意」
九千ルーメンのLEDライトを手に取り、西側の二体、コラウス辺境伯領側のほうに向けた。
「01、了解」
「02、了解」
こちらの様子を伺っていたロースランが動き出した。
「戦闘開始!」
LEDライトをオン。木々に隠れているので姿は見えないが、灯りはロースランの位置を知らしめるもの。見えなくても構わないのだ。
元に戻ったラダリオンがベネリM4を構えて二匹に向けて交互に撃ち、すべてを撃ち尽くしたら背にしたもう一丁のベネリM4に交換してまた交互に撃ち込んだ。
その間にオレとカインゼルさんは、道からやってきたロースランに向けて撃つ。VHS−2では仕止め切れないので尽くしたら交換。六十発でも仕止められない。が、動きを止めることはできた。
パイオニアのエンジンをかけてライトをつけて西側を照らした。カインゼルさんも仕止めたか動きを止めたかでパイオニアのライトを点灯させた。
「ラダリオン! メビの応援にいってくれ! ミシニー! 周囲を警戒しろ!」
起きているだろうミシニーに指示を飛ばし、マガジンを交換して道からやってきたロースランのところへ向かった。
最低でも四十発は当たっているだろうに、ロースランは山に逃げようとしている。こんなのに剣で挑む冒険者が偉大すぎるぜ。
「すまんな。オレが生きるために死んでくれ」
ロースランの背に三十発を撃ち込んだ。
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