第62話 ギルドマスター

 冒険者ギルドは今日も混雑していた。


 いったいどれだけの仕事があるのやら。こんなに混雑するなら冒険者ギルドと仕事紹介は分けたほうがいいんじゃね?


 まあ、行政改革は辺境伯のお仕事。がんばってください、だ。


 シエイラを探すと、誰も並んでないカウンターにいた。なんの係だ?


 オレに気がついたシエイラがカウンターから出てきた。


「やっときてくれましたか。待ってましたよ」


「こちらもいろいろあってな。準冒険者になりにきた。登録してくれ」


 あまりこの埃っぽいところにはいたくないんでな。


「こちらにきてください。ギルドマスターがお話があるそうです」


 この人、ほんとせっかちだよな。よく受付やってるよ。それともこちらを舐めてんだろうか?


 引っ張ろうとする手を振り払った。


「そう言うの止めてもらえるか。そちらの都合をこちらに押しつけないでくれ。用があるならまず説明しろ。急ぎなら特にな」


 辺境伯と関係あるギルドマスターと無闇に争うつもりはないが、礼儀を弁えないヤツと仲良くするつもりはない。ここで毅然としておかないとなし崩しに面倒事を押しつけられる。


 シエイラから少し離れる。


「……し、失礼しました」


「気をつけてくれるならこれ以上言うつもりはない」


 相手が謝ったらすぐに許す。無駄に恨まれたくないからな。


「ラザニア村に現れたゴブリンのことでギルドマスターがお話を聞きたいそうです。ギルドマスターの部屋までお越しくださいますか?」


 やればできるんじゃないか。テンパるとダメなタイプか?


「わかりました。お伺いしましょう」


 こちらですと案内され、前にきたときと同じく二階へと上がった。


「あの、そちらの子は?」


「相棒です。一緒にゴブリン駆除をやっています」


 そう答えると黙ってしまった。まあ、ここで訊くことじゃないと思ったんだろう。基本、優秀なんだろうな。


「ギルドマスター。タカトさんがいらっしゃいました」


「ああ、入ってくれ」


 部屋に入ると、ギルドマスターが書類(羊皮紙)の山に囲まれていた。どの世界もトップは書類と格闘するもんなんだな。偉くなるもんじゃないな。


「すまない。もう少し待ってくれ。急ぎのがあるんでな」


「わかりました。適当に待ってます」


 十キロも歩いて疲れた。ギルドマスターが一息つくまでこちらは先に一息させてもらいましょう。


 アポートポーチからお茶のペットボトルを取り出して一服。ラダリオンはリュックサックから二リットルのミルクティーを出して一服した。


「随分と甘い匂いがするな」


「すみません。邪魔になりましたか?」


「いや、いい匂いだ。なんなんだ?」


 書類(羊皮紙)の山から顔を出すギルドマスター。甘党か?


「ミルクティーと言うものです。興味があるなら飲んでみますか? かなり甘いですよ」


「甘いのは歓迎だ。おれは甘党なんでな」


 本当に甘党かよ。見た目は酒豪って感じなのにな。


 ラダリオン用に買ってある五百ミリリットルのミルクティーを取り出し、封を切ってギルドマスターへと渡した。


「不思議な容器だな?」


「とある国で開発されたものらしいですよ。どう作ってるかまでは知りませんが」


 工場で働いていたが、ペットボトルは造ってなかったのでわかりません。


「美味いな、これ」


「一本銅貨二枚で売りますよ。あと五本ありますから」


「よし買った」


 即決かよ。どんだけ気に入ったんだよ?


 ミルクティーを五本出し、銅貨十枚をもらった。


「十五日以内に飲んでください。ゴブリン駆除員が買えるものは十五日以上過ぎると消えてしまうんで」


「……魔法か……?」


「ええ。物が物だけに転売されないためにかけられています」


 あれ出せこれ出せとか言われるのも嫌なので先に言っておく。どうせいずれバレるんだろうからな。


「十五日か。長いようで短いな」


 確かに長いようで短い。まだ大丈夫と思ってたら消えてました、ってことを何度も経験したよ。ラダリオンに買ったショットガンも消えてました。七万円もしたのに……。


「まあ、すぐに消費するものなら融通しますよ。ここにきたときに、ですが」


「そのときは頼むよ。このミルクティー、凄く気に入ったからな」


 糖尿には気をつけてくださいよ。 


「それで、仕事は一段落つきましたか?」


「ああ。ラザニア村にゴブリンが大量発生したようだな。どう言う状況だ?

タカトが関わっていると聞いたが」


「ラザニア村に住むゴルグと言う男にゴブリン駆除の請負いをお願いしたので、試しにと落とし穴を作ってエサで呼び寄せたら大量に集まりました。これはオレの推測ですが、ゴブリンはエサがあると興奮し臭いを出して、仲間を呼び寄せるのではないでしょうか? 前も似たようなことがありましたから」


「……確かにそんなウワサを聞いたことがある……」


 あったんだ。まあ、何百年とゴブリンに苦しめられていればそのくらいの仮説を立てるヤツはいるか。


「ゴブリンは集めずこまめに狩るのが一番ですね」


「わかっていてもできないのが現状だ。ゴブリン退治は手間ばかりかかるものだからな」


 ハァーと長いため息を漏らした。相当苦労しているようだ。


「オレたちがやりますんでゴブリンの情報をいただけると幸いです。あと、畑で狩るときゴブリンの死体を集める人材を手配してくれると助かります。殺して放置は不味いでしょうからね」


 ゴブリンの死体から疫病が~とか言われたら面倒だからな。


「それならいくらでも人を集められるさ。日雇い人は余るくらいいるからな」


 あれだけ混雑してるのに仕事がない者がいるんだ。あ、浮浪者っぽいのも多かったっけな。


「ゴブリンが多く出没するところはありますか? これからいってみますんで」


「それは助かる。ロブル地区にゴブリンが出て困っていたのだ。今地図を用意する」


 と、すぐに地図を用意して教えてくれた。

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