第512話 マジ優秀

 なんだか体から悪いものが抜けていくような気がして目が覚めた。


「タカト。六時よ」


 瞼を開けるとミサロがいて、そう言うと厨房に戻っていった。


 右手を見たら巨人になる指輪が。なら、目覚めに飲んでも大丈夫だな。


 ソファーに置いた残りのトリスを飲み干した。


 酔う前に指輪のエネルギーとなるが、キッツいアルコールの味で目覚めることができた。


 装備はそのままで眠りについたので、そのまま玄関に向かった。


「あ、タカト。これを持っていって」


 ミサロが出てきて台車に載った寸胴鍋と巨人パンを指を差した。なにコレ?


「ハリーラよ。豆が手に入ったから作ってみたの」


 ハリーラ? どこの料理だよ? この世界の料理──ではないな。元の世界の、オレの知らない国の料理だろうよ。


 まあ、ミサロが作ったもの。不味いわけがないんで言われるがままに押して外に出た。


 太陽は出ており、色町の女たちはいなくなっていた。ミシニーも帰ったようだ。


 倉庫の前にはマルティーヌ一家──マルティーヌ商会の若いのがいた。


「これを火にかけてくれ。温まったら食っていいから」


 一人で持ち上げられない量であり重さである。ミサロは小分けで入れたのかな?


「わかりました」


 若いのに任せて倉庫に入った。


 タワーライトのバッテリーは切れていたが、天井近くにある明かり取りの窓が開いていた。


「おはようさん。体調の悪い者はいるか?」


 地下に捕まっていた者は地上に出ているようで、ところ狭しって感じになっていた。


「……いない……」


 答えたのはビシャとメビの父親だ。確か、マーダ、だったっけか?


「それはよかった。今、料理を温めている。いろいろ思うことはあるだろうが、まずは腹を膨れさせろ。すべてはそれからだ」


 水タンクとタオルを何枚か取り寄せ、体を拭くように伝えた。あ、トイレも設置しておくか。


 タワーライトを片付けたら簡易トイレを運び出し、使い方を教えた。


 動けるまでまだ時間がかかるだろうし、捕らわれていた者すべてが獣人なので、オレがいては気が休まらないだろうと外で待つことにした。


 外では若いのが知恵を絞って寸胴鍋に火をかけてくれ、温まったらハリー……なんとかを木皿に盛って食べてみる。


 どんな味? と問われたら異国風としか答えられないが、味はいい。巨人パンを浸しても美味かった。


 若いのが食べたら寸胴鍋ごと中に運んで勝手に食ってもらった。


 のんびりしているホットワインを飲みながら過ごしていると、昼になってミシニーやジョゼットがやってきた。


 状況を話し、ジョゼットに移動用の馬車を手配してくれるようお願いした。


「ミシニー。悪いが、ここの見張りを頼む。受け入れ準備をしてくるんでな」


「任された」


 リクライニングチェアと酒を入れたクーラーボックスを渡した。ツマミは自分で買ってくれ。


 館にはウルヴァリンで帰ることにする。


 ダストシュート移動しようとも倉庫にくるときは普通にこなくちゃならないのだから道を覚えるためにもウルヴァリンで帰ることにしたのだ。イチゴからの報告を聞く必要もあるからな。 


 ウルヴァリンを出してきてミスリムの町方面に出発。近づいたらプランデットをかけてイチゴと通信をする。


「ミヒャル商会の者は馬車三台で街を出ました。あと三十分でミスリムの町に到着します。その後方をマルティーヌ一家の者が追っています」


「了解。マナックはまだ足りるか?」


「あと三時間でなくなります」


 結構な量を持たしたが、あの量で二日くらいが精々か。イチゴとブラックリンのコンビは燃費が悪いな。


「合流しよう」


「ラー」


 街から十キロほど走ったところでイチゴと合流。別のブラックリンと交換してマナックを倍の四十個持たせた。


「ミヒャル商会の者がミスリムの町を出たら連絡してくれ」


「ラー」


 イチゴが飛んでいくのを見送ったら館に向けてウルヴァリンを走らせた。


 職員がほとんど出払っているので静かなもの。ただ、巨人の職人と奥様方が働いてくれているので賑わっているように見える。気のせいなんだろうけど。


 館の事務所もシエイラと二人の職員だけ。それでも回っているのだからゴブリン駆除ギルドの在り方に疑問を覚えてくるよ。


「マスター。お帰りなさい」


「ああ、ただいま。また問題だ」


 またですか。なんて顔をされたが、マルティーヌ商会のことや人攫いのこと、ミヒャル商会が逃げたこと、捕まっていた獣人のことを話した。


「獣人が売り買いされている噂はよく聞きましたが、ミヒャル商会が絡んでいましたか」


 シエイラからの話では主に王都から商品を運んでくる商会で、あまり黒いウワサは聞かないどころか支払いのよい商会として冒険者には人気だったそうだ。


 やはり、裏のことは裏にしか伝わらないのか。変なところで徹底しているな……。


「獣人が回復したら館に運ぶ。空いている長屋はあるか?」


 すべてシエイラに任せているのでなにも知らないんですよ。マスターなのに。


「問題ありません。増えるだろうと思って巨人に造ってもらってますから」


 シエイラ、ほんとマジ優秀。一生一緒にいてください! あ、プロポーズになるから口にはしないがな! でも、二人になったときに誠心誠意感謝させていただきます!

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