第511話 計算高いお人好し

 人攫いが所有していた倉庫にくると、マルティーヌ一家以外の者がいた。なんだ?


「女たちに協力を求めました」


 下っ端さんに訊いたらそんなことを返された。それは見ればわかる。誰のどの女だよ。


「たぶん、色町の女だ。マルティーヌ一家は色町を主に仕切っていると聞くからな」


 あー。なんかケバいと思ったらそういうことか。てか、よく手伝いに出てきてくれたな。


「興味あるのか?」


「貧困の先にあるのが色町だと思ったら哀れだなと思ったまでさ」


 まだ路上で行き倒れよりはマシだろうが、子供たちもいずれそこにいくのかと考えてしまうよ……。


「お前はほんと、お人好しだな」


「平和な世界からきたヤツなら大体そう思うよ」


 逆にそう思わないヤツはこの世から消えて欲しいくらいだ。そして、チャンスがあるなら動く人間であるべきだ。


「女たちを仕切っているヤツは誰だ?」


 適当に連れてきてやれって言っても聞くわけがない。絶対、仕切るヤツを連れてくるはずだ。


「マセル婆さんです」


 と言うので呼んでもらうと、どこの魔女だ? って感じの老婆がやってきた。


「マルティーヌ一家の者か?」


「ああ。一応、役をもらっておるよ」


 マルティーヌ一家、オレが考えるより大きかったりする?


 回復薬中を取り寄せ、マセル婆さんに渡した。


「これは?」


「神世の薬だ。腕一本なら四粒で生える。死を迎える病気でも五粒も飲めば全回復する。全部使っていいから女たちを癒してやれ」


 女が何人いるかわからないが、百粒もあれば重い病気のヤツは癒せるはずだ。


「……孤児のガキどもに施しをしているとは聞いてたが、想像以上のお人好しだね……」


 またお人好し扱いかい。オレは計算した上での行動なんだがな……。


「なんでもいい。マルティーヌ一家はコラウス辺境伯の協力商会になった。それはつまりオレを守る壁となる。弱い壁は補強する。ただそれだけだ。今後、男たちの仕事が増えれば女たちの仕事も増えるだろう。他に取られる前に女たちの待遇をよくしておけ」


 日銭が入れば色町に繰り出すはずだ。あ、そうなると酒の消費も跳ね上がるか。酒事情はどうなってんだ?


「まあ、他の勢力とも仲良くやれ。独占は商売を腐らせる。周りを立てつつ肝心なところは離すな」


 コラウス辺境伯の協力商会としての立場。オレとの繋がり。そして、信用だ。これを離さなければマルティーヌ一家は安泰だろうよ。


「……なるほど。あの子が気にかけるわけだ……」


 あの子とはジョゼットのことだろう。まさか母親とか言わないよな?


「まあ、この場は任せる。必要なものがあればこれで揃えてくれ」


 再度、冒険者ギルドに売った魔石の金をマルセ婆さんに渡した。


「ミシニー。今日はこれで終わるとしよう。あとは好きにしていいぞ。報酬は館に用意しておくよ」


 金より酒だからな、こいつは。


「明日の朝にまたくる」


 日の出まで五時間もないが、ウイスキーモドキをいっき飲みして一眠りできる。いや、したい!


 返事を待たずホームに入った。


 膝から崩れるように床にヘタリ、スキットルを出してトリスを烏龍茶で割ったものをいっき飲みした。


 この飲み方、誰にも支持されないが、オレは結構好きなんだよな。まあ、爽快に飲むならハイボールだけどさ。


 気持ちが少し回復できた。シャワーを浴びて安ウイスキーを飲もうと考えていたらミリエルが入ってきた。


「タカトさん、どうしたんですか!?」


「いや、ちょっと疲れて休んでただけだよ。それよりこんな時間にどうしたんだ?」


 トイレにしてはガチガチに装備を決めているが。


「職員たちがゴブリンの大群を呼び寄せたみたいでビシャたちと交代で駆除しているんです」


 報酬を表示したら一千二百万円を越えていた。確実に千匹はいるぞ。


「応援にいくか?」


「大丈夫ですよ。王が立ったわけでもないですしね」


 柔らかく笑うミリエル。もう千や二千では動じなくなっているな。


「わたしたちも職員に稼がせるために支援に回っています。タカトさんがきても見ているだけになりますよ」


「そうか。なら、そちらはミリエルに任せるよ。あと、ビシャとメビの父親が生きていた。まだ助けたばかりでなにもわかっていない。帰ってきてから伝えるが、ミリエルには先に言っておくよ」


「……わかりました。わたしの胸に収めておきます」


 ミリエルもオレの言いたいことを悟ったようだ。


「オレたちのやることに変わりはない。オレたちはオレたちが生きれる場所を築くだけだ」


 それがブレなければ修正はいくらでも利く。これからはドワーフを使えるんだからな。


 よっこらしょと立ち上がり、ミリエルの肩を叩いた。


「オレは朝まで休むよ」


「はい。ゆっくり休んでくださいね」


 ミリエルとは玄関で別れ、ユニットバスに向かって熱い湯を浴びたら冷凍庫に入れていたグラスを取り出し、溢れるくらい氷を入れたらウイスキーモドキをいっぱいに注いだ。


「ミサロ。六時になったら巨人になる指輪を嵌めてくれ」


 厨房でなにかを煮るミサロに声をかけた。


「わかったわ」


 答えてくれたらウイスキーモドキを安ウイスキーをいっきに飲み干した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る