第19話 ピローン!
「あたしは、ラダリオン。マーダ族だよ」
巨大な少女がそう名乗り、持ってきたわけありリンゴ十キロを一口で食べてしまった。よく噛んで食べなさいよ。
「もっと食べたい」
暴れられても困るので、わけありリンゴをさらに百キロ買って、えっちらおっちら運んで巨大な少女に渡した。
……二万円が一瞬にして消えてしまった……。
「これ、美味しいね」
「そ、そうかい。そんなにいいものじゃないけどな」
正規のを買ったら破産する。リンゴ、結構高いんだよ。
「これでお仕舞い?」
「金が、って、金って知ってるか? 物を買うときに必要なものなんだが」
身なりからしてちゃんとした縫製がされた服を着ている。それなら取引が合っても不思議じゃない。
「知ってるけど、あたしは使ったことない。人間の町には大人しかいけないから」
それは朗報。人間と巨人は交流があるようだ。敵対とかしてたら全力ダッシュで逃げ出しているところだ。
「あたし、持ってない」
「親と一緒じゃないのか?」
捨て子、って年齢じゃないみたいだが、幼さが見えるところからしてまだ親の庇護下に入っているんじゃなかろうか。
「はぐれた。マジャルビンに襲われて」
マジャルビン? 襲われた? 巨人を襲うバケモノがいるってのか? なんか五年で死ぬ理由ってそいつらに殺されたからじゃね?
「お腹空いた」
ぐぅ~っ腹を鳴らすラダリオンちゃん。
「なら、親と会うまでオレの手伝いをしないか? オレはゴブリン──って、ゴブリンは知ってるか?」
「知ってる。食べるのがないとき、仕方がなく食べてる」
仕方がなくとは言え、あれを食うとか凄いな。オレなら餓死を選ぶぞ。
「オレはゴブリンを殺すと金がもらえる。その金で今食べたものが買える。一日二十匹も狩れば腹一杯食えると思うぞ」
この少女にどれだけのことができるかわからないが、四メートル以上ある体、まあ、体型はドワーフな感じだが、少なくとも狼の群れくらいは追い払えられるはず。用心棒代だと思えば安……くはないが、命の値段だと思えばゴブリン駆除もがんばれるはずだ。きっと。たぶん……。
「二十匹でお腹一杯になるの? それならやる!」
「ああ。稼げば稼ぐほど美味いものが腹一杯食えるぞ」
──ピローン!
と、脳内に電子音が響いた。はぁ? なんだ?
──一ノ
はぁ? え? 説明それだけ? いや、ラダリオン、巨人だよ? その辺はどうなのよ? もっと詳しく説明しろや、ダメ女神!
「な、なに、今の声? 誰かいるの?」
ラダリオンにも聞こえたのか? チームメンバーとなったから?
「神の声だ。オレは違う世界からゴブリンを駆除するよう連れてこられたんだよ」
理解できるかわからんが、セフティーホームに入れたら説明しなくちゃならないこと。今言ったところで変わらんわ。
「神の使徒なの?」
「そんな大したものじゃないよ。オレは雑用、使い捨てさ。それより、セフティーホームのこと、なにか頭に入ってるか?」
「セフティー? あ、なんか入れるって──」
と、ラダリオンが消え、セフティーホームへと入ったのがわかった。
おいおいおい! 入れんのかよ! セフティーホームどんなことになってんだよ! 巨大化してんのか!?
オレも慌ててセフティーホームへと戻った。
「え?」
「ここがセフティーホームなんだ。ツルツルした部屋だね」
よし、ちょっと待て。今、頭の整理をするから。
うーんっと。えーと。目の前にいるスーパーデフォルメな少女はラダリオンだ。ラダリオンが小さくなっている。
よし。大丈夫。オレはちゃんと目の前の事実を受け入れられている。ラダリオンがセフティーホームに合わせて小さくなったのだ。オッケー?
「ラダリオン。ここがセフティーホームなのはわかるんだな?」
両肩をつかんで尋ねた。
「う、うん。安全なところ、ってのは」
「じゃあ、自分が小さくなってることも受け入れられてるか?」
「うん。この中ではあなた──タカトのサイズに合わせて体が調整されるって」
「それだけか? セフティーホームの使い方とかはどうだ?」
「使い方? ううん。知らない」
本当に雑なダメ女神だな、クソッたれが!
「ハァー。まあ、いい。まずは食事にするか」
先ほどからラダリオンの腹が豪快に鳴っている。もう恐れる必要はないが、これからゴブリン駆除のメンバーとやっていくのだ、美味いもん食わせてやるか。
「ラダリオンは、なにか食えないものや嫌いなものはあるか?」
ってか、巨人って普段なに食ってんだ? よく種が存続できるだけの食料があるな。ここはそんなに豊かな世界なのか?
「キノコは嫌い。小さい頃食べてお腹壊してから嫌いになった」
巨人の腹すら壊すキノコがあるんだ。怖っ。異世界のキノコ。
「肉は?」
「好き。滅多に食べられないから」
肉が滅多に食えないとか、益々なにを食っているか謎だな。
「じゃあ、景気づけにステーキを買うか。いっぱい食えそうか?」
「食べれる!」
ならばサーロインステーキの三百五十グラムを買ってやろう。あと、リンゴジュースもサービスだ。
「さあ、食べな。お代わりしてもいいぞ」
その体格なら百キロも二百キロも食うことないしな。たーんと食いなされ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます