第166話 スーテーツァイ
夜中一時くらいにラダリオンと交代し、テントでぐっすりと眠った。
起きるとダインさんが帰っており、兄弟子の店へ出発すると言うのでオレとビシャでいくことにする。
カインゼルさん、ラダリオン、メビにはテントの片付けをお願いし、宿を取ってもらうことにする。
ダインさんの計画で五日から八日、ライダンドで商品を仕入れるそうなので、その間、オレらは宿を取って周辺のゴブリン駆除をやろうと計画を立てたのだ。
「では、夕方に冒険者ギルドで落ち合いましょう」
「ああ。気をつけてな」
商業広場で別れ、ダインさんの兄弟子さんの店へ向かった。
領都はそれほど大きい都市ではないので二十分もしないで到着。城を挟んで反対側の商業通りに兄弟子さんの店があった。
「なかなか立派じゃん」
店はコンビニくらいだが、裏に倉庫が二つ建っており、馬車五台が余裕で停められる広場まである。もう大商人って言っていいんじゃないか?
「ミレット商会の主、ロダン・ミレットです。タカト様のことはダインより伺いました」
なぜか兄弟子さんに紹介されるオレ。しかも様呼び。どう伺ったのよ?
「そ、そうですか。まあ、ゴブリン駆除員であり、ダインさんの護衛としてきたので。そう畏まらないでください」
「いえ、銀印の冒険者で、ゴブリンの王を倒した方。英雄たる方に失礼はできませんよ」
またとんでもないことを伺ったようだ。英雄とか止めてくれ。過大評価は早死にの元なんだぞ。若造がなんだと侮ってくださいよ。
「タカト様。ダインに売った酒をわたしどもにも売っていただけないでしょうか? わたしどもがやっている酒場で出したいと思いまして」
「オレが出すものには消滅の魔法がかかっていることは聞きましたよね?」
「ええ。聞いております。そのことでご相談させていただきたいのですが、お時間いただけますでしょうか?」
特に嫌な感じはしないので話だけは聞かせてもらうことにした。
店へと案内され、商談スペース的な部屋へと案内され、紅茶にミルクを入れたものが出された。
「羊乳入りの紅茶です」
そういや、モンゴルだか中国だかで紅茶に羊乳を入れるのがあったな。環境が似ると同じ飲み方が生まれるのかね? どれどれ。
「お口に合いましたか?」
「ええ。前に飲んだ塩入りミルクティー──いや、塩入り羊乳紅茶を思い出しました」
「塩、ですか?」
「ええ。甘しょっぱくて、油で揚げたパンと一緒に食べた記憶が蘇りました」
デートのとき食ったんだっけか? 八年も前のことだからよく思い出せねーや。
なにやら控えていた男に塩を持ってこさせ、なぜかどうぞと差し出された。いや、別に飲みたいわけじゃないが、せっかく出されたのだからひとつまみつかんで羊乳紅茶に入れていただいた。
「あーこんな味でした」
特別美味いってわけじゃないが、なんだか懐かしさは感じる。二十歳前半の、若さにものを言わせて遊んだときの記憶が蘇ってくるぜ。
「塩を入れたらこんなに味が変わるとは」
「ええ。これはこれで美味いですね」
二人も塩を入れて飲んだようで、塩入りミルクティーに満足していた。今度揚げパン買って、浸しながら食ってみようっと。
なんて脇道に逸れたが、話を元に戻した。
「うちの三男が去年から冒険者をしてまして、タカト様がよければ息子をゴブリン請負員にしてもらえませんでしょうか?」
請負員のこと、ダインさんに言ったけか? あ、いや、ダインさんはギルドマスターと繋がりがあったっけ。そっちから伝わったのか?
「息子さんはなんと? ゴブリン狩りは人気がないものです。若いならやりたがらないのでは?」
三男が何歳かは知らないが、去年からと言うならまだ少年のはず。未来に夢を見ている子供がゴブリン狩りなんてしないんじゃないか? 無理矢理やらせても腐るだけだぞ。
「一度、ゴブリン狩りに連れてってもらえませんか? 息子にはよく言いつけておきます。バカをするようなら殴りつけても構いません。もちろん、依頼として報酬も出させていただきます」
請負員が増えるのは願ったり叶ったりだが、なにも知らない子供の面倒を見るのはちょっと躊躇う。だが考えようにゆってはこれはチャンスか? いずれ若いのを集めて請負員にするんだからな。試し的にやってみるか。
「わかりました。その依頼、受けましょう」
「ありがとうございます! 息子は今冒険者ギルドにいっているので帰ってきたら紹介します」
昨日の夜にダインさんと話し合ったんだろうな。手はずが整いすぎてるや。
「では、息子さんがくるまで酒を出しておきますか。なにをお望みですか?」
「ワインをお願いします。あと、ビールもいただきたいです」
ビール? まあ、麦もあるんだからエールもあるか。いやまあ、エールなんて飲んだことないからビールとの違いなんて知らんけど。
「どのくらい必要ですか?」
「銀貨五枚分、お願いします」
大体五万円くらいか。それだとかなりの量になるな。買い置きで足りるか?
とりあえず、ホームから買い置きしているワインと缶ビールを運んできた。
「今回はこれが精一杯ですね。ゴブリンを駆除してこそ買えるものですからね」
これ以上は自分らのがなくなる。無尽蔵に売ることはできないんだよ。
「ありがとうございます。また稼いだら売ってください」
「ええ。稼いだら、ね」
そこははっきりと示しておく。報酬はオレが生きるために使うんだからな。
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