第251話 才能

 簡易砦に戻ったら獣人姉妹が戻っていた。


「どうだった?」


「ねーちゃんが全部狩っちゃったんだよ! 酷くない?」


 メビが半べそかいて抱きついてきた。


「あーよしよし。悪いねーちゃんだな。あっちの方向に二十匹いるから駆除してこい」


「ねーちゃんはこないでよ!」


 そう言うとバビュンと走っていってしまった。ハァー。


「ビシャは処理肉をばら撒いてろ。妹を泣かした罰だ。自腹で買え」


「タカトはメビを甘やかしすぎだよ」


「まだ子供なんだから優しくしてやれ」


 獣人とは言え、十歳の女の子にゴブリン駆除させるんだから甘くはないだろう。鬼畜と言われても文句言えんわ。


「あたしも甘やかして欲しい!」


 なんだ? 赤ちゃん返りか? それって十四歳になってもなるものなのか?


「わかったわかった。ほーら、よしよし、いい子いい子」


 しょうがないので頭を撫でて、犬耳を揉んでやった。


「じゃあ、メビを見てくるから処理肉をばら撒いてくれな」


 あれで満足したようで、尻尾をフリフリしている。種族名はニャーダだけど、こういうところは犬だよな。小さい頃飼ってた雑種犬の小太郎を思い出すぜ。


 チートタイムはあと一分だけなので、また置いていった予備のP90をつかんでメビのあとを追った。


 ビシャより遅いとは言え、オレよりは断然速い。ぐんぐん離されていく。が、五百メートルくらいの距離なので、そう時間はかからない。


「タカト、倒したよ! 二十二匹いた!」


「ナイフで倒したのか?」


 銃声はしなかったぞ。


「うん! あたしだってナイフで倒せるんだから!」


 この子はなんて殺戮少女を目指してんだろうな? 将来が心配だよ。


「倒せるのは凄いが、ビシャに勝ちたいんなら銃で挑め。銃の才能はメビのほうが上なんだから」


「あたし、銃の才能あるの?」


「銃を握って半年で、四百メートル離れた場所から標的に当てるのは天才としかいいようがないよ。P90の扱いも上手いしな」


 銃の才能があることが喜ばしいことかはわからないが、こんな魔物がいる世界では天恵と言ってもいいだろう。凡人には羨ましい限りだよ。


「……あたし、銃の天才なんだ……」


「まあ、天才でも努力を怠れば努力を重ねた凡才にも負けるものだ。驕らず、甘えず、日々努力だ」


 今度、ウサギとカメでも読み聞かせてやろう。


「あたし、がんばる!」


 おーがんばれがんばれ。一匹でも多くゴブリンを駆除するためにな。


 やる気に満ちたメビを連れて簡易砦に戻り、ちょっと早いが昼飯とする。


 KLXをホームに戻すと、ウルヴァリンが収めてあり、ミリエルとラダリオンが大量の厚焼き玉子を重箱に入れていた。ど、どういう状況?


「ミサロが大量に作ってるんですよ」


 中央ルームにいくと、ミサロがコンロに向かって厚焼き玉子を量産していた。


「ミ、ミサロ、どうしたんだ、こんなに厚焼き玉子なんて作って?」


「練習。どうしても上手くできないのよ」


 いや、十二分に上手くできてるじゃん。なにが納得できないんだ?


「甘い厚焼き玉子はできたのだけれど、出汁巻きが上手くできないのよ」


「そ、そうか。練習はいいが、ほどほどにしろよ」

  

 まさかミサロがこんな凝り性だったとは思わなかったよ。ちゃんと魔王軍でやれてたのか?


「ええ。あと少しでつかめそうだから大丈夫よ」


 オレも重箱に詰める作業を手伝いました。


「これからミサロが納得するまで同じものを食べなくちゃいけないんでしょうか?」


「……そのときは、館の食堂に移せばいいさ。食うヤツはいっぱいいるんだからな」


 今回は、マイゼルに食わすとしよう。もちろん、オレらも食べますよ。厚焼き玉子を教えた責任としてな。


「ラダリオン。明日の準備はどうだ?」


「玉子入れるので遅れている」


 だよねー。愚問でしたー。


「昼を食ったら戻るよ」


 重箱に詰めたらウルヴァリンに乗せて外に出た。


 ミサロが今日中にマスターすることを切に願い、皆で厚焼き玉子を食した。


「タカト。あたしもウルヴァリン運転したい」


 と、メビが言うのでウルヴァリンに乗せてみた。


 メビの身長は百四十センチ弱。椅子を前まで移動させたら辛うじて運転できそうだ。


「尻尾、邪魔にならないか?」


 獣人姉妹のお尻にはフサフサの尻尾が生えている。パイオニアに乗るときは、座席の半分くらいに座ってた。意外と場所を取る尻尾なのだ。


「ちょっと邪魔かも」


 うーん。座席に穴なんて開けられないしな~。あ、Uの字クッションを二枚くらい重ねたら大丈夫かもしんないな。


 メビにUの字クッションを二枚買わせ、背凭れとメビの間に入れてみた。


「尻尾はどうだ?」


「ちょっと尻尾がムズムズするけど、痛くはないよ」


 ってことで、とりあえず運転させてみた。


 運転法は見ていたようで、一度の説明でエンジンをかけ、ニュートラルからドライブにシフト操作。そして、発車させた。


「慣れるまではゆっくりだぞ」


「うん。わかった」


 メビに緊張はないようで無駄に力は入っておらず、二十キロくらいで運転している。


「うん。上手い上手い。銃だけじゃなく運転の才能もあるかもしれんな」


 初めてでここまで運転できたら才能ありだろう。


「ビシャも運転してみるか?」


 荷台に乗っているビシャに尋ねてみる。妹ができて姉ができないんでは威厳がーとか思ったらそんな感じでもなかった。


「あたしはいい。自分の脚で走るほうが好きだし」


 そう言うと荷台から飛び降り、先を走り出した。 


 姉妹でも性格は真逆なんだな~。

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