第252話 軍団

 厚焼き玉子をマスターしたら次は唐揚げか。


 その一つを極めんとする心意気は立派だと思うが、朝から唐揚げは胃にくるな~。三十になったら朝唐揚げはキツくなるんだろうか?


「タカトさん! 台所を区切ってください!」


 ミリエルの怒りはごもっとも。だからオレに八つ当たりしないで。


「わ、わかったよ」


 昨日、稼いでおいてよかった。中央ルームと台所を区切る壁と換気扇をつけられたよ。


「ミサロ。弾入れも頼むな」


「わかった。もう少しやったら弾入れするわ」


 集中はしているようで自分の役目は忘れてない。やるべきことはやっているから料理を止めろとも言えんのよね……。


「ほら、ミリエル。出発の時間だ」


 今日は第二陣をマルスの町に連れていかなくちゃならない。プリプリなミリエルを外に連れ出した。


 どうもミリエルとミサロは相性が悪い。二人がホームで話すことはなく、無言の時間が過ぎていると無口なラダリオンが言っていた。


 ……なんだろう。嫁姑の間に立たされている亭主の気持ちは? いや、イメージだけどさ……!


「タカトさん。ホームは三人が適度なんですから順番で使いましょう」


「そ、そうだな。順番で使おうな」


 もちろん、ミリエルとミサロが被らないようにしますね。


 パイオニア二台に分かれ、マルスの町へ出発する。


 第二陣は、ミリエル、ミシニー、ビシャ、ドワーフのロズとライゴの五人だ。


 参加したいと申し出てくる職員もいたが、今回は領主代理に献上するための作戦だ。兵士も向かうのだからゴブリン駆除ギルドの者は減らしておくへぎだろう。ミロイド砦もそう広くない。あの感じからして精々五十人しか滞在できないんじゃなかろうか?


 送り届けたら二号をホームに入れ、ミロイド砦に向かうのを見送った。


「──おじさん!」


 うおっ、びっくりした! 急に出てくんなや! 心臓止まるわ!


「またお前か」


 言わずと知れた徴税人だ。昨日はすぐ戻ったから存在を忘れていたよ。


「うん。おじさん、昨日はすぐ帰っちゃったから今日は近くで待ってたの」


 近くにいたんかい! まったく気がつかんかったわ! 隠遁の術の使い手か!


「ほら、オレは忙しいから時間を有意義に使え」


 銀貨三枚入れてやる。昨日と明日の分だ。だから明日は隠遁の術で近寄るんじゃないぞ。


「ありがとう、おじさん!」


 もらえるものをもらったら速やかに撤退する徴税人。なにか訓練でも受けているんだろうか? 引き際が見事であった……。


 なんとも言えない気持ちを抱いてパイオニアに乗り込み、街に向かった。


 前に馬車でやってきた道を通って街に向かっていると、昔領都だった廃墟から数十匹のゴブリンの気配を感じた。


「前はたくさんいたのにな。すっかりいなくなっちゃって」


 ロンダリオさんたちが駆除したときから増えてないのか。やはり、魔王軍がコラウスに潜入して破壊工作してたっぽいな。


 冬が近づいているからか、街には浮浪者的な者たちは少なくなっており、なんか火鉢みたいなもので暖を取っている者がちらほらといた。


「あれで冬を乗り越えるのか?」


 そうだったらゴブリン並みにスゲーな。オレなら次の日凍死しているぞ。


 冒険者ギルドに到着。横の広場にパイオニアを駐車させて降りたら十数人の徴税人に囲まれた。ど、どっから出てきた!?


「おじさん! お恵みを!」


 いつもの徴税人が言うと、他の徴税人たちがお恵みの大合唱。なんの集団カツアゲだよ!!


「お恵み以外の仕事ないのかよ」


 人から金を奪うことを教えるより稼ぐ力を教えてやれよ、クソ神が!


「冬はじっと堪えるしかないから」


「動くとお腹すくし」


「薪も高いから」


 なんの過酷自慢だ? 苦労自慢なら負けねーぞ。いや、子供相手にしないけどさ。


「ったく。ほら、神を罵りながら冬を乗り越えろ」


 銀貨を五枚、いつもの徴税人が持つ箱に入れてやった。


「あと、誰かこの乗り物を見張ってろ。駄賃に銅貨一枚やるから」


「任せて!」


 と、そこにいた徴税人どもがパイオニアを取り囲んだ。いや、一人でいいんだよ! 十人近くでやらなくていいんだよ! 893より悪どいな!


 今さら違うとも言えないので、徴税軍団にパイオニアを任せた。銅貨、ホームから取り寄せないと。


 そう思いながらも取り寄せたのはミスターなドーナツ。冒険者ギルドにくるのは久しぶりであり、新たなギルドマスターへの挨拶として手土産だ。


 冒険者ギルドも冬は閑散期となるので、職員の数は減っており、なんとも静かなものだった。


「どうもです。買い取りとギルドマスターへの挨拶、いいですか?」


 ミロンド砦で回収した魔石をカウンターに置いた。これはギルドの運営資金じゃなく、セフティー・ブレットの活動資金だ。いくらかは徴税人に奪われるけど!


「あ、あとこれ、手土産です。皆さんで食べてください」


 女性職員が音もなく現れてドーナツの箱を回収していった。笑っているけど、目が笑ってない表情をしながら。


「すまんな。女ども御せる者がいなくなって、わしらではどうにもできんのだ」


 シエイラですね。今はうちで職員を御してますよ。


「鑑定はやっておく。ギルドマスターなら二階の執務室だ。適当に上がってくれ。報告書を読んでいるはずだから」


「無用心ですね」


「元金印だ。本気で挑まなければ返り討ちだよ」


 そう言えば、サイルスさんもそんなこと言ってたっけ。まあ、敵対するわけじゃないんだから恐れる必要はないがな。


「じゃあ、失礼しますね」


 そう言って二階へ上がった。

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