第27話 第二ラウンド

 ゴブリンどもが怒濤のように襲ってきた。


 アハハ! ゴミのようだ! なんてのたまう余裕はないが、冷静に状況は見れてはいられる。


 深呼吸を一回して火炎瓶に手を伸ばし、ライターで布に火をつけて正面に投げ放つ。


 怒りで火を恐れはしないが、わざわざ火に突っ込むほど我を忘れてはいないようで、左右に分かれた。


 廃村を囲むように土を盛ったが、十数個の塩ビ菅を穴に通すように埋めてある。


 これはネズミ捕りの動画を観て思いついた作戦だ。


 まあ、ゴブリンがネズミと同じ習性があるかはわからんが、穴に入ることを恐れないのはこれまでの駆除で学んだ。通れそうな穴があれば入ると踏んだのだ。


 念のため、穴には処理肉を放り込んであるから臭いに釣られ、勢いに釣られ、どんどんと塩ビ菅を通って穴へと落ちている。


 ゴミのように落ちるゴブリンどもをいつまでも眺めているわけにもいかない。新たな火炎瓶を投げて櫓に近づけないようにする。


 回り込んで櫓に近づくゴブリンもいたが、櫓の周りに築いた有刺鉄線で自らを傷つけていた。


 そんなヤツらを416で撃ち殺して退ける。


「お前らの阿鼻叫喚はこれからだ」


 手榴弾のピンを外して密集しているところに投げた。


 本当はグレネードランチャーでバンバン撃ってやろうかと思ったが、三十メートルくらいの距離なら投げたほうが早い。それに、買い溜めしていた手榴弾が四十個ばかりあった。


 十五日縛りはセフティーホームの中も適用されており、触らないでいると消えてしまうのだ。


 ゴミ屋敷にならなくていいが、備蓄できないのが難点だ。忘れて消えるくらいなら使ったほうがいいと、グレネードランチャーは止めたのだ。


 次々と手榴弾を投げていき、百匹以上を駆除してやった。


 さすがに近づいたら不味いと悟ったようで、掘の向こうまで下がり、木々の間に隠れてしまった。


 振り返って穴を見れば半分以上埋まっており、二百万円近くプラスされていた。


「ざっと四百匹が入ったのか」


 それでも穴を通ったり、山を越えたりと、今も穴に落ちている。もう二酸化炭素中毒じゃなくて圧死してるんじゃないか?


「今のうちに補給しておくか」


 セフティーホームに戻り、十八リットル入りの灯油を十個買い、櫓へと運び出し、ラダリオンが追加で詰めてくれたマガジンを十数個もらった。


 櫓に戻ると、穴は八分まで埋まっており、もう落ちるのはまばらになっていた。


「さらに百万円プラスか。あんな死に方はしたくないな」


 いや、やったお前が言うなって話だが、死に方としては最悪だろうよ。


 ポリタンクを投げ込むが、まだ燃やしはしない。煙で苦しむとかアホだからな。


 駆除は停滞に入り、木々の間から現れるゴブリンを狙撃していく。


「これからを考えて狙撃銃も買っておくか」


 今はゴブリンの気配に向けて撃ってるからスコープとかはつけてない。まあ、スコープをつけたからと言って当てる自信はないけどよ。


 これも練習と、当てられそうなのを狙って撃ち殺していく。


「暗くなってきたな」


 大体九時くらいから始めて今は六時くらい。九時間は戦っていたってことか。


「金額からして六百匹は駆除したか」


 それでもゴブリンは廃村を囲めるほどいる。


「夜の準備をするか」


 ゴブリンも姿を見せなくなったのでセフティーホームに戻った。


「タカト! 終わった?」


「いや、まだだ。まだ千匹以上が廃村を囲んでいるよ」


 第二ラウンド終了。第三ラウンドが始まるまでのインターバルだ。


「腹減っただろう。今日は簡単に寿司にしておくか」


 皿盛りを五つ買い、十貫くらい食べて用意を始めた。食いすぎると眠くなるからな。


 ポータブルバッテリーを二つに投光器を四つ、ガソリンと空ビン、手動ポンプ、布、そして、マガジンを櫓に出した。


「ラダリオン。お前はしっかり食べてしっかり寝るんだぞ。後始末はラダリオンの役目なんだから」


 ブラック企業で三徹当たり前、なところで働いていたわけじゃない。昼間働いて夜眠るホワイト工場作業員。徹夜など滅多にしたことがない。朝まで持つか自信はないわ。


 だから、最終ラウンドはラダリオン任せ。そのためにはラダリオンには元気でいてもらわないと困るのだ。


「うん。わかった。気をつけて」


「任せろ」


 笑って櫓へと戻った。


「ん? 下にいるな」


 ゴブリンの気配をいくつか下から感じた。セフティーホームにいっている間に近づかれたか。


 辺りはすっかり暗くなっている。近づくにはもってこいだろう。相手がオレじゃなかったらな。


 グロックを抜いて下にいるゴブリンに向けて引き金を引いた。


 四匹を殺し、逃げていく三匹を殺し、二匹を逃してしまった。


「オレ、あんまり上手くなってないな」


 人生の大半を銃なしで生きてきたとは言え、この二、三ヶ月は銃を毎日のように撃ってきて、それなりにゴブリンに当ててきた。素人の域からは出たと思うが、まだまだプロの域は遥か先だな。


 投光器を四方に設置し、ポータブルバッテリーに繋いで辺りを照らした瞬間、近づいていたゴブリンが逃げ出した。


「ゴキブリだな」


 まあ、オレからしたら似たようなものだな。


「さて。第三ラウンドが始まる前に準備するか」


 周囲に向けてぶっ放してから火炎瓶作りを始めた。

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