第525話 ホームのルール

 駆除員五人目。これを誰にするか心底悩んでいた。


 候補はいろいろいたが、今後の人生をゴブリン駆除に捧げてもらおうと思ったらなかなか決められなかったのだ。


 アルズライズやミシニーに頼んだら「いいだろう」と即答してくれそうだが、駆除員の席は残り一つ。どちらを選んでも角が立つだろうと早々に除外したよ。


 なら、アリサと言う手もあるが、アリサを選んだ場合、漏れなくエルフの未来まで背負わなくちゃならなくなる。アホか! そんな重いもの背負えるか! ただでさえラダリオンたちの未来を背負ってんだからよ! オレの胃壁はマッハで減るわ!


 五人目は背後関係がない者。ゴブリン駆除に人生を捧げても困らない者。そして、ラダリオンたちが受け入れても構わない者でなければいけない。


 うん。そんなヤツいねーよ。


 とか思っていたんだが、まさか雷牙と出会えるとは。なんの運命が働いたんだか。ダメ女神の策略でないことを祈るよ……。


 ダメ女神のアナウンスは他の駆除員にも伝えられたようで、ミリエルがこちらを向いていた。


「雷牙。ゴブリン駆除員のこと、頭に入っているか?」


「い、今のなに?! 頭の中で声がした!?」


「女神の声だ。オレたちにゴブリン駆除を命令した存在だ」


「……め、女神? 女神なんているの……?!」


「悲しいことにいるんだな、これが。ホーム、セフティーホームのことも頭に入っているか?」


「あ、うん。セフティーホーム──」


 と、頭の中で思ったようで、ホームに入ってしまった。思うだけで入ってしまうのも問題だな。


 オレもすぐにホームに入ると、雷牙が玄関であわあわしていた。


「この子が五人目なんだ。可愛いわね」


 やはりダメ女神のアナウンスは駆除員に伝えたようだ。


「……ゴ、ゴブリン……?」


 サッとオレの陰に隠れる雷牙。ミサロがゴブリンの血を引いているってわかるのだろうか? 


「半分だけね。でも、わたしは人間よ。タカトが人間だと認めてくれて、人間として人間の中で生きられるようにしてくれた。そして、今日からあなたの家族になったミサロよ」


 にっこり笑って雷牙に手を差し出した。


 オレの陰で逡巡していたが、ミサロを否定することは自分を否定すること。なんて思っているかオレにはわからない。だが、雷牙はミサロを家族と認めてオレの陰から出てミサロの手を握った。


「わたしと家族になってくれてありがとう」


 ミサロの言葉に尻尾がピーンと伸びた。照れているのか?


「さあ、雷牙。まずは風呂だ。ここに入ったら身綺麗にするのが決まりだからな」


 風呂に入る文化がなかろうが、ここでは強制だ。雷牙を連れてユニットバスに連れていき、シャンプーを泡立たせて体を隅々まで洗ってやる。


「気持ちいいか?」


「うん! 気持ちいい!」


 こういうとき嫌がるのがテンプレなのに、まったく嫌がらない雷牙。湯船にも気持ちよく浸かっていた。


 オレは蓋をした便器に座り、シャンプーブラシで頭をゴシゴシ洗ってやる。


 結構念入りに洗ったのに湯が汚れている。どんだけ汚れてんだ? あ、毛も結構抜けてるよ。まさか季節の変わり目には生え変わりとかあるのか?


 もう一度洗ってやり、ドライヤーで乾かすが一台では無理だ。ユニットバスから出てミサロにもドライヤーを持ってもらって乾かした。


 ……白と黒の毛か。雷牙より白虎のほうがよかったか……?


「雷牙は大体六歳くらいのサイズか?」


 お毛々で雷牙の小雷牙が隠れていたが、まさか出しっぱなしもできない。サイズを知るために幼児用のボクサーパンツを買って穿かせてみる。


「キツいか?」


「うん。ちょっと……」


 次はSサイズを買って穿かせる。


「ちょうどいい」


 パンツが決まれば服を──となったが、どうやら服は窮屈みたいだ。


 さて、どうしたものかと考えていたらミリエルやラダリオンも入ってきて、雷牙の服を皆で考えた。


「まさか子供用のがあるなんてな」


 タブレットでいろいろ探していたら子供用のタクティカルベストや装備がたくさん売っていた。まあ、サバゲーのものだが、雷牙に合うものがあってなによりだ。


 メッシュのタクティカルベストとタクティカルハーフパンツ、指なしの手袋、靴は……爪が伸びているので先がないサンダルを選んだ。


「今はこれで我慢してくれ。時間ができたら雷牙に合う装備を揃えてやるから」


 ラダリオンやミリエルも少しずつ合ったものを探していった。雷牙もそうしていくとしよう。


 あとは雷牙の手に合うナイフとライト、最低限のサバイバルキット、そして、回復薬中二粒を入れたケースを持たせた。


「ラダリオン。ビシャとメビに両親が生きていたことを教えてくれ。パイオニアなら一日でこれるはずだしな」


 地図を描いてラダリオンに渡す。近くまでこれば気配を感じられる。そう迷うこともないだろうて。


「わかった」


「ラダリオンは残っててくれな。ホームからパイオニアを出して欲しいから」


 パイオニアに慣れた職員に歩いて帰ってこいとも言い辛い。マスター自ら乗り物に頼った行動をしているんだからな。


「雷牙はしばらくオレと一緒だ。人間の世界で生きる知識を身につけろ」


「わかった!」


 元気な返事に頭を撫でてやった。


「よし、いくぞ」


「うん!」


 玄関に向かい、二人で一緒に外に出た。


 ──────────────


         第11章 終わり

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