第193話 とらぬ狸の皮算用
気温が完全に秋のものとなり、麦の刈り入れが始まった。
「結構人がいるもんなんだな」
麦の刈り入れにたくさんの人が現れ、とてもゴブリン駆除をしている状況ではなくなってしまった。
「村総出でやるからな。町や冒険者も駆り出されるよ」
この時代じゃ刈り入れは総力戦となるのか。機械がないと大変だな。
「さて。どうするかね?」
人がたくさん現れたことでゴブリンどもも逃げてしまった。オレらも山に向かったほうがいいかな?
「なら、ミランド峠にいかないか? たくさんいたんだろう?」
と、ミシニーが提言。ミランド峠か。今は川を渡ってミスリムの町の手前だから一時間くらいでいけるな。
「ミリエル。運転交代だ。これにミランド峠にいくことを書いてくれ」
一応、定期的に自分らの状況を教えるためにオレとラダリオンが休憩時に戻り、カインゼルさんはホームからオヤツを取り寄せて知らせる、ってことにしたのだ。
カインゼルさんの状況はわからないが、休憩時に取り寄せなかったらなにかあったと判断して助けにいくことにしてある。毎日ミーティングをして互いの位置を教え合っているから一時間くらいでいけるはずだ。
「タカトさん、わたしも銃を使っていいですか? 人がいないならライフルを使ってもいいですよね?」
「いきなりライフルは危ないからAPC9からな。慣れたらライフルだ」
まだ脚の筋肉もついてないし、銃はグロックだけしか撃ってない。少しずつ慣れていくほうがいい。オレだってMP9から使っていったし。
「……わかりました……」
「そうがっかりするな。と言うか、ミリエルって攻撃魔法は使えないのか?」
凄い回復魔法を使えるんだから攻撃魔法も使えるんじゃないの? 超回復で肉体破壊とか?
「……眠りの魔法なら使えます……」
「眠り? どのくらいの威力だ?」
「半径五メートル内ならすぐに眠らせられます」
いやそれ、もう攻撃だよ。って、両脚をなくしても生き残れた理由はそれか? 確実に凶悪仕様だろう、それ?
「よし。ゴブリンで検証してみよう。その眠りがゴブリンに効けば有効に使えるぞ」
「有効、ですか?」
「ああ。ゴブリンを生け捕りにできれば訓練に使えるし、的にもなる。なにより、売ることができる」
「売る?」
疑問符の花を頭に咲かせる二人。まあ、理解できないのも無理もないわな。
「権力者を請負員にしたときゴブリンを売るんだよ。権力者はそう簡単にゴブリン駆除には出かけられない。そのとき銅貨十枚くらいで売るのさ」
「ゴブリン一匹に銅貨十枚? 出すものなのか?」
懐疑的なミシニー。
「自分で言ったろう。不味い料理には戻れないって。一度頭に刻まれた味は忘れられない。また求めてしまうものだ。高い金を払ってもな」
本当ならこの世界の料理を食い、この世界にある武器を使うことが正しいのだろうが、ゴブリンを駆除できたら元の世界の料理を食えるのだ。わざわざ捨てるバカがどこにいる? 少なくともオレには捨てられないぞ。
「領主代理を請負員にしてゴブリンを売りつける」
ギルドマスターが請負員になってるじゃん。っておっしゃる方もいるだろう。だが、立場的にゴブリン駆除ばかりやってられないはずだ。そんな立場で甘いもの好きと酒好きを満たしてやれるか? 菓子と酒だけで満足してられるか? 無理だと断言できる。必ず他のものにも手を出すさ。
「まあ、オレたちも捕獲ばかりしてられない。となると、ゴブリンを捕獲するために冒険者に依頼するだろう。その流れができたらゴブリンは減るはずだ」
思惑は他にもある。が、少なくともコラウスからゴブリンは減る。オレらが領外に出ても領主代理から文句を言われることもないはずだ。
「……タカトは変なこと考えるんだな……」
「将来に備えて布石を打ってるだけだ。コラウスはいろいろ問題を抱えているからな。最低でも領主代理はこちらの味方にしておく必要があるんだよ」
あの人なら請負員カードで買ったものを政治利用するはずだ。まあ、どう使うかまではオレには想像できんが、やるとだけは断言できる。あの人は手段を有効に利用するタイプっぽいからな。
「怖いな、タカトは。わたしは、ギルドマスターと張り合おうとか思いもしないぞ」
「張り合おうとは思わないよ。味方に引き込もうとしてるだけだ」
あんな敵にしちゃダメな夫婦と張り合うとか、それこそ思いもしないよ。
「ハァ~。やっぱりお前はとんでもないよ」
「オレは極々普通の凡人だよ」
「極々普通の凡人はそんなこと考えるか。そう言うのは頭のいいヤツが考えることで、度胸があるヤツがやることだ」
「臆病者が必死に考えて、死の恐怖に怯えている弱者がやってることだよ」
頭がよくて度胸があるならもっと違う戦い方してるよ。できないから姑息な手を使わずを得ないのだ。
「まあ、それもミリエルの眠りの魔法がどれほどのものか次第だな」
とらぬ狸の皮算用。まずはゴブリンを眠らせることができてからだ。
ホームに連絡用紙に置きに戻り、ミリエルと運転を代わってミランド峠に向かった。眠りの魔法が上手くいきますようにと願いながら。
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