第61話 冒険者ギルドへ

 結局、二日ほどセフティーホームに閉じ籠ってしまった。


「……さすがにウイスキー三本は飲みすぎたな……」


 一昨日は完全にグロッキーで、昨日はユニットバスを占領してラダリオンに怒られた。しょうがないからと四十万円使って新たにトイレを増設してしまったよ。


「外の空気が美味い」


 ゴブリンの腐臭もなく木々の香りが濁った肝臓を清浄にしてくれるかのようだ。


「マグルは毎日スリングショットの練習をしているようだな」


 いつの間にか射撃場的なところができており、いろんな標的が並べられていた。


 今はまだ八時なのでマグルや奥様連中はきてない。ゴルグたちも今くらいの時間から働くようだ。


「ラダリオン。ゴルグのところに頼む」


 巨人の村にいくときはラダリオンに抱えてもらわないと潰されるおそれがある。安全第一。恥は二の次。三四がなくて身の安全である。


「あ、師匠!」


 村の入口近くまできたらマグルが駆けてきた。


「おはようさん。すまんな、放っておいて」


 ダメな師匠でごめんよ。


「ううん! スリングショットが楽しいから大丈夫!」


「そうか。またしばらく放っておくことになるが、百発百中になれるように練習しとけ」


「うん、わかった!」


 元気に駆けていくマグルを見送ってから村へ入った。


 ゴルグのうちにいくと、なにやらゲッソリした男がテーブルに突っ伏していた。どうしたい?


「連日連夜ゴブリンの探索だよ。あの数のゴブリンがいたんだからね」


 ゴルグに代わりロミーが説明してくれた。


「それで、いたのかい?」


 オレの探知には入っているが、四十匹もいない。脅威とはならない数だ。


「そんなにいないみたいだね。けど、数が数なだけにしばらくは警戒することになったんだよ」


「そうか。まあ、村が決めたことだ。がんばってくれ。ゴブリンはどこからともなく集まってくるからな」


「……だからゴブリン狩りは面倒なんだ……」


 なんだ、起きてたのか。


「まあ、稼げたんだからいいじゃないか。カードみせてみ」


 ゴルグからカードを受けとると、三百七十万円は入っていた。一財産だな。


「疲れてるようだから詳しい説明は今度にしたほうがいいな。ラダリオン。ワインを出してやってくれ」


 アポートポーチをラダリオンに持たせていて、セフティーホームからワインを引き寄せた。


「村の連中に飲ませてやりな。女衆のはうちに置いてあるから好きに飲み食いしてくれ」


 激励の意味を込めてワインを三十本ばかり出してやった。


「梅酒も出してくれたのかい?」


「ああ。多めに出しておいた。二日酔いにならないていどに飲むといい」


 なんて、二日酔いでゲロってたオレのセリフじゃないけどな。


「またしばらくゴブリン駆除に出かけてくるからうちを頼むよ」


「長くなりそうかい?」


「うーん。七日くらいで戻ってこようとは思うが、状況次第だな。冒険者ギルドから無茶な依頼を出されたら帰ってこれないかもしれんし」


「わかった。任せておきな」


 ロミーと子供たちに見送られて村を出た。


 しばらくしたら一度セフティーホームへ戻り、装備を整えることにする。


 二日酔いでなにもできずにいたので、すぐに装備できるのはショットガンかSCARだな。まあ、今日は二人だし、オレがショットガンのKSGでラダリオンにはSCAR−Lを装備してもらおう。


 アポートポーチはオレがしてラダリオンにはリュックサックを背負ってもらう。


 女の子に、とは言わんでくれ。リュックサックの中身はほとんどが食料。ラダリオンのものがほとんどなんだからラダリオンが持つのは当然だろう。


 最後にポンチョを纏い外に出た。


 青々と育った麦畑を眺めながらしばらく歩くと、ゴブリンの気配がちらほらと感じ取れた。


「まだ実もなってないだろうに、なにを食ってんだ?」


「たぶん、ネズミだと思う」


「ネズミ? ゴブリンはネズミを食うのか?」


「ロミーが言ってた。ゴブリンは厄介だけど、畑のネズミを食ってくれるって」


 へー。ゴブリンが役に立つこともあるんだ。とは言え、痛し痒しってところだろうな。ゴブリンが大人しくネズミだけ食っているとは思えない。野菜だって食ってるはずだ。


「駆除する?」


「いや、止めておこう。今日は冒険者ギルドにいくことが目的だしな」


 まだ完全に酒が抜けてないし、やる気もない。ましてや街まで十キロ近くある。体力も時間も浪費してられないよ。


 街に近づくにつれて人の往来が多くなり、臭いもキツくなってきた。


「ラダリオン、大丈夫か? 酷いなら街の外で待ってていいんだぞ」


 少し前から四千円もするフィルターつきのマスクをつけさせたが、嗅覚が優れたラダリオンにはそれでも辛かろうよ。


「……大丈夫。タカトといく……」


 辛そうではあるが、一人は嫌みたいでついてくることを選んだ。


 そうかと返事して街の門を潜った。


 人の多さに不安になったのか、ラダリオンがポンチョを握り出した。


 まさか手を繋いでも恥ずかしいのでそのまま進むと、また教会の前で募金の呼びかけをしていた。日課か?


「あ、おじさん!」


 シレッと通りすぎようとしたら以前募金した子供に見つかってしまった。クソ。


 見つかってそのまま無視する度胸もなし。しょうがないのでまた銀貨一枚を箱に入れてやった。


「ありがとう!」


「気まぐれだ。礼はいらない」


 募金したからには罪悪感はない。堂々と立ち去った。


「前もしたの?」


 ポンチョを引っ張られてラダリオンに尋ねられた。なんか怒ってない?


「冒険者ギルドから帰るときな。ああ言うことされてると素通りできないんでな」


 ほんと、子供にやらせるとか卑怯だよな。大人がしてたら堂々と通りすぎてやるのによ。


「……そう……」


「どうかしたか?」


「なんでもない」


 なんでもない口調ではないと思うのだが、追及するのは不味いってことは理解できた。


 そうかと軽く流して冒険者ギルドへと入った。

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