第274話 おっパイパイ

 身体能力二段階アップして、パイルバンカー化するマルチシールドを使っても三十分も走り回れば息が切れてきた。


 チートタイムをスタートさせて体力を回復させたら即停止。息切れが止まってくれた。


「ちょっとチートタイムに頼りすぎてるな」


 あるものは使え主義だが、頼りすぎても弊害を生む。もっと基礎をしっかりしないといかんな。


 とは言え、一朝一夕で基礎がつくわけでもなし。今は元の世界の技術に頼るとしよう。


 グロック17を抜いて襲いかかってくるゴブリンを撃ち殺していった。


 手持ちのマガジンを使い切ったらMINIMIを取り寄せ、撃ちながら撤退した。三百匹は倒したし充分だろう。


 ホームに出入りしながらなんとかゴブリンを振り払うことができ、木の陰で休憩。息が整ったら簡易砦に向かった。


「旦那!」


 簡易砦に入るなり倒れてしまった。


 水をもらい、いっきに飲み干すと、少し落ち着いた。まったく、水の属性でよかったよ。水が魔力を回復すると同時に体力も回復してくれるんだからな。


「さすがに疲れたよ。なにか魔物は襲ってきたか?」


「いえ、なにも。ゴブリン駆除に出かけたい気持ちを抑えるのが大変でした」


 それは暗にゴブリン駆除させろと言っているんだろうか? プライムデーもあるし。


「魔物討伐した経験がある者は?」


「はい、わたしはあります」


 確か、ゼイスと言ったっけか? 三十六歳で鉄印の冒険者だったはずだ。


「銃の扱い方は覚えたか?」


「はい。ショットガンとグロックの使い方は覚えました」


 それだと全員で当たらせたほうがいいか。あ、ベネリM4も貸し出すか。持ってる四丁も結構使ってるしな。最後に使い潰すか。


「わかった。明日、ゼイスの指揮でゴブリン駆除をして構わない。弾薬はギルドから出す。ただ、ゴブリンはまだ二千匹以上いる。引き際を間違えるなよ」


 オレはプライムデーに備えなければならない。支援はしてやれんぞ。


「わたしも同行してよいだろうか?」


 とは副官さん。


「領主代理から受けた命令の範囲内なら構いませんよ。ただ、無茶はしないでください。あなたになにかあれば領主代理に会わす顔がありませんから」


「承知している。タカト殿の責任にはしないから安心してくれ」


 と言われてもなにかあれば領主代理に申し訳ない。右腕からマルチシールドを外し、副官さんに渡した。


「それはマルチシールド。女神より与えられたもの。装備者の意思で形を変えられるものです。強度はまだ検証中ですが、ゴブリンの攻撃くらいなら余裕で防ぎます。明日まで練習してください」


「……か、神代の武具か……」


 なんだろう。エルフの血には神の道具をありがたく感じる成分でも混ざっているのだろうか? ただ単に昔の科学技術なのにな。いや、謎ではあるんだけどね! 


「ゼイスたちにはベネリとグロックも予備を貸す。死なないように使えよ」


 ベネリM4を四丁、グロック19四丁、予備マガジン八本、弾は約五百発、弾を入れるベルトなどを取り寄せた。


「とりあえずこれだけ渡しておく。ゴブリンがいるところまで音は届かないと思うが、安全のために夜は撃つなよ」


「わかりました」


「ロズたちも参加するなら休んでおけよ。ビシャ。簡易砦の守り、頼むな」


「うん。任せて」


 ビシャの頭を撫で、ホームに入った。


 玄関にはパイオニア一号は入っておらず、KLX230も消えていた。誰が乗っているんだ? カインゼルさんか?


 ミサロは玄関におらず、ホワイトボードに館にいく赤い磁石がつけてあった。


「ミリエルも入ってきた様子もないか」


 ホワイトボードには戻ってきた緑の磁石がつけられてなかった。まだ交渉の最中のようだ。


 戻ってくる前に装備を外してシャワーを浴び、まずは今日を生きられたことをビールで乾杯。いっきに飲み干した。カァァァー美味い!


 もう一本いきたいところだが、まずは弾薬補給。こればかりはすぐにやっておかないとな。


 玄関に置いてあるゲーミングチェアに座り、プライムデーに買うものリストを作成する。


 あれこれとノートに書き込んでいると、ミリエルが入ってきた。


「ご苦労さん。どうだ?」


「はい。町には入れ、伯爵との面会も果たしました。町は想像以上に食料が不足しているようです。持っていったものでは足りませんでした」


「そうか。なら、ダインさんに言って豆を集めてもらうか」


「はい、それまで巨人パンをお願いします。収穫前にゴブリンの被害が出てて、来年の種芋まで食べてしまったみたいです」


 それはまた最悪の状況に陥っているようだ。


「それと、乳がないかと訊かれました」


 乳? おっパイパイ?


「伯爵の奥様が子を産んだばかりなんですが、乳の出があまりよくないみたいなんです」


 あ、ああ、おっパイパイじゃなくてミルクね。びっくりしたー。


「ミルクな。それならいいのがあるよ」


 粉ミルク、哺乳瓶、綺麗な布を十枚、熱湯を入れても大丈夫な盥を買い、使い方を教えた。


「……タカトさん、赤ん坊がいたんですか……?」


「姉の子がな」


 実家にいた頃、姉ちゃんが里帰り出産してきてやってたのを覚えていただけ。おしめ交換もやらされたよ。


「そうでしたか」


 なぜかホッとするミリエル。なんでよ?


「あと、伯爵夫人に回復薬を飲ませてやれ。ガチャで回復薬中を二つも当てたから二、三粒くらい惜しくない」


 ダブることからして回復薬は結構出るものだ。なら、また出るだろうよ。てか、回復薬小はまだ残っている。これからはミサロに回復薬中でも飲ませよう。


 回復薬中を持ってきて瓶ごとミリエルに渡した。


「有利になるよう使え。冬の間、オレたちがマイセンズで過ごせるようにな」


 春まで二、三ヶ月はある。たまには町に戻って休みを取る必要もあるだろう。そのためにもアシッカ伯爵と友誼を結んでおこう。


「プライムデーが終わったらオレらも町に入る。どこか宿になるところを確保しておいてくれ」


「わかりました。また夜にきます」


 そう言ってホームを出ていった。

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