第63話 バズ村

 街を中心として見たとき、ロブル地区は西にあるようだ。


 その西にはマルスの町があり、五つある地区の一つがロブル地区なんだとさ。


 ちなみにラザニア村は北東の位置にあり、住所的にはミスリムの町ラング地区ラザニア村になるそうだ。


 町と街の間は大体十キロは離れており、歩いていける距離ではあるが、辻馬車がこまめに往来してるとか。運賃は片道銅貨三枚。往復切符を買うと銅貨五枚に安くなるそうだ。


 他にもコラウス辺境伯のゴブリン事情を聞いていると、ロブル地区までの案内人がやってきた。


 三十半ばの男で、力仕事よりは事務仕事がメインの見た目だった。


「ルスル。忙しいところ呼び出して悪いな。すまないが、こちらのタカトと……」


「相棒のラダリオンです」


 紹介してなかったね。失礼。


「ラダリオンをロブル地区まで案内してくれるか。二人はゴブリン狩り専門でな、準冒険者として登録してもらった。ギルドとしてはありがたい話なんで協力することにした。マルスの町としても二人に協力してくれ」


「ゴブリン狩りの専門ですか。随分と殊勝なことをしてますな」


「大魔法使いだった創設者がゴブリンに深い恨みのある人でして、資産を投げ打ってゴブリン駆除業を立ち上げたと聞いております」


 と言う設定でやっております。


「……そうですか。真偽はともかくゴブリンを狩っていただけるのならこちらとしても助かります」


「このように堅いヤツだが、頼りにはなる。人手が欲しいときはマルスの町の冒険者ギルド支部を訪ねるといい」


 つまり、人はそっちで調達しろってことね。了解です。


「タカトです。よろしくお願いします」


 席を立ち、ルスルさんに軽く一礼した。


「マルスの町の冒険者ギルド支部で支部長補佐をしておるルスルです。こちらこそよろしくお願いします」


 右手を胸に当てて一礼した。


「すぐ発ちますが大丈夫でしょうか?」


「はい。問題ありません」


 ってことで冒険者ギルドの裏に向かうと、箱馬車とたくさんの人を乗せた荷馬車が三台止まっていた。


「空いている荷馬車に乗ってください。すぐに出発しますので」


 詳しい説明はないが、こちらも説明を受けたいわけでもない。空いている荷馬車へ乗り込んだ。


 オレたちが乗り込むとすぐに出発。数日前にここにきたときの門から街を出た。


 あーこの道歩いたな~と思いながら流れる風景を眺めていると、茂みにゴブリンが隠れる気配がした。


 前は気づかなかったが、確かにこちらのほうがゴブリンの気配が多いな。なんでだ?


 途中から道を曲がり、しばらく風景を眺めながらゴブリンの気配を感じていたら遺跡が現れた。


 いや、廃墟か? 長いこと放置されているようで草木が生い茂り、ゴブリンの気配があちらこちらにあるのがわかった。


 ここがロブル地区か? と思ったが、荷馬車が止まることはない。廃墟の中を通りすぎ、荷馬車が止まった。なんだ?


 乗っているヤツらも荷馬車に止まったことにざわついていおり、しばらくするとルスルさんがやってきた。


「ここからはこのバイスがロブル地区にまで案内します。バイスはロブル地区のバズ村出身なので村長に話を通させますので、なにかあればバイスをわたしのところへ遣わせてください」


 直接いってくれるわけではないのか。まあ、今日は冒険者ギルドにいくことが目的だから移動日にしても構わんか。


「わかりました。運んでくださりありがとうございました」


 荷馬車から降り、ルスルさんに礼を言った。


「途中までで申し訳ありません。こちらも人を運ばないといけませんので」


 気にせずと答え、ここでルスルさんと別れた。


 馬車をしばらく見送り、案内人のバイスさんを見た。


 革の上着に剣を持ってることからして荷馬車に乗っていた男たちとは同種ではなく、冒険者ギルドの一員なんだろう。


「タカトです。こちらはラダリオン。案内、お願いします」


「ギルド職員のバイスです。こちらこそよろしくお願いします」


 お互い軽い自己紹介をしてバズ村へと歩き出した。


「バイスさん。先ほどの廃墟はなんなんですか?」


 気になっていたことを尋ねてみた。


「昔の領都です。二百年前に魔物の軍勢に襲われたそうで、取り壊すこともできずに放置され、ゴブリンの棲み家になってしまったんです」


 定期的に冒険者を入れて排除はしているが、草木が複雑に生えすぎて思うように排除できてないとのこと。ちなみに先ほどの男たちは炭鉱員だってさ。


「鉱山にもゴブリンが現れるので本当に困っていますよ。あいつら、食料庫を漁ったり残飯を漁ったりとやりたい放題。輸送員であるおれもよく駆り出されます」


 ほんと、ゴブリン駆除に予算と人手を出せよ。取り返せるうちによ。


 三十分くらい歩くと葡萄畑に出た。


「ここ、葡萄が有名なんですか?」


 かなり広範囲に葡萄畑が広がっている。ここで消費する広さではないぞ。


「有名とまでは言えませんが、近隣の領地には出してますね。まあ、ここにもゴブリンが出て困っていますよ。できれば秋の収穫までに減らしてもらえると助かります」


 畑にはいないようだが、先ほどの廃墟にはかなりの数がいた。完全にあそこを棲み家にしてる感じだな。


 また三十分くらい歩くとバズ村が見えてきた。


 柵に覆われた二百人規模の村のようで、木造の家が密集するように建てられていた。


「随分と密集してるんですね」


「ゴブリンに子供が拐われたりするので家で囲んで、中央で遊ばせているんです」


 へー。そんなことして子供を守り育てているんだ。


「ここには宿屋がないんですが、泊まるなら村長に話を通しますが」


「いえ、ゴブリンを駆除しながら移動しますので大丈夫です。まずは畑に潜んでいるゴブリンを駆除しつつ廃墟に向かってみます。ゴブリンはそのままにしていくので片付けは村の方にお願いしてもらっていいですか?」


「そのくらいでしたら問題ありません。ゴブリンがいなくなるのならそのくらいお安いご用ですよ」


 了承を得て村長のところに向かい、オレたちのことを紹介してくれ、ゴブリン駆除にきたことを説明してくれた。


「ゴブリン駆除にうるさい音を立てますので村の方々にお伝えください」


「わかりました。ゴブリン狩り、よろしくお願いします」


 バイスさんのお陰で話はすんなり通り、まずは畑のゴブリン駆除をすることにした。

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