第293話 ヤルベルオ亭

 白カブトが群れで現れた。


「ほんと、予定外のことばかり起きてくれるよ!」


 行商奴隷団と一戦あるかと思えばまさかの白カブトとの一戦。さらに五匹も現れやがった。オレ、不運すぎんだろう! 


「クソが! 熊鍋にしてやんぞ!」


 チートタイムを使いながら雪の上を移動し、一匹一匹に弾を食らわせていった。


「……こいつら、弱くないか……?」


 見た目は凶悪なのに、五発も食らわせてやると倒れてしまうのだ。エサがなくて弱っているのか?


「──タカト、無事か!」


 銃声を聞いたのか、カインゼルさんがスノーモービルでやってきた。


「無事です。白カブト──白熊に止めを刺してください」


 倒れはしたが、やはり絶命とまではいってない。弱いのかしぶといのかよくわからん生き物だよ。


「まさかモロが出るとはな。久しぶりに見たよ」


 この白カブト、モロと言い、本来は人前に出てこない大人しい魔物なんだとか。生息する場所も山の奥で、人がいる場所では滅多に下りてこないそうだ。


「木の実だけを食べたモロは美味いそうだぞ」


 へー。美味いんだ。なら、一匹はホームに運んでミサロに捌いてもらうとしようっと。


 残り五頭は伯爵に献上しようと思い、カインゼルさんに巨人を呼びにいってもらった。


 ラザニア村の巨人には、ゴブリンの死体を埋めてもらう穴を掘ってもらっているのだ。さすがに数が数なだけに油圧ショベルだけでは追いつかないんでな。


 やってきた二人の巨人にモロを運んでもらい、オレは警戒に戻った。


 二日ほど続けていると、気温がどんどん上昇していき、冬装備では汗をかくようになってきた。


「十五度とか、もう春じゃん」


 本当に冬なのかと思うくらいの気温である。この世界の冬、どうなってんだ? 


 十五度にもなると雪が解けるスピードが凄い。一メートルも積もっていた雪が二十センチくらいまでに解けてしまったよ。


「夏の雨と同じだ。そのうちまた寒くなって雪が降るだろう」


 この辺に住んでいる人たちには当たり前のことのようで、この暖かい期間の間に薪を集めようと森に入り、男たちは木を伐り、女たちは芽吹いた木の芽を摘んでいた。


「タカト。出発する」


「ああ。ライゴとマッシュもよろしく頼むな」


 アルズライズだけ先行してもらおうとしたが、雪解けが思った以上に早いので、ドワーフ二人にもついてもらうことにしたのだ。


 三人を見送ったら伯爵と最終打ち合わせ。行商奴隷団に備えてミリエルとメビには残ってもらうことにした。


 館の一室で減ったメンバーをどうしようかと悩んでいたら、サイルがやってきた。


「マスター。支部に銀印の冒険者、ロンダリオの隊がやってきました」


「ロンダリオ? って、マルスの町を拠点としていたロンダリオさんたちのことか?」


 なんか久しぶりに聞いたな。てか、なんでロンダリオさんたちがアシッカにくるんだ? 確か、暖かい地に移動してたんじゃなかったっけ?

 

「はい。なんでもマイヤー男爵領でマスターのことを耳にしてやってきたそうです」


 さすが冒険者。行動力が思い立ったが吉日レベル。予定とか計画とか立てないんだろうか?


 館を出て支部に向かうと、懐かしいメンバーが揃っていた。


「お久しぶりです」


 なんだか前より体格よくなってないか? 装備も請負員カードで買ったもののようで、身なりもよくなっているよ。


「ああ、久しぶりだ。見ない間に出世したようだ」


「面倒事が増えただけですよ。アシッカには仕事ですか?」


 さすがにオレに会いにきただけではないよな? それはそれで嬉しいけどさ。


「そうと言えばそうだな。ゴブリン狩りに混ぜてもらおうと思ってやってきた」


 なんの偶然だ? それともダメ女神の陰謀か? 都合よすぎる展開だろう──とは言え、ロンダリオさんたちが加わってくれるなら助かる。個人としてもチームとしても優秀だからな。


「それはありがたいです。人手不足でどうしようかと思ってたんですよ。出発はもう少し雪が解けてからと考えているので宿で待っててもらえますか? 宿代と酒代はこちらで持ちますんで」


 酒場兼宿屋にはギルドから食料と酒を卸しているし、職員の宿舎にもしてある。昔はアシッカでも一番のところで部屋は十五部屋もあり、サウナがついていたとカインゼルさんが言ってたよ。


 酒場兼宿屋、ヤルベルオ亭は、ほぼうちの傘下になったようなもの。支払いは一括にできるんだからギルド持ちにしても構わないさ。


「それは助かる。冬になって稼ぎが減っていたんでな」


「あ、ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットに入ってもらえますか? うちは冒険者ギルドと重複登録が可能なので」


 請負員にはしてるが、ギルド員とはしていない。これを機にギルドに入ってもらうとしよう。


「なにか決まりはあるのか?」


「まあ、ギルドに恥じない行動をしてくれれば構いませんよ。人が増えたらいろいろ決まりを創らなくちゃいけませんけどね」


 ルールとか決めてる時間がないし、ダメ女神も特にルールを定めてない。周りに迷惑をかけないようにしてくれたらいいさ。


「わかった。ギルドに入ろう」


 ってことで、ロンダリオさんたちがゴブリン駆除ギルドに入りました~。


 さて。本格的にマイセンズにいく計画を立てるか。


 また館に戻り、伯爵やミリエルと計画を詰めることにした。



                第六章 終わり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る