第478話 ボックスロッカー

 変な時間に起きてしまった。


「十八時か。なんかオレ、酔いに強くなってないか?」


 アルコール度数が四十三もあるような酒を半分近く飲んで二日酔いにもなってない。まさか指輪にエネルギーを持っていかれているのか?


「……腹も空いているな……」


 まあ、丸一日食べてないしな。腹が減るのは当然か。


 館の部屋からホームに入った。


「あ、タカトさん。二日酔いでしたか?」


 中央ルームには全員揃っており、食事しているところだった。


「いや、ダメ女神が還ってきたせいでふて寝していたよ。皆には伝わってなかったか?」


 確かダメ女神の声は伝わるんじゃなかったっけ?


「女神様がですか!?」


「伝わってない」


「わたしも」


 ダメ女神の胸三寸かい。相変わらずクソな女神だよ。


 伝わってないのならダメ女神から言われたことを皆に伝えた。


「あ、あそこに変な扉ができていたのはそのせいなのね」


 中央ルームと玄関に通じるところにコインロッカーくらいの扉ができていた。


「あそこから魔王と戦う人のホームに繋がっているそうだ。そこに魔石を入れたらバッテリーに魔力充填とマナックを造ってもらうよ」


 その説明はされているみたいだが、一応、手紙を書いて入れておこう。意志疎通は大切だからな。


 とりあえず食事をする。料理を前にしたら腹の虫が号泣し始めたんでな。


「……凄く食べるわね……」


「昔のラダリオンみたいです」


 食べる手が止まらない。そして、いつまで経っても空腹が収まらない。以前のラダリオンはこんな感じだったのか? こんな感じがずっと続いているとか地獄でしかないな。


「巨人になれる弊害がこれか」


 弊害しかない力ばかり寄越しやがるダメ女神だよ。


 ただ、チートタイムより巨人になれるほうがデメリットは少ないだろう。使えば使うほど体に負担をかけるものより食費が嵩むほうがマシだ。今なら食費は十二分に稼げるしな。


「ミサロ。料理を作るのが大変なときはまたビュッフェを買ってくれ。酒がついているのを」


 今度はスコッチやバーボンにも挑戦してみたいです。


「わかったわ。どんなビュッフェを買ってみるわ。いろんな料理があるか知りたいしね」


 我が酒コレクションが賑やかになる予感。ムフフ。


 食事が終われば使わない魔石を段ボールに詰めてコインロッカー──ボックスロッカーに入れ、自己紹介の手紙とバッテリー充填、マナックを造くる部屋をお願いした。あと、お近づきの印として缶ビールを六本入れた。


 ボックスロッカーの扉を閉めると、赤ランプが灯った。こちら側から入れましたって意味だ。あちら側では緑ランプが灯っているはずだ。


「え? もう開かれた?」


 閉めて三秒もしないのに赤ランプが消えてしまった。


 しばらく茫然としていたら緑ランプに切り替わった。なにか入れられた?

 

 扉を開くと、中に手紙が一枚。取り出してみると、魔王と戦う人──山崎某さんからのものだった。


 内容はダメ女神から説明を受けたこと、バッテリー充填とマナック製作の了承。余った魔石は別のことにも使っていいかとのことだった。


 売る用の魔石は外してあるし、あまり大量に放出することもできないのだから問題ないことを紙に書いた。あと、オレがどこの国にいて、大まかな地図を描いてボックスロッカーに入れた。


 しばらくしてあちらからも手紙が届いた。


「アルティア王国か。ミリエル、知っているか?」


「わたしが知っているわ」


 と、ミサロが答えた。


「この国と海を挟んだ国よ。ただ、その海には十六将が一人、歌姫のカタリーナが支配しているわ」


 将なのに歌姫? 人魚でもいるのか?


「艦隊を率いた将軍よ。間にある島を支配して交易船を襲っているのよ」


 この世界、交易船とか艦隊とかある発展レベルなのか?


「グロゴールに襲われなかったのか?」


 アルズライズの島が襲われたのならその島だって襲われた可能性はある。


「襲われたわ。危うく壊滅させられそうになったけど、歌姫が追い返したって話ね。どう追い返したかまでは知らないけど」


 歌と言っているなら音による攻撃だろう。ミサロだって魔笛を使ってゴブリンを操っていたんだから、そういう攻撃もあるんだろうさ。


「タカトさん。またなにか入れられたみたいですよ」


 ミリエルに言われてみれば緑ランプが灯っていた。なんじゃい?


 開いてみたらオレンジ色の果物? が入っていた。


「ラミー? って果物らしいな。アルティア王国で生るものみたいだ。ビールのお返しかな?」


 食べてくださいとのことなので皆でいただくことにした。


「これはあれだ。味の薄い桃だな」


 見た目はマンゴーっぽいが、味は桃だ。品種改良したら人気になるだろうよ。


「あちらは、タブレットを使えないみたいだな」


 発展性のあるホームのようだが、元の世界のものを使えないのは辛いよな。ビールが飲める毎日ってありがたいぜ。


「たまに酒でも送ってやるか」


 一千万円分の物資を渡したとは言え、あちらにも仲間がいるっぽい。日常品、消耗品、嗜好品と考えたら一千万円でも足りないだろうよ。


「ミサロ。なんか甘いものあるか?」


「もうお腹が空いたの?」


「ちょっと口が寂しいと言うか、小腹が空いたと言うか、指輪にエネルギーを持っていかれてる感じがするんだよ」 


 巨人になるの、どんだけエネルギーを必要とすんだよ? 


「じゃあ、ケーキ食べ放題を買いましょうか」


「賛成!」


 オレの代わりにラダリオンが答えた。まあ、いいけどさ。テーブルに乗らないほどのケーキが現れ、腹が満ちるまで食した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る