第100話 離所

 運転したそうなカインゼルさんを助手席側に追いやり、ラダリオンには後部座席に座ってもらって出発する。


 橋を渡るには一人銅貨二枚かかるが、パイオニアは馬車扱いされ、銅貨四枚、計十枚払って橋を渡った。


 今のオレには微々たる出費だが、毎回十枚も払わなくちゃならないって思うともったいなくてしょうがない。どこか浅瀬を渡ろうかな?


 橋を渡ってからミスリムの町までは二キロもなく、五分くらいで着いてしまった。


 ミスリムの町は木造の建物が多く、町を守る防壁も丸太で造られている。


 規模的にはマルスの町と変わらない感じだが、あちらより人は多く、町の外には倉庫がたくさん建てられている。あ、兵士がいる。


「コラウス辺境伯領の食料庫だからな、兵士が駐在してるんだよ」


「そう言うのって街に造るもんじゃないんですか?」


「もちろん街にもあるが、すべてを収めることはできんからミスリムの町に置いてるのさ」


 ふ~ん。そう言うものなんだ。と納得しておく。別に興味があるわけでもないし。


 人々の好奇の視線を受けながら町の中に入る。


 冒険者ギルド支部の場所はカインゼルさんが知っているので迷うことはない。てか、大通り沿いなので迷うこともないか。


「随分と密集した町ですね」


 町の外周部はそうでもなかったが、中央にいくにつれて建物が密集していった。火事になったら凄惨なことになんじゃね?


「ミスリムの町は他領への玄関口となる。流れる者、流れてくる者がひしめき合っている。どうすることもできずに混沌が続いていおるよ」


 さぞや統治する人は大変だろうよ。都市開発は計画的に、だな。


「ギルド支部はあそこだ」


 カインゼルさんが指差すのは三階建ての古い建て物で、軽く百年は経ってんじゃなかろうか? 別のところに移築したらいいんじゃね?


「パイオニアを停めるところありませんね?」


 路駐してもいいところか? 駐禁取られたりしないか? 罰金とかゴメンだぞ。


「辻馬車があるところにギルド支部の離所がある」


 離所? なんやそれ? と思いながらカインゼルさんのナビで向かい、広場の隅に二階建ての建物と厩があるところがそうらしい。


「ここですか?」


「ああ。外の依頼はこちらで受け持っていて、ライド──支部長はあちらにいるよ」


 二つに分けて支障はないんだろうか? まあ、やれているんだからオレがどうこう言うつもりはないけど。


 とりあえず厩のところに停車し、ラダリオンに残ってもらって離所に入った。


 中はマルスの町のギルド支部くらいはあるが、職員の数はこちらのほうが多い感じだ。仕事量も多いのかな?


 今はそれほど混んでいないので、適当なカウンターに向かい、ギルドマスターからもらった鉄札を出した。


「オレはタカトと申します。ここの責任者と会いたいのですが、取り次いでいただけないでしょうか?」


 カウンターにいた若い男性の職員は、少しお待ちくださいと言って下がり、上司と思われる初老の男性を連れて戻ってきた。


「わたしはマガノ。所長を任されている。あなたのことは支部長から聞いておるよ」


「それは助かります。これから支部長のところに向かおうとしてるのですが、乗り物を置ける場所がなかったので離所までやってきました。置かしてもらって構いませんか?」


「ああ、構わんよ。ミサル。案内してくれ」


 所長からの許可が出て、ミサルと言う女性職員を連れてパイオニアのところに向かった。


「な、なんですか、これは!?」


「魔法の馬車です」


 馬どこだよ? って突っ込みはなしでお願いします。


 驚くミサルさんを促してパイオニアを停めれる場所に案内してもらった。


「あ、これ、皆さんで食べてください」


 ミスターなドーナツ十個入りをアポートポーチから五箱取り寄せてミサルさんに渡した。なにかと世話になるだろうところには手土産は大事。この心配りが後々の助けとなるんだぜ。


 ……今度、街やマルスの町にも持っていかないとな……。


 余分な荷物は一旦セフティーホームに戻してからギルド支部へと向かった。


「賑わってますね」


 隊商ってヤツだろうか? 馬車が何台も連なって道を走っている。流通は頻繁に行ってるんだな。


 町を眺めながらギルド支部までやってきた。お、いつもなら冒険者ギルドの横につきものの徴税人がいないぞ。それどころか教会もない。ここでは神は不要か? ザマ~!


 フフンと笑いながらギルド支部に入る。


 通りすぎたときにも思ったが、ちょっと小さくね? こっちのほうが離所だろう。


 カウンターも職員が三人並んでるだけ。規模ちっさ!


 また鉄札を出して名乗ると、二階に案内されて支部長室へと通された。


 支部長室にはライドさんと身なりのよい中年男性、あと職員らしき若い男がいた。


「お忙しかったですか?」


「いえ、ゴブリンのことで話し合ってました。あなたが戻ったと言うことはゴブリンは全滅させたと言うことですか?」


「さすがに全滅とはいきませんよ。ですが、千匹以上、千五百匹以下は倒したと思います」


 用意が不十分だったわりには倒せたと思うよ。


「……千匹以上ですか。さすがゴブリン狩りで生きてる方ですね……」


「今回はカインゼルさんがいたからなんとかなったまでです。一人だったら逃げてるところですよ」


 まあ、一人だったらあんなに集まりもしなかっただろうがな。


「なるべく山の奥で倒しましたが、死肉を漁る魔物が現れるかもしれませんし、ちょっと毒を使ったのでしばらく山に入らないよう通達してください」


 スケッチブックを出し、簡易な地図を描いて場所を教えた。


「確か、タカトさんは方位知る道具をお持ちとか。もしよければわたしどもにも売っていただけませんでしょうか?」


 随分と情報が回るのが早いな。なんか魔法的連絡手段でも持ってるのか?


「十五日には消えることを知ってもですか?」


「構いません。また買わせていただきますので」


 おもいっきりがいいこと。


「今回はちょっと高いものを買ったので、次回でよければ安いものを買ってきますよ」


 一応、方位磁石を出してみせた。


「これはおいくらで?」


「銅貨十枚くらいですね。少々手荒に扱っても壊れないものなので」


 百円ショップ製は強度がない。万が一のときのために軍用コンパスを買ったのだ。


「これでいいので売ってください。銅貨十枚なら安いくらいです」


 まあ、ライドさんがいいのならオレは構わない。千円のものだしな。


「ありがとうございます。次回、安いのでいいので十個ほど売ってください」


「わかりました。次回きたときにお持ちしますよ」


「ありがとうございます。また山に入るので?」


「いえ、しばらくは畑にいるゴブリンを駆除します。ギルドマスターからもお願いされているので。まあ、晴れの日だけになりますが」


「それは助かります。刈り時期前はゴブリンを追い払うために忙しくなるので」


 バズ村でもそんなこと言ってたな。コラウス辺境伯領の風物詩か?


「では、晴れたらきます」


 そう告げて支部長室をあとにした。

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