第99話 報酬

「師匠、なにそれ! カッコイイ!」


 小屋から発車させたらマルグが気づいて近寄ってきた。


 そうだろうそうだろう。カッコイイだろう。オレもカッコよさにニヤケを堪えるのが大変だぜ。


「これは人間用だからお前は乗せてやれないけど、あっちの家に今回の報酬があるから見てきてみな」


「報酬? おれの?」


「そうだ。お前も立派に働いたからな、働いた分の報酬は与える。しっかり受け取ってくれ」


 一人前に扱ったんだから一人前の報酬を与えるべきだ。まあ、六歳児に金を渡してもしょうがないから子供用のクロスバイクを与えることにしたのだ。


「見てくる!」


 と言って走り出し、しばらくしてラダリオンとともに戻ってきた。


「師匠、これなに!?」


「クロスバイクって乗り物だ。そこに黒いところに座ってみろ。ラダリオン。押さえててやってくれな」


 下手に近づくと潰されるのでラダリオンにハンドルを握っててもらいます。


 概念にないものを教えるのは大変かな? と思ったらマグルくん、意外と運動神経がいいんでやんの。一時間もしないで乗れるようになりましたよ。


 ……オレ、一日かかって乗った記憶があるんだが……。


 ま、まあ、乗れたのならそれでよし。今日はそこで練習してろ。


 オレはオレでパイオニアの扱いを覚えなくてはならないのだよ。


 車の免許は持ってるし、車通勤してたが、パイオニアは左ハンドル。外国仕様だ。


 左ハンドルなんて乗ったこともない。オレの愛車はスバルXV(中古)だったのだ、練習しないと乗りこなせないよ。


 三十分くらい周辺を乗り回していると、斧を担いだカインゼルさんが戻ってきた。


「なんだ、これは?」


「魔法の火で走る乗り物です。移動用に買いました」


 魔法がある世界だから魔法って言っておけば納得してくれるだろう。


「凄く精巧な作りだな。馬車の比ではないぞ」


「まあ、ゴブリン千匹分のものですからね。早々買えるものではありません」


 あ、荷物を載せられる牽引車も買わないとダメだった。って、それはまた今度でいっか。


「もうしばらくしたらミスリムの町に出かけますが、冒険者ギルド支部にいくだけなので残っててもいいですよ。ゴブリンがいても駆除はしませんから」


 なにか家を整えるので忙しいっぽいしな。


「いや、いくよ。なにが起こるかわからんしな」


 なにが起こるかわからないことばかり起こっているので三人でいくことにした。


 パイオニアの後部は荷台になっているが、座席が折り畳まれている。


 片方だけ座席にし、ケツを守るために低反発クッションを置く。悪路を走る乗り物で揺れが激しいからな。


 町へいくので装備はサブマシンガンにするが、荷台があるので、一応、SCAR、VHS−2、MINIMIを持っていくことにした。


 バッグドアを倒して手すりを組み立てたところにはリュックサックとアイスを入れたクーラーボックスを積んだ。


 運転席はオレ。横にはラダリオン。後部座席にカインゼルさん。クロスバイクに跨がるマルグに見送られてミスリムの町に出発した。


 主要道は踏み固められているので揺れは少ないが、舗装道路に慣れた者にしたら農道みたいなところを走るのは緊張する。左右にガードレールないし。


 三十キロくらいで走るが、アルート川にかかる橋までは三キロくらいなので数分で着いてしまった。


「さすがゴブリン千匹分のものだな。わしもやってみたいぞ」


 意外と子供っぽいところがあるカインゼルさん。パイオニアを運転したくてうずうずしていた。


「じゃあ、帰りに運転してみますか? そう難しくありませんしね」


 クラッチじゃなくオートマだ。そうスピードを出さなければ子供でも運転できるものだ。


「ああ! やる! やらしてくれ!」


 これはカインゼルさん専用のUTVを買う日もそう遠くないかもしれんな……。


 橋の手前でパイオニアを停める。


 数百メートル先の土手に巨人が数人、動いているのが見える。確か、あそこら辺で駆除してたな。


「ラダリオン。クーラーボックスを持って元に戻ってくれ」


「わかった」


「カインゼルさんは残っててもらいますか。盗まれることはありませんが、悪戯されても困りますからね」


 人の往来はあり、珍しそうにパイオニアを見ている。誰か残しておかないとダメだろうよ。


「ここに座ってもいいか?」


「ええ、いいですよ。なにかあれば呼んでください」


 エンジンを切り、キーを外しておく。


 元に戻ったラダリオンと土手を歩いていくと、村で見たヤツらがスコップでゴブリンの死体を集め、穴に埋めていた。


 ……人間はいないのか……?


 いや、巨人が動いている下にいたら危険か。オレも怖くて近づけないし。


 どうしたもんかと作業を眺めていたらちょうどよくゴルグがやってきて、オレたちに気づいてくれた。


「タカト、ラダリオン、お前ら戻ってたのかよ!」


 ありゃ? 奥様連中から伝わって……はないか。奥様連中は家のことやってからくるしな。


「ああ。昨日の夜に帰ったよ。それより、片付けさせて悪いな。自分たちの仕事もあるのによ」


「なに、おれらはこういうことして人間たちの中で生きてるからな。役に立つところを見せられてちょうどいいさ」


 巨人には巨人なりの苦労があるようだ。


「終わったら酒でも差し入れするよ。今はこれを差し入れするよ。休憩のときに食ってくれ」


 ラダリオンにクーラーボックスを開けてもらい、アイスを見せて、食べ方を教えた。


「夏に氷菓子か。贅沢だな」


 へー。氷菓子とかあるんだ。魔法があるからできるのかな?


「足りないときはゴルグが買ってくれ。今度、ゴブリン駆除を手伝うからよ」


「お、それはいいな。最近、ブランデーの味に心奪われてな、毎日飲んでたら使いすぎちまったんだよ。ロミーにバレる前に足しておきたいんだ」


 ブランデーか。あれもピンキリだが、高いのは本当に高いからな。


「ああ。秋になったら山奥に入ってゴブリンを集めるか。山奥なら死体を片付ける必要もないしな」


 ゴルグがいれば要塞化できるし、千や二千集まったところで苦戦はしないだろうよ。


「秋か。まあ、収穫期だが、ゴブリン狩りってことなら抜けられるだろう」


「じゃあ、計画しておくよ」


 そう告げて橋のところまで戻った。

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