第510話 協力商会
一瞬、気を失って、次に意識を取り戻したら一時前になっていた。
……四十分くらい気を失っていたのか……?
「大丈夫か?」
視界にミシニーの脚が現れ、続いて顔が現れた。
「……あ、ああ。すまない。気を失ったみたいだな……」
「構わんよ。片付けはマルティーヌ一家がやってくれているからな」
「兵士はきたか?」
「どうだろう? わたしも地下から出てないからわからん」
オレの側で守っててくれたのか。迷惑をかけてしまったな……。
バナナとリンゴを取り寄せ、栄養補給を行う。まだ眠るわけにはいかないからな。
「食えるなら大丈夫そうだな」
「気分的には安いウイスキーモドキを原液で飲みたいよ」
なにかとは言えないが、アレはアレで悪酔いしたいときにはベストなものだ。今はソレをいっき飲みしたいぜ。
無理矢理バナナとリンゴを食い、水で流し込んだ。
「──タカトさん! 兵士がきました!」
マルティーヌ一家の者がやってきた。
「わかった」
さすがにこれだけ騒げば兵士が出てくるか。
地上に向かい、やってきた兵士と話した。
領主代理から指示は出ていたようで、事情説明はあっさりと終わり、マルティーヌ一家の親分に片付けをお願いしたことを伝えた。
「──タカト!」
と、サイルスさんが現れた。領主代理に様子を見てこいと言われたかな?
「ご足労ありがとうございます。粗方片付けました。あとは、ミヒャル商会が逃げ出してくれたら人目のないところで始末します」
「イチゴが見張っているのか?」
空を見上げるサイルスさん。まさか、見えたりしないよね?
「はい。もうミヒャル商会のすべては監視しています」
「とんでもないゴーレムだな。あんなのと戦っていた古代エルフを尊敬するよ」
「滅ぼされちゃいましたけどね」
イチゴと同型機が倒したかはまでわからないが、イチゴと戦ったアルセラ(アンドロイドの通称ね)はいた。二つが戦って古代エルフが負けたのは間違いないだろうよ。
「ミヒャル商会が所有していたものはマルティーヌ一家に譲渡させてください。親分」
あ、名前、なんだっけ? 思い切り忘れました。
「確か、ジョゼット・マルティーヌだったな? 前に一度、会ったな」
さすが冒険者ギルドのマスターだっただけはある。ちゃんとコラウスの反社会的組織は把握していたか。
「ああ。よく覚えている。十年も前なのにな」
「野心に満ちた目は今でも忘れんよ。いや、今でも野心に満ちてそうだ。ふふ。タカトが目をかけるのもよくわかる。利用し甲斐がありそうだ」
「人聞きの悪いこと言わないでください。やる気がある人にやり甲斐のある仕事を任せるだけですよ」
やりたくない者に無理矢理やらせたりしないよ。
「ジョゼット。退くなら今だぞ。タカトと関わったら出世させられるぞ」
なんの説得だよ?
「ならず者が出世なんてするのかい?」
「マルティーヌ一家、いや、これからはマルティーヌ商会と名乗れ。コラウス辺境伯領の協力商会として登録する。あと、もう少しまともな服を用意しておけ。落ち着いたら領主代理と面会してもらうから」
「…………」
さすがの親分も急な展開についていけないようだ。口をパクパクさせているよ。
「驚いている暇はないぞ。タカトと関われば仕事が増えるぞ。手下の教育をしっかりしておけ。もう裏の世界では生きられないんだからな」
なんの脅しなんだか。普通に新事業に手を出すって言えばいいじゃない。まあ、間違ったこと言ってないから黙っているけど。
「親分──いや、ジョゼット会長。ここは任せる。ここにあるものはマルティーヌ商会の財産としていいから。構いませんよね、サイルスさん?」
ここにきたってことは領主代理から全権を与えられてきたってことだ。
「ああ、好きにするといい。ただ、これから見られても構わない帳簿をつけて税金はしっかり払えよ。悪さをすれば罰しないといけなくなるからな」
そう言えば、セフティーブレットは税金を払っているんだろうか? 今度、シエイラに訊いてみよう。
「ハァー。わかった──いや、わかりました。よろしくお願いします」
「それでいい。これからコラウスは変化していく。取り残されたくなければ励むことだ」
まるでオレが原因かのような目でオレを見るサイルスさん。真の原因、いや、元凶はダメ女神ですからね。オレは巻き込まれただけですから。
「オレらは倉庫街に戻ります。捕まっていた者らの対処がありますので」
ビシャとメビの父親がいたということは他にも獣人がいるかもしれない。きっといろいろ問題が出てくるだろう。現時点でどう動くかわからないが、どう動いても対処できるように考えておかなくちゃならない。そのためにも二人の父親を理解しておく必要がある。
「おれもいこう。ライル。ここは任せる。ジョゼット会長と協力して当たれ」
三十前後の兵士に声をかけた。
「わかりました。そちらに兵士を回しましょうか?」
「いや、大丈夫だ。こちらを頼む。朝には報告を上げておいてくれ」
「はい。お気をつけて」
話が終われば三人で倉庫街に向かった。
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