第7章

第294話 いってらっしゃい

 なんとか計画を立てたら次はメンバーへの説明が始まる。


 アルズライズたちが先行しているので、第二陣たるカインゼルさん、ロンダリオさんたち、マイセンズにいったことがあるエルフ五人に説明をした。


 準備はしていたが、ロンダリオさんたちが加わったので、一日置いて、朝早くに出発してもらった。


 見送ったらパイオニアを出してきて最初にきたとき築いた簡易砦へ向かった。


 家を建てる職人なだけに小屋(巨人サイズのね)が二軒も建てられていた。早っ!!


「ご苦労さん。相変わらず仕事が早いな」


「いや、これでも遅れているくらいだ。この辺はいい木がなくてな。探すのに手間取ったよ」


 職人なだけに拘りがあるようだ。


「食料は間に合っているかい?」


「おう。充分間に合っているよ。自分で作るのは面倒だけどな」


「あはは。そこはがんばってくれ。酒は町に用意しておくからよ」


 腕輪は町にいる巨人に使ってもらい、必要があればホームを通してラダリオンに渡している。今のところは順調に回せているよ。


「明日の朝、マイセンズにいってもらいたい。簡易砦を築いてくれ。そう本格的なものじゃなくていいから」


 マイセンズまでの指標は立ててある。ここからでも迷わずいけるはずだ。


「ああ、わかった。任せろ」


 頼もしい限りである。やはり、巨人を仲間にしたのは正解だったな。


 簡易砦から簡易的な村になりそうな場所を一回りしてから町に戻り、第三陣になるエルフ十人に説明をする。ちなみに巨人は番外ね。街の巨人は請負員としてないから。


 第三陣が出発したらちょっと一休み。さすがに休まないとぶっ倒れるわ! 過労で死ぬわ! こん畜生が!


「明日まで休むからあとを頼む」


 職員たちにそう告げてホームに。装備を外してスウェットに着替え、まずは生ビールを一杯。実は中央ルームにビールサーバーを取りつけたのです。生サイコー!


「ミサロ。なんかツマミある?」


「カマボコとちくわならたくさんあるわよ」


 と、皿に盛られたカマボコとちくわの……なに? なんか鮮やかなんですけど?


「カマボコとちくわの飾り切りよ」


 飾り切り? あ、そういうものなのね。醤油とワサビをくださいな。


「お節料理に挑もうと思って」


 お節料理? まだ時期的にクリスマス前だよ。いや、クリスマスなんてイベント、もう五年くらいしてないけどな!


 まあ、ミサロが挑みたいなら生温く見守るだけ。カマボコ、久しぶりに食ったけど美味いな。ちくわはマヨネーズかな?


 中央ルームと台所を遮るカーテンが外され、カマボコやちくわを飾り切りするミサロが見える。そんな姿を眺めながら生ビールを飲み、いつの間にか眠ってしまった。


 元の世界でもやっていたなんてことはない休みの過ごし方。無意味な休日の過ごし方、と思ってたが、誰かいてくれるだけで有意義な休みとなるもんなんだなぁ~って思うから不思議だよな。


 目覚めたら毛布がかけてあり、テーブルの上は片付けてあった。なんて新婚生活物語だろうな? 


「おはよう。シャワー浴びてきたら」


「……あ、ああ……」


 時計を見たら二時間も眠ってないが、溜まっていた疲労がなくなっていた。


 シャワーを浴びて、地下の泉から汲んだ水を飲むと、さらに体が軽くなったような気がする。


 テーブルから座椅子に座り、ぼんやりとする。


 ……こんなゆったりとした時間を過ごすの、いつぶりだろうな……?


 前は時間を無駄にしているような気がしてだが、今はこれほど有意義な時間はないと思っている。幸せと感じるのだ。


 聞こえるのはミサロの鼻歌と、優しい料理の匂いが満ちている。


 またいつの間にか眠りについて、起きたらラダリオンやミリエルが揃っていた。どうやら夕飯の時間のようだ。


「今日はモロの内臓煮込みよ」


 ドン! とテーブルに鍋が置かれ、中を覗いたら完全にもつ煮込みであった。


「職員の中にモロを捌いたことがある人がいたから教わって、ジョブたちと内臓の煮込みを考えたのよ」


 解体と言うと、ロットのことか? カインゼルさんも見たと言ってたからコラウスのほうにもいるのかな?


「これ、美味しい!」


 さっそく食べたラダリオンが歓喜の声を上げた。


 オレもいただき、あまりの美味さに「ほぉう」と声を出してしまった。確かにこれは美味い。味噌によく合っているぜ。


「ほんと、見た目はアレですが、とっても美味しいわ」


 ミリエルも喜んでいる。また遭遇したら狩るとしよう。


 なんてことはない夕飯。だが、心が落ち着く夕飯である。


 身も心も満たされ、早々に眠りにつき、朝、清々しく目覚めた。


「おはよう」


 まだ五時だと言うのにミサロは起きており、サンドイッチを大量に作っていた。ただ、カマボコを具にするのはどうかと思う。いや、マヨネーズに合うからイケるか?


「おはよう。美味そうだ」


 ミサロが台所に立ってからすっかり胃袋をつかまれたような気がする。魔王軍でゴブリンを操っているより台所に立ってるのが一番よく似合うよ。


 ラダリオンとミリエルは外で寝たようで姿はない。物音に気を使う必要はないので、マットレスの上で柔軟体操をする。


 体が目覚めたらシャワーを浴びて気持ちも目覚めさせた。


「今日はマイセンズに出発する。弁当を頼むな」


「ええ。任せておいて。唐揚げもたくさん揚げておくわ」


 運動会か遠足みたいな返しだが、ミサロの唐揚げは人気がある。エルフも肉は食べるので喜ばれるだろうよ。


「じゃあ、いってくるよ」


「ええ、いってらっしゃい」

  

 移動用の装備に着替え、ミサロに見送られてホームを出た。

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