第275話 欲

 ホームでリストを作成したり、ミサロと台所のレイアウトを考えたり、外に出て職員たちの駆除を見たりと過ごしていたら、プライムデーがやってきた。ちなみに昨日、一万八千匹は突破しました。これと言ったアナウンスはなかったけど。


 ──ピローン! 


 午前零時になると、いつもの如く電子音が鳴り響いた。


 ──皆お待ちかね、セフティープライムデーの始まりだよ~。たくさん買い物してねー! でも、使いすぎには注意だよ。先は長いんだからね。


 なにやら不吉な警告をしてくれるじゃないか。この先、金が必要になると言っているようなもんだぞ……。


「クソ。そう言う大事なことは一万八千匹のときに言えよな。修正しなくちゃなんねーだろうが」


 1000CCのパイオニアを四台買おうとしてたが、これでは二台にしておいたほうがいいか。なら、五百万円は残しておくべきだな。


 使える予算は六百五十万円。まずはホームの増築をしてから銃を買っていくか。


「ミサロ。台所を増築するぞ」


「ええ、わかったわ」


 ゲーミングチェアに座りながら眠っていたミサロだが、ダメ女神のアナウンスで起きてしまったようだ。


 台所に向かい、まず五十万円使って拡張。八畳くらいまで広げられた。


 そこにミサロが欲しいと言ったアイランドキッチンを二十八万円で買い、八万円で水道、排水、ガス、電気を設置できた。


「ステキ!」


 アイランドキッチンとは耳にしたことはあるし、タブレットで見たが、なかなかオシャレキッチンであった。年収三百万円の工場作業員だったら三十六年ローンでも買ってやれないものだな……。


「冷蔵庫の移動はラダリオンがきてからだな」


 オレ一人で業務用の冷蔵庫など動かせない。オレを片手で持ち上げられるラダリオンがいなければ無理だ。


「ええ。食器や鍋はわたしが買っていい?」


「構わんよ。ただ、管理できないほど買うなよ。ホームにいても十五日触らないと消えるんだから」


「わかっているわ。ちゃんと管理する」


 オレの注意など軽く流し、移動させていた食器や鍋を棚に移動し始めた。まあ、いいけど。


 台所──いや、キッチンはミサロに任せて玄関に戻った。


「八十六万円か。食器や鍋の買い足しで百万円と見ておくべきだな」


 残り五百五十万円で玄関の改築、銃器の買い換え、パイオニア二台か。なんか足りなそうな気がしてきたよ。


「これならもっと稼いでおくべきだったな」


 七十パーオフでも買うものが多くある。こりゃ、もう百万円プラスしたほうがいいかな?


 玄関を上に拡張。金額を見ながら天井を高くしていき、五メートルくらいで一旦停止。九十万円が消えた。


 さらに三十万円使って一階と二階との仕切り(床か?)と階段を足した。


 銃器を並べていた棚を分解して二階に運び、また組み立てる。


「結構疲れるな」


 分解して二階に運び組み立てるで、二時間もかかってしまったよ。


 少し休憩したらパイオニアを二台、百四十万で購入。一階玄関──いや、一階ガレージに収めた。


「なんとか四台はいけるな」


 ガレージ一階はパイオニアを。二階は銃器や弾薬置き場にする。


「壁に棚を置けるな」


 でもその前に銃や弾を二階に運ばないと。ハァー。


 四時間かけてなんとか二階に運び終え、汗だくになったのでシャワーを浴びることにした。


 キッチンで鼻歌を歌いながらなにかの下拵えをするミサロ。次はなにを極めんとするのやら。


 シャワーを浴びたらビールを一杯。さすがに疲労で眠くなってきたよ。


 とは言え、プライムデーは一日だけ。職員たちの相談にも乗らないといけない。昨日、一万九千匹突破するほど駆除したからな。


「ミサロ。ちょっと外に出てくるな」


「ええ。タブレット使っていい?」


「構わんよ。あ、ビール一箱買い足しておいてくれ」


 酒や食料はプライムデーに買うまでもないが、ビールは欠かしたくない。これがオレの命だから!


「昼はグラタンにするから」


 あ、グラタンを極めんとしてたのね。でも、しめじとか入れないでね。トマトは大歓迎だけど。

 

 腰回りの装備をつけて外に出ると、職員やドワーフたちは起きており、各々請負員カードを見ていた。


「ん? 報酬が増えてるな?」


 なにか二百万円くらい増えているぞ。


 簡易砦を見回すと、副官さんとビシャの姿がなかった。


「あ、旦那。すみません。二人とも陽が昇ると同時にゴブリン狩りに……」


 やっぱりか。報酬の上がり方からしてミリエルたちもギリギリまで稼ごうって感じのようだ。


「お前らが気にしなくていいよ。二人の自己責任だから」


 まあ、そう簡単に死ぬような二人ではない。問題なかろうよ。


「マスター。少しいいですか? 銃のことで相談したいのですが」


「ああ。構わんよ」


 銃を知ったら剣には戻れないだろうことは予想できていた。なので、職員たちの相談に乗ってやり、安いCZスコーピオンEVO3とグロック19を買うことを勧めた。


 職員がゴブリン駆除に出ることは少ない。護衛のための銃でいいだろうし、仮に出るときはかしだせばいいんだからな。


 他にもマガジン、スリング、ホルスター、マガジンポーチなどを選んでやった。


 ──ピローン!


 朝から聞きたくない音だよ。


 ──一万九千匹突破! 二万匹までもうちょっと。がんばれー!


 今回も不吉なアナウンスはなしか。まあ、もう言われてるけど!


「マスター。わたしたちも駆除に出てもいいですか?」


 欲とは人を動かす原動力。止めても無駄だろうから許可を出した。


「昼までには終われよ」


 9㎜の弾とスコーピオンのマガジンをあるだけ取り寄せた。ショットガンの弾はまだあるようだな。


 用意を済ませると、全員が出ていってしまった。いや、留守!


「……ハァー。しょうがないヤツらだよ」


 VHS−2を取り寄せ、周辺の哨戒に出た。 

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