第25話 準備はできた

 次の日からくるべき日のために行動する。


 穴掘りは完全にラダリオンに任せ、オレは廃村に近づくゴブリンを駆除する。


 ゴブリンどもは誰に指揮されているわけじゃないし、協力し合っているわけでもない。なのに、ゴブリンの本能がそうさせるのか、廃村のほうへと集まってくるのだ。


 このままでは不味いと、廃村から三キロ先に処理肉を大量にばら蒔くことにした。


 それがよかったのか、処理肉をばら蒔いた方向にズレてはくれたが、また廃村のほうへと集まってきてしまった。


「廃村に引きつけるものでもあるのか?」


 そう思って調べてはみたが、これと言ったものはない。ラダリオンが張り切って穴を掘っているだけである。


 わからんと諦めて三キロ先に処理肉をばら蒔きながらゴブリンを駆除をする。


 六日が経ち、穴の深さもラダリオンが隠れるくらいになり、その土で三メートルくらいの山ができた。


「こんな岩、よく上げたもんだ」


 確実に数トンはある岩を上げている。どんだけの筋肉持ってるんだか。殴られたら確実に死ぬな、オレ。


 セフティーホームでは怒らせないよう心に誓い、あと二メートルくらい掘ったら村を囲むよう掘りを作ってくれるようお願いした。


「わかった!」


 すべてを任せているのに、ラダリオンはとても嬉しそうに引き受ける。焼き肉がそんなに待ち通しいのかと思ってたが、どうもそんな感じではない。じゃあ、なんなんだと言われたら困るけどよ。


 だから、素直に訊いてみた。どうにも気になってな。


「役に立てるのが嬉しい。あたし、役立たずの無駄飯食らいだったから」


 いや、まだ子供なんだから役に立たなくとも無駄飯食らいでもいいのではないか? 子供はすくすく育つのが仕事であり、親の役目なんだからよ。


「タカトはあたしを邪魔に思わないし、いっぱい食べさせてくれるし、仕事も与えてくれる。なにより、ありがとうって言ってくれる」


 これまでラダリオンのことなど考えたことなかったが、仲間のところでは結構不遇な扱いを受けていたようだ。当たり前なことに喜んでいるんだからな。


「オレのほうがラダリオンに助けられてるけどな」


 この作戦はラダリオンありきのもの。それに、誰かいるってのはやはり嬉しいもの。挫けずやってられるのは仲間がいてくれるからだ。

 

 まあ、恥ずかしいのでそんなことは言えないが、これからもっとありがとうとは言っていこう。これからまだまだ助けてもらうのだからな。


 さらに三日、処理肉をばら蒔きつつゴブリンを駆除すると、穴を囲む山がいい感じに盛られ、その上に五メートルの櫓ができた。


「お前、天才だな」


 ちまちましたことは嫌いと言ってたが、手先は器用で、頑丈な櫓を作ってしまうとか、クラフト才能開花、だな。


「自分でもびっくりした」


 まんざらでもない顔をするラダリオン。会心のできのようだ。


「あとの細かいことはオレがやるから、ラダリオンは離れたところでゴブリンを引きつけてくれ」


「わかった」


 素直に頷くラダリオン。これも夜にミーティングしている成果だろうよ。


 まず廃村を囲む掘に灯油が入ったポリタンクを等間隔に並べていき、ラダリオンが割ってくれた薪を放り込んでいく。


 これだけで二日もかかり、クタクタである。だが、休んでいる暇はなく、櫓の周りをコンパネで囲み、針金で固定。さらに有刺鉄線を巻つけた。


 次に単管パイプを買って櫓の周りに組んでいき、また有刺鉄線を巻いていく。


「百万円を超えたか」


 灯油だけで五十万円以上かかり、有刺鉄線、単管パイプ、それを繋ぐクランプで三十万円。まだまだ買うものがあるから二百万円は越えるだろうな~。


「いや、銃や弾も買うから三百万はいくな、これ」


 準備が終わったとき、貯金が百万円も残っていれば御の字だろうよ。


「まったく、稼いでは減らしの繰り返しだな」


 プラスになっているから挫けずにいられるが、これでゴブリンがきませんでした、ってなったら立ち直れないな。

 

 まあ、とりあえず迎え撃つ用意は整った。


 セフティーホームに帰り、ラダリオンに今の状況を聞いた。


「どんどん集まってる。あと、木の槍を持った者が何匹かいた。たぶん、王が立ったと思う。王が立ったときは武器を持つってかあちゃんが言ってた」


 ゴブリン、知能もチンパンジー並みなのか?


「まあ、木の槍くらいなら──いや、投げられたら危険か」


 一応、コンパネを打ちつけておくか。木の槍や石くらいなら防いでくれるだろう。


 補強したり武器を買ったりと三日過ぎた頃、とんでもない数の気配を感じ取ってしまった。


「……数百ってレベルじゃねーぞ、これ……」


 察知範囲からかなり出ているのに、圧されるような気配がこちらへと押し寄せてきてるのがわかった。


「王が立つとこんなになんのかよ。一人でどうこうできるレベルじゃねーだろう」


 少なくとも千匹はいる。数の暴力とはこのことを言うんだな。


「ハァ~。こりゃ、全財産使う羽目になりそうだぜ」


 まっ、それで生き残れるならマシか。また地道に駆除をしていけばいいんだしよ。


「フフ。ポジティブになれてんな、オレ」


 自棄になってるのかもしれないが、それでも構わない。こうして落ち着いていられるんだからよ。


 セフティーホームに戻ると、ラダリオンも戻っていた。


「タカト。凄い数の臭いがこちらに向かってきてる」


「ああ。とうとうきたな」


 不安そうなラダリオンに笑顔を見せてやる。


「大丈夫。考えられる用意はした。万が一のときの考えもある。オレが逃げて帰ってくるまで練習していろ。食事は冷蔵庫にあるもので我慢してくれな」


 頭を撫でて言い聞かせた。


「死なない?」


「死なないよ」


 最悪、セフティーホームに逃げればいいのだから死にはしないさ。


「弾込めは頼むな」


 櫓は二畳くらいしかないので、すべての武器弾薬は置けない。ちょくちょく取りに戻らないとダメなのだ。


「うん、わかった」


 よしと頷き、武器弾薬を櫓に運び出した。

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