第26話 ゴブリン王
ゴブリンホイホイの穴に一キロ五百円のドライアイスを次々と放り込む。
最初は灯油を、と思ったけど、火が上がるとゴブリンに気づかれてしまうし、なにより灯油代がバカにならない。そこで思い出したのだ。昔、会社でドライアイスで起きた二酸化炭素中毒の事故を。
幸い、死者は出なかったが、後遺症は出てしまい、寝たきりになってしまったと聞いたっけ。
ドライアイスをどれほど入れたら致死量になるかはわからないが、五十キロもぶち込めば行動を失わせることはできるだろう。深さも八メートルくらいはある。乗り越えるくらい埋まりはしないだろうしな。
「入れるだけでも一苦労だわ」
スポーツ飲料を飲んで一休み。あと、糖分も摂取しておこう。長い戦いになるだろうからな。
「あと一キロくらいか」
ゴブリンの大軍団はゆっくりとこちらに向かっている。なんのエサもバラ撒いてないってのにな。
心臓は高鳴っているが、それほど恐怖は湧いてこない。いや、恐怖のあまり感覚が麻痺してるのかもな。
三丁(一丁四万三千円也)買ったうちのM4カービンを一丁抱え、ゆっくりやってくる大量の気配を探った。
気配が集まりすぎて個々の気配はわからないが、一つだけ濃い気配は感じ取れた。
恐らく、こいつが王なのだろう。これまで感じてきたどの気配より強く気配を放っていた。
「王だろうが赤ん坊だろうがゴブリンはゴブリン。一匹勘定か。そこはボーナスステージにして欲しかったよ」
まっ、いきなり王の特攻! とかならラダリオンに抱えてもらって逃げるところだが、この感じからして配下に特攻かけさせて、美味しい状況になったら出てくる、ってところだろう。
なら、問題はない。より多く集まってくるがいいさ。オレの糧になるんだからな。
「やるか」
梯子を使って櫓から下り、掘に置いたガソリンタンクをつかみ、中に入ったガソリンを撒いて火をつけた。
ファイヤーウォールは虚仮威しであり、ゴブリンを集めるまでの時間稼ぎ。これで防げるなんてこれっぽっちも思ってないさ。
ガソリンを撒きながら廃村を一周したらちょうどよく先遣隊がやってきた。
燃え盛る向こうに現れたゴブリンども。まさに飛んで火に入る夏の虫だな。
M4を構え、連射でゴブリンどもを薙ぎ払ってやる。
「アハハ! 怒れ怒れ! 我を忘れるくらい怒りやがれ!」
マガジンを交換して連射。怒れるゴブリンどもをさらに怒らせた。
持っているマガジンが尽きたらグロックを抜いて撃ち尽くすまで引き金を引いた。
「オマケだ」
手榴弾を全力投球して櫓へと駆けた。
梯子を登り、セフティーホームへと運ぶ。梯子もバカにならない値段するからな。使い捨てにはできんよ。
「ラダリオン。ゴブリンがきた。やるぞ!」
「うん。わかった」
サムズアップして櫓へと戻り、次のM4をつかみ、ファイヤーウォールの向こうに集まってくるゴブリンを撃ち殺していく。
マガジン四つ交換したら違うM4を使う。連射で撃っているとドンドン熱くなってくる。なんか燃えそうになるのでマガジン四つ、百二十発撃ったら交換するようにしたのだ。
少しずつファイヤーウォールが弱まってくるのが理解できたのか、木々から姿を現してきている。
距離は八十メートルくらい離れているので狙撃とかはできない。なので、油断している右側のゴブリンに向けて弾を撃ち込んでやった。
「一向に減らんな」
確実に二百匹は駆除したが、ゴブリンの気配は廃村を囲めるほどいる。千匹どころか二千匹いても不思議じゃないぞ、これ。
左側に移り、駆除できる限り駆除していき、用意していたマガジンが尽きそうである。
空になったマガジンをバケツに放り込み、セフティーホームに戻った。
「そろそろ掘の火が消える。火炎瓶も作っておいてくれ」
「わかった」
マガジンが入った工具鞄と火炎瓶が入った工具鞄をつかんで櫓に戻る。
「さらに集まりだしたな」
ファイヤーウォールがもう消えそうなのに、ゴブリンどものボルテージは燃え上がっているぜ。
M4がまだ冷めないので416で攻撃を仕掛ける。これは二十万円近くしたものだから雑には扱えないので、六十発撃ったらP90に交換。あっと言う間に弾がなくなってしまった。
二千発の弾が一時間もしないで尽きるとか、違った意味で胃が痛くなるぜ。
「百五十万くらい稼ぐのに四十万くらい経費がかかり、人件費や危険手当を差し引いたら五十万くらいの儲け、って気分だな」
マイナスになってないことを慰めとしよう。
またセフティーホームに戻り、ラダリオンが弾を入れてくれたマガジンを八つとP90の弾入りマガジンを四つ、グロックのマガジンを腰のポーチに差す。
「さあ、こっからが本番だな」
「……死なないでね……」
「ああ、死なないよ」
なんかフラグを立てた気がしないでもないが、やっと前哨戦が終わったまで。これからが本番なんだから死亡フラグが立つとしたら終盤だ。恐れる必要はない。
戻ると、ファイヤーウォールは消えていた。
「へー。砂をかける知恵はあるんだ」
炭化した木に土をかけるゴブリンたち。王が指示でも出してるのか?
土をかけ終わると、ゴブリンたちの気配が殺気に変わった。
いや、最初から殺気立ってはいたが、すべての殺気がオレに向けられたのだ。
木々の間から通常のゴブリンより三倍の体格と錆びた剣を持つゴブリンが出てきた。
……こいつが王か……。
「フッ。さあ、第二ラウンドといこうか」
ゴブリン王が剣でオレを指し、かかれとばかりに叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます