第112話 リハルの町
リハルの町は山の中にあった。
街の北にあるこの地も葡萄畑が広がり、他にもリンゴやプラムみたいなのが植えられていて常にゴブリンの被害にあっているとのことだった。
「町と言うより要塞都市って感じですね」
石壁で覆われた町で、掘まで造られており、町と言う感じは全然しなかった。
「オーグや熊、鹿に猪、他にもよく現れるからな。冒険者の数も結構おるんだよ」
まさにデンジャラスゾーンだな。こんなところに転移させられたら十日としないで死んでたぞ。
町の中はごちゃごちゃしていて埃っぽい。それにすえた臭いもする。ラダリオン、大丈夫か? と振り返ったら活性炭配合のマスクに替えていた。
「無理ならセフティーホームに戻ってていいぞ」
依頼を受けにいくだけだし、無理についてくることもない。リハルの町を出るまで待ってても構わないさ。
「大丈夫。堪える」
まあ、ラダリオンがそう言うならそれ以上は言わないでおく。一人前に扱ってるんだからな。
「あそこがギルド支部だ」
パイオニアの運転はカインゼルさん。なにやらリハルの町に思い入れがあるようで、運転に迷いがなかった。雨の日に通って覚えたんではなく、昔からきてる感じであった。
「城、ですか?」
石で造られた建物で、巨人でも持ち上げるのが大変な鉄格子が上がっていた。
「
町館? なんやそれ?
「役場や主要なギルドが一緒に収まっている館だ。いざとなれば町館に立て籠るよう、一つに纏めたのさ」
そうなる出来事があるってことかい。なんの人類最前線だよ?
跳ね橋の前で一旦停車。兵士らしき男が近寄ってきた。
「準冒険者のタカトです。支部にいきます」
出る前にカインゼルさんに言われた通り、木札を出して名を告げた。
「な、なんなんだ、この馬車みたいなものは?」
「魔法で動かす箱車ですよ。遠い国で造られたものです」
「そ、そうか」
それはすべての事象を納得させる、まさに魔法の言葉であった。
兵士の許可が下り、跳ね橋を渡って町館へと入った──ら、そこは中庭的な場所だった。
中庭は広く中央に噴水があり、馬車が何台も停まっていた。
「立て籠ることを前提として造られてるんですか?」
「ああ。わしも二度応援に駆けつけたことがあるよ」
「数十年に一回は危機に陥ってるんですか?」
ヤベーじゃん、ここ! よく滅ぼされないでいるな! ここにいる冒険者が強いのか?
「まあ、そうだが、リハルの町には金印の冒険者が二人いる。滅多なことでは落ちんよ」
金印? ロンダリオさんたちより強いのがいるのか? どんなバケモノだよ?
支部の前にパイオニアを停車させ、ラダリオンに残ってもらってカインゼルさんと支部へと向かった。
リハルの町のギルド支部は街並みに広く、職員の数も多かった。今は冒険者がいないのでよけいに広く見えるよ。
「失礼。準冒険者のタカトです。支部長にお会いしたいのですが、取り次ぎお願いできますか?」
入ってすぐの受付に鉄札を出した。
木札を取った受付嬢は、鉄札とオレを見比べ、少しお待ちくださいと奧に下がっていった。
しばらくして白髪が交じった初老の女性を連れて戻ってきた。
「あんたがゴブリン殺しかい?」
オレの二つ名、ゴブリン殺しに決定してるようです!
「初めまして。ゴブリン駆除を生業としているタカトです。あなたが暗き水底の支部長ですか?」
「はぁ? 暗き水底? なんだいそれ?」
「二つ名呼びがお好きな人なのかと思ったので、それに乗ってみました」
ふふっと笑ってみせた。
「悪かったよ。わたしはミズホ。この支部を任されてる。あんたのことはギルドマスターや他の町から報告を受けているよ」
トップが優秀だと情報共有が末端まで行き渡るんだな。できる上司がいて羨ましいよ。
「時間があればゴブリンの情報を教えていただけませんでしょうか?」
「ああ。もちろんさ。ゴブリンにはホトホト困らされてるからね。進んでやってくれるなら情報くらいなんでもやるよ」
それを解決するのが辺境伯の仕事なんだがな。ギルドマスターや嫁さんが優秀でも辺境伯領を統治するのは一筋縄ではいかないようだ。
二階に通され、支部長の部屋でゴブリンの情報を聞かせてもらった。
「マーヌが出たと聞いたのですが、その情報はありますか?」
一通り話を聞き、昨日のことを尋ねた。
「ロス村だね。昨日、夜に依頼が入ったよ。タカトが受けてくれるのかい?」
「冒険者ギルドとは仲良くやっていきたいですからね。なるべくは応えてはいきますよ」
組織と敵対はしたくないが、道具にされて使い潰されるのは嫌だ。主張するべきことは主張して、受け入れるべきことは受け入れる。だが、許容を超えたら関係を絶たせてもらう。オレはまだ死にたくないんでな。
ミズホさんがオレを見て、後ろに立つカインゼルさんを見る。
ミスリムの町のライドさんからカインゼルさんのことは伝わっているはずだし、カインゼルさんの過去も知ってるはずだ。ましてやカインゼルさんがリハルの町に思い入れがあるなら支部長ともなんらかの繋がりはあるはず。長い沈黙がそれを証明している。
「……それは助かるよ。こちらもタカトとは仲良くしたいからね。協力できることがあれば協力させてもらうよ」
できる上司の下にはできる部下がいる。まったく、組織作りが上手いギルドマスターだよ。統治に至ってないのは残念だけど。
「そのときはよろしくお願いします」
「依頼は出ている。こちらで処理しておくよ」
「ありがとうございます」
席を立ち、ミズホさんに一礼してから部屋を出た。
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