第437話 ホグルスゴブリン
腹も満ち、用も済ませたので出発する。
先頭は男爵の義兄さんとゴゴさん。二人はミントンカの兵士なんだそうだ。
だったらもうちょっと兵士らしい格好をしてもらいたいもんだ。どう見てもバーバリアンだよ。
オレは道を覚えるために二人から少し間をおいてあとに続いた。
往来があるようで道は踏み固められており、草も生えておらず凹凸も少ない。なんの道だ?
「ここはなにに使われる道なんです?」
幅は四十センチくらいで、馬車が通れる道ではない。歩いて往来しているんだろう。
「炭を運ぶ道だ。もう少しいくと別れ道に出る」
一キロ歩くとY字の別れ道に到着した。
「こちらにいけば炭焼き小屋がある」
「村から離れてて大丈夫なんですか?」
「魔物は煙の臭いを嫌って寄ってこない」
へーそうなんだ。さすがこんな森の中で生きているだけある。そういう知恵が身につくんだな~。
「ゴブリンは出ますか?」
隠れている気配はするが、人の前に姿を現すとなると警戒心が薄いかエサに困っているかだ。前者なら人間をナメてるし、後者ならそんなこと構ってられないほど飢餓に陥っているかだ。
「ああ、よく出るな。だが、すぐ逃げる」
やや前者、って感じか。気配もそう殺気立ってない。あー腹減った~ってくらいだな。
「やはり狩ったりはしないんですね」
「狩る意味があるのか?」
「数ヶ月前、アシッカを数千ものゴブリンに囲まれて滅びる一歩手前でしたよ。今も数百のゴブリンに囲まれています。エサが不足したらあるところに雪崩込みます。ミントンカは数千匹のゴブリンに囲まれて生き残れますか?」
単体では弱いし、バーバリアンな人たちには敵でもないだろうが、狂乱化した数千匹のゴブリンに囲まれたら閉じ籠るしかできない手はないだろうよ。ゲームのように無双なんて夢想でしかないよ。
「……無理だな……」
「冷静に物事が見れる人でよかった」
思考までバーバリアンだったら案内だけで止めていたよ。
「まあ、こちらとしてはありがたい限りですがね。集めるのが楽になりますし」
飢餓状態ではないにしろ、これだけの数がいれば簡単に誘い出せる。普段は少数行動のクセに狂乱化したら群れで行動するんだからな。
炭焼き小屋と違う道に進むと、完全な獣道状態。踏み固められてもおらず、凹凸も激しい。でも、人が通れるくらいに道があるってことはたまに西の地にいっているってことだ。やはりなにかあるのか?
何度か休憩しながら進んでいると、強いゴブリンの気配を感じた。
すぐにVHS−2を気配がするほうに向けた。
「マスター!?」
「どうした?」
騒ぐ周りを無視して強い気配に集中する。
この気配の強さ、並みのゴブリンじゃない。通常の五倍は強く感じる。上位種のホグルスゴブリンか?
ロンダリオさんたちと戦った赤い肌のゴブリン。去年のことなのにすっかり存在を忘れていたよ。
並みじゃないゴブリンの気配は一つ。その周りに気配が二倍くらいのが囲んでいる。確実に集団として、いや、軍勢として成り立っているな、これは。
あちらからこちらが見えているようで、様子を伺っている感じだ。
距離は三百メートルか? オレの腕では狙い撃ちは無理だな。まあ、リンクスを使えば何匹かは倒せるだろうが、無駄な情報を渡してしまう。今は手を出さないほうがいいだろうな。
あちらも自分らの存在がバレているのが理解できたのだろう。周りのゴブリンとともに山のほうに消えていった。走るのも速い。
銃口を下げ、安堵のため息を吐いた。
「マスター、どうしたんですか?」
「ホグルスゴブリンが率いるゴブリンの群れがいた。なかなか統率が取れていたところをみると、一部隊を率いた斥候、と言ったところだろうな」
遠くからこちらを観察していたのがいい証拠であり、かなり知能が高いことも証明している。これはかなり組織された群れのようだ。
「……もしかすると、王がいるな……」
二度の経験をしたオレの勘がそう告げている。あいつらは王の配下だ。
「王って、ゴブリンの王ってことですか!?」
「ああ、そうだ。と言ってもまだ確証はないがな」
まさかまた魔王軍が指揮しているとかは勘弁してくれよ。いや、それはないか。ダメ女神も十六将の……なんだっけ? まあ、そいつがいなければこの辺の脅威はなくなると言っていた。神の視点でのこの辺なら王国内に魔王軍の影響はないってことだろうよ。
……人間目線だったらぶん殴ってやるからな……。
「戻りますか?」
「戻る必要はないよ。たかだかゴブリンの王だしな」
グロゴールとの戦いを経験したらゴブリンの王くらいなんとも思わないよ。どんなに知恵をつけようとゴブリンの知恵では数で押すくらいしか思いつかないだろうからな。
「数の暴力には数で対抗すればいいだけだ。こちらは二十三人もいるんだからな」
オレとラダリオンで二人で相手したときより断然有利であり、装備も充実している。報酬も一千三百万円もある。なに一つ恐れる必要はない。
あ、いや、あったな。最大の敵、油断ってヤツがな。王がいると仮定して、安全第一、命大事に動くとしよう。
「マルセさん。少し先を急ぎましょう。皆も気合いを入れろよ」
あとどのくらいかわからないが、強行軍で先を急いだ。
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