第524話 五人目

 余市を二本飲み干したらブラックリンから降りた。


 ミリエルの回復魔法と回復薬でカウントダウンはなくなったようで、ホームから持ってきた料理を食べている。


 そちらはミリエルに任せ、カインゼルさんを呼んで人攫いの見張りをお願いし、イチゴにはミスリムの町の監視に戻ってもらった。


 飛んでいくイチゴを見送ってからニャーダ族に目を移すと、小さな獣人の側に誰もいないのに気がついた。


 ……母親はいないのか……?


 小さな獣人の側にいくと、オレの気配に気がついて振り返った。


 警戒はあるが、威嚇はしない。状況を察せられるだけの知能はあるようだ。


「なにか食べるか?」


 その場に座り、ミサロが作ったハンバーガーを取り寄せて小さな獣人の前に置いた。


 ビシャとメビはなんでも食う。まあ、苦い野菜は嫌いみたいだが、基本、なんでも食い、大食いだ。他のニャーダ族と見た目は違っても食べるものは同じなはずだ。ダメなときは回復薬を飲ませたらいいだろう。


 他と同じく長いこと食べてなかったのだろう。躊躇いは一瞬ですぐにハンバーガーをつかんで食べ始めた。


 コップと牛乳パックを取り寄せ、注いでからヒートソードでちょっと温めた。


「これを飲め」


 ハンバーガーを食べ終えたらホットミルクになった牛乳に手を伸ばし、ゴクゴクと飲み干してしまった。


「もっと食べるか?」


 コクンと頷いたので、お代わりを取り寄せた。


 お代わりも十秒もしないで食べてしまい、次々とハンバーガーを取り寄せてやった。


 モスなハンバーガーくらいのサイズのものを五つも食べ、牛乳も一パック飲み干してしまった。


「眠っていいぞ」


 毛布を取り寄せ、小さな獣人にかけてやった。


 オレが気絶させて二時間くらい眠らせたが、まだ残っている疲労と満腹感ですぐに眠ってしまった。


「……小さいな……」


 抱き上げて膝に乗せると、その小ささがよくわかる。小学一年生より小さいんじゃないか?


「……タカトさん……」


 ミリエルがやってきたが、しーと静かにさせる。


「こいつが目覚めるまでニャーダ族のことは任せる」


 今はこいつが最優先。ニャーダ族はミリエルやマーダたちに任せる。


 ミリエルもわかりましたと小さく呟いて下がっていった。


 幸せそうに眠る顔を眺めながら頭を撫で、目覚めるまで見守った。


 お昼になり、小さい獣人が目を覚めた。


「おはよう。よく眠れたか?」

 

 なにがなんだかわからない顔を見せていたら、今の状況を理解して膝の上から飛び退いた。


 それに構わず毛布を畳み、牛乳を取り寄せてやり、カップに注いだ。


「飲め」


 カップを前に置いてやると、小さく頷いてカップをつかみ、ゴクゴクと飲み出した。


「もっと飲むか?」


 ううんと頷く。やはりちゃんと言葉は伝わっており、理解しているようだな。


「名前はあるか?」


 ううんと頭を振った。やはり、忌み子的な感じのようだ。


「じゃあ、オレが名前を決めていいか? 名前がないとお前を呼べないからな」


 意味がよくわからない顔を見せていたが、自分の中で納得したみたいでうんと頷いた。


「お前の名前はライガ。こういう字を書いて雷牙と読む」


 プレートキャリアの前部隙間からペンとメモ帳を取り出して名前を書き、雷牙に見せた。


「お前の動きが雷みたいで、鋭い牙が記憶に残ったから名づけてみた。どうだ?」


 ページを破って雷牙に渡した。


「……ライガ……」


 と、やっと言葉を発した。まだ女の子みたいな声だな。十歳前後だろうか? 知能はもっと上っぽいが。


「ああ。雷牙。気に入らないなら違う名前にするぞ」


「ううん。ライガがいい」


「そっか。それはよかった。じゃあ、今からお前は雷牙だ」


「うん!」


 雷牙雷牙と連呼するところをみると、自己を肯定されたようで跳び跳ねて喜んでいる。


「雷牙。オレは孝人。一ノ瀬孝人だ。タカトと呼んでくれ」


「タカト?」


「ああ、そうだ。オレはタカト。よろしくな」


 この地域に握手文化はないが、なにか友好的な仕草だとは理解できたようで、雷牙が手を出してくれた。


 その手を握り、笑顔でぶんぶんと振った。


「雷牙。両親はいるのか?」


「……いない。おれ、落ち子だから……」

 

 忌み子的なものか? 


「そうか。オレは落ち子がなんなのかわからんし、興味もない。雷牙は雷牙としか見られない」


 実際、全身に毛が生えて小さいが、凄まじい力を持っているってくらいの認識だ。


「雷牙。オレはゴブリン駆除員。ゴブリンを狩って生きている。ゴブリンは知っているか?」


「知ってる。よく襲われた」


 まあ、ゴブリンが狙いやすい大きさだしな。見た目に騙されて襲っているのだろう。


「ゴブリンを一匹倒せば今食ったくらいの食べ物が手に入るが、死ぬまでゴブリンを狩らなくちゃならない。この意味がわかるか?」


 こてんと首を傾げた。そこまでの理解力はないか。


「難しいことは言わない。オレと家族にならないか? 家族になってゴブリンを狩って生きていこう。雷牙が必要なんだ」


 そう言って手を差し出した。


「なる! タカトと家族になる!」


 勢いよく手をつかんでぶんぶんと振った。


 ──ピローン。


 まったく、何度聞いても嫌な音だ。


 ──一ノ瀬孝人さんのチームに雷牙さんが加わりました。セフティーホームに入室が可能となります。五人目、おめでとー! クジに雷牙さん専用のサポートアイテムが加わりました。ゴブリンをたくさん駆除して当ててくださいね~。これからもゴブリン駆除をがんばってくださ~い!


 ハァー。これで駆除員が揃ったな……。

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