第563話 認可書
「……ゴブリンが減ってますか……」
それはありがたい情報ではあるが、なにかよくない状況のような気がする。
特に北西方向、ゴッズが生息している湖、カノロ湖方向のゴブリンが減ったとのことだった。
カノロ湖の向こうはマガルスク王国がある。勝てないと悟ればさっさと逃げる性質があるゴブリンがいないとなればなにかあると見たほうがいいだろう。
「逆に東側は増えているか」
東にはムルート男爵領がある。高い山もあるそうなので、そこに集まっているのだろうよ。
「もしかすると首長が立つかもしれませんね」
「首長?」
「ゴブリン王です。その上がいるので格下げして首長と呼称してます」
「はあ? 格下げ? 王より上がいると言うのか?」
「今のところ首長は上から三番目ですね。騎士、女王と上がいるようです」
「……その情報はどこからだ……?」
「女神からです」
ギルドマスターはオレが使徒だとわかっている。オレは使徒だとは思ってないけど。
「……否定もできんか……」
「したいのならしても構いませんよ。人の心は自由ですからね」
そこは不可侵でありたいと切に思うよ。
「それで、どうするのだ?」
「そこはライダンド伯爵様が決めることです。オレらはあくまでも民間組織。コラウスに身を置く一組織です。ライダンドのことに口は出せませんよ」
冒険者ギルドの一員として個人で動くなら問題はないだろうが、組織で動くなら許可なりなんなりが必要だろう。あとで責任問題になったら面倒だからな。
「ま、まあ、確かにそうなんだが、ゴブリン王、いや、首長が立ったら伯爵様でもどうにもできんぞ」
「それなら伯爵の名の下にゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットを認可してもらえ、駆除依頼をしてくださるならセフティーブレットは喜んでお引き受け致しますよ」
あ、領主代理にも認可書を発行してもらうか。ちゃんと証拠は残しておかないとな。
「……わかった。伯爵様にかけあってみよう……」
「無理なら無理で構いませんよ。セフティーブレットも人材が不足しています。あっちもこっちもは無理なので」
まあ、千匹くらいの集団なら十人もいれば対処できるだろう。駆除員が一人混ざっていれば、だけど。
「つまり、今なら人は出せると言うことか」
この世界、頭のいい人がトップに立ちすぎ問題。もっと物欲に満ちた人ならつけ入る隙があるってのによ。応えるための壁が高杉くんなんだよ。
「ライダンドにいる間なら、ですね」
ダインさんの仕事が終わり、馬を買ったらさっさと帰らせてもらいます。
「わかった。すぐに動くとしよう」
スクッと席を立ったら足早に部屋を出ていってしまった。
「有能な人ばかりで嫌になるな」
「辺境で生きるなら速やかに動かないと滅ぼされるだけですからね」
「その割りにはゴブリンのことには動かなかったがな」
「仕方がありません。上はゴブリンの脅威を知っていても動かせる数は少なく、倒したところでなんの儲けにもならない。マスターのようにゴブリンを倒す利を出せば別ですがね」
「今を生きるので精一杯で将来の不利益までは考えられないってことか」
なにかあれば迅速に動くが、将来の不利益を防ぐためには動かない。余裕がないと今のことで精一杯ってのはわかるが、だからこそ未来を見据えて動かないといざってときに詰むのだ。
「まあ、動かない者より動いてくれる者がいてくれてよかったと思っておこう」
協力者は一人でも多いほうがいいからな。
冒険者ギルドをあとにしたら宿探しだ。
隊商が往来するだけに宿屋は結構あるみたいで、城壁内の宿屋は質がいいそうだ。
「ここにするか。どうだ?」
マルスの町で泊まった高級宿屋より質は悪そうだが、寝るだけだし、そう悪い宿屋ではないだろうよ。
「いいと思いますが、かなり高い宿屋ですよ」
「別に資金難ってわけじゃないしな、金があるときはいい宿に泊まるとしよう」
かかったとしても銀貨一枚ってことはないだろう。仮に銀貨一枚でも問題はないさ。オレはホームで休ませてもらうんだからその詫びだ。
そこはモンソリスと言う名前の宿で、一番いい部屋で大銅貨二枚だった。あれ? マルスの町の宿屋は大銅貨三枚じゃなかったっけか?
一人部屋はないので三人部屋を借りて、オレはホームに入って酒を持ってきてやった。
「明日の朝まで自由行動な。羽目を外さないていどに好きにしろ。ほら、小遣いだ。他の職員には内緒だからな」
一人大銅貨一枚ずつ渡してやった。
五人とも独身だ。いろいろやりたいこともあるだろう。それぞれ好きなことをするといいさ。
「ありがとうございます!」
なんて全員に頭を下げられてしまった。お辞儀なんて文化ないのにな。
「オレは明日の八時には出てくるから」
早くいってもダインさんたちの迷惑になるしな、九時くらいに向かえば問題なかろうよ。
「わかりました。じゃあ、出かけてきますね!」
初めてきた場所だろうに、迷いが一つもない。衣食住が満ちていても、いや、満ちたからあっちのほうに走りたくなるんだろうよ。
「まあ、張り切ってこい」
職員たちを見送ったらホームに入った。
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