第194話 狂乱

 ミランド峠に向かって走っていると、前方に馬車が見えた。


「隊商か?」


「いや、冒険者ギルドの馬車だな。おそらく確認のためにライダンドにいくんだろう」


「ギルドはそんなことまでするんだ。本来、コラウス辺境伯の領分だろうに」


 できる領主代理ができないって、どんだけ問題を含んでいるんだ? それだけ領主の力が強いってことなのか? 


 こちらに気がついた冒険者が騒然とした感じで警戒し始め、オレらも無用な争いを避けるために速度を落として近づいていく。


「冒険者のミシニーだ! 悪いが先をいかせてもらうぞ!」


 と、ミシニーが叫ぶと警戒が解けた。知り合いか?


「ミシニーか。最近見ないと思ってたが、ゴブリン殺しといたのか」


 あれ? オレの顔、知られてるの? 


「ああ。セフティーブレットってゴブリン駆除ギルドに入ったんだよ。お前たちはライダンドにか?」


「まーな。銀貨三枚のやっすい仕事だ」


 いって帰ってくるだけで銀貨三枚なら美味しいんじゃなの? なにかあったらどうかは知らないけど。


「わたしらはキャンプ地でゴブリン狩りだ。ロースランが出たら退治しておくよ。タカト」


 了解と、馬車を追い越してキャンプ地に向かった。


 三十分くらいで到着。数日前とこれと言って変化なし。ただ、ゴブリンはさらに集まっている感じだった。


「群れでもできたか?」


 何ヶ所かにゴブリンが集まり、大小様々な気配を感じた。


「ミリエル。パイオニアはホームに入れてくれ。ミシニー。西側の山、ロースランが巣にしていたところに二十匹くらい潜んでいる。静かに駆除してくれ」


「任せろ──」


 風のように走り出し、あっと言う間に木々の中へ消えてしまった。そして、すぐにゴブリンの気配が消えていき、三万ちょっとの報酬が入った。


「いい商売だ」


 なにもしてないのに三万円が入る。これに溺れたらオレはきっとダメになるだろうな。


「ふふ。これで五万円のワインが飲める」


 稼いだ金を酒に溶かす女。酒で人生を終了させるなよ。


「さっきの冒険者の邪魔にならないよう川にいこうか」


 ミリエルが出てきたら川に向かい、少し下流に向かったら十時の休憩することにする。


 ホームに戻ると、少し遅れてラダリオンも入ってきた。


「ラダリオン。オレらはミランド峠に移った。今日はそこで駆除をするよ」


「あたしたちは三キロくらい山に入った。ゴブリンはまだ駆除してない。肉撒いていい?」


「いや、今呼ぶと大量に駆除できないから止めておけ。マルグは大丈夫か?」


「大丈夫。元気」


 状況を話し合い、タブレットで処理肉を五十キロ買った。


「そっちはたくさんいるの?」


「五百匹はいるな。集めていっきに駆除するよ。あと、ミリエルが眠りの魔法を使えるみたいだから五匹くらい持ち帰る。少し早目に終了させてゴルグに檻を作ってくれるよう伝えてくれ」


「わかった」


 処理肉十キロだけ持って外に。川向こうに運んでばら蒔いた。


「誘き寄せるのか?」


「ああ。わざわざ探し回るのも面倒だしな。あちらからきてもらうとしよう」


 秋だからエサは豊富にあるだろうが、ゴブリンは肉を好む。きっと臭いに釣られてやってくるはずだ。


 缶コーヒーを飲みながら待っていると、ゴブリンが処理肉の臭いに気がついたようで動き出した。


「ミリエル。APC9を用意しろ。きたぞ。ミシニーは背後を頼む」


 処理肉を取り寄せ、十キロ分を川向こうに投げ放ち、十キロ分を周囲にばら蒔いてオレらの臭いを消した。


「マガジンは地面に放り投げていい。ゴブリンを駆除することに集中しろ。オレとミシニーで援護するから」


「眠らせなくていいんですか?」


「狂乱してからにしよう。持ち帰るのは五匹くらいでいいからな」


 しばらくして数匹のゴブリンが川向こうに現れ、処理肉に飛びついて一心不乱に食い出した。


「まだ撃つな。狂乱してからだ」


 狂乱したときの臭いがまだしない。その臭いを放てば次から次へと集まってきてくれる。ミシニーがいなくちゃできない作戦だ。


「ミシニー。左右からもくる。オレが合図を出すまで攻撃するなよ。より多くゴブリンを引き寄せるから」


「了解」


 処理肉しか見えてないのかオレたちなど構わず、ばら蒔いた処理肉に飛びつき、争いながら食らいついている。


「臭ってきたな」


「……タ、タカトさん、臭いです……」


「こりゃたまらんな」


 この臭いにも耐性があるのか、オレはそこまでではないが、ミリエルやミシニーは凄く嫌な顔をして鼻を押さえていた。


「防毒マスクをしろ」


 リュックサックから防毒マスクを出させて装着させ、オレは普通のマスクをする。防毒マスクだと声が隠るんでな。


「よし。もういいだろう。ミリエルは川向こうのゴブリンを撃て。オレが支援するから外れても気にするな。ミシニーは左右を頼む」


「わ、わかりました」


「任せろ」


 二人が頷くのを見て、オレも頷く。


「よし、撃て!」


 ミリエルが背負うリュックサックを支え、合図を出した。


「はい!」


 APC9を構えたミリエルが連射で撃つ。


 畑ではあまり当てられなかったが、これだけ密集し、十メートルの距離しかないのだから外すほうが奇跡。三十発で四匹は殺すことができた。


「マガジン交換。撃って撃って撃ちまくれ!」


 まさに銃は数撃ちゃ当たるだ。


 反動に慣れたようで、オレが支えなくても問題ないと判断してオレもスコーピオンを構えてゴブリンに向けて弾丸を放った。


「ミシニー! 下流から団体さんのお出ましだ!」


 五十匹近い群れが迫ってくるのを感じた。


「わたしに任せろ! 上流は任せた!」


「了ー解!」


 マガジンを交換。上流に銃口を向けて引き金を引いた。


「クソったれども! オレたちの糧になるがいい!」


 オレも狂乱になってゴブリンどもを撃って撃って撃ちまくった。

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