第377話 言いわけ

「……頭いてぇ……」


 羽目を外しすぎた。久しぶり……でもない二日酔いだ。


 ペットボトルに手を伸ばし、水をいっき飲み。なんで二日酔いのときに飲む水はこんなにも美味いんだろうな。全身に染み渡っていくよ。


「タカト。おれにもくれ」


「なんだ、アルズライズも二日酔いか?」


 水を渡すと、オレと同じくいっき飲み。美味いとばかりに長い息を吐いた。


「二日酔いなんて久しぶりだ。どんなに飲んでも酔うことなんてなかったのにな」


 それは精神的なものがそうさせてたんだろう。昨日は殺された家族のことをしゃべっていたからな。


「二日酔いは美味い酒を飲んだ代償だ。甘んじて受け入れるんだな」


 誰よりも酒を飲んだはずなのに、まったく顔色を変えてないミシニーさん。その体のどこに消えているのやら。このうわばみエルフめ。


「そうだな。昨日は久しぶりに美味い酒が飲めたよ」


「それはなによりだ。タカト。わたしは外の様子を見てくる」


「わかった。なにかあればすぐに逃げろよ。オレはまだ動けないのだから助けにいけないぞ」


「フフ。わかっているよ」


 呆れた顔して部屋を出ていった。


 本当に動けないオレはもう一本ペットボトルに手を伸ばし、頭からぶっかけた。あー気持ちいぃ~。


「タカト。ホームに戻ったらどうだ?」


「いや、皆に怒られそうだからいいよ」


 きっと三人は心配しているだろう。そこに二日酔いで戻ったらオレの立場が危ぶまれる。酒が消えるまでは戻れないよ。


「午後まで休んだら準備をする。夜に出発しよう」


 まあ、ここは二十四時間明るいんだが、ゴブリンも狂乱化したりと疲れているはずだ。エサの確保だってある。てか、ロースランがいなくなったらゴブリンはどうするんだ?


 おそらくゴブリンどもは、ロースランが狩ったロンガルの残りカスを食べていたんだろう。そうなるとゴブリンは地上に逃げてしまうのか? 一万匹が?


 それは不味い。逃げた先はアシッカになるんだからな。ここで根絶やしにしないといけないだろう。


 なら、逃げないようオレらでロンガルを狩る必要が出てくるか。


 ロンガルになんの恨みもないが、ゴブリンを逃がさないためのエサになってもらうとしよう。できることなら地上に運んで家畜化したいがな。


 あれこれ考えていたらミシニーが戻ってきた。ヒートソードを二本持って。


「探しにいってたのか?」


「神世の武器を放置できんだろう」


 まあ、元の世界の乾電池を使っているからダメ女神が作ったんだろうが、そこまでありがたみを持つものでもないだろう。ミシニーってそんなに信心深いのか?


「壊れたのか?」


「どうだろうな? 壊れても構わないと使ったけど」


 最大にして使ったから電池は切れているはず。柄底のスクリューキャップを外して単1電池を交換。発動させたら動いてくれた。


「考える以上に丈夫だったんだな」


「神世の武器がそう簡単に壊れるわけがないだろう」


 なぜかダメ女神製に絶対の信頼を寄せるミシニーさん。オレは使い捨て感覚なのにな。


「ならやるよ。お守りとして持ってろ」


 どんなご利益があるかわからんが、鰯の頭も信心から。なんかいいことがあんだろうよ。オレは悪いことばかり起こってたがな!


「そうか。ありがたくもらっておくよ。だが、腰回りを変えなくちゃならんな。どうすればいい?」


「ゴブリン駆除のときはヒートソードとラットスタット二本でいいだろう。基本、ミシニーは魔法を使うんだから」


 強い魔物の群れと戦うなら何本も必要だが、ゴブリンならそれで充分だろう。魔法で倒してんだからよ。


「仕方がないか。もっと試してみたったんだがな」


 オレはもう試すような場面に遭遇したくないよ。


 腰回りのレイアウトを考えていたら昼となり、軽い食事をしたら合流する準備に取りかかった。


「アルズライズもEARを使うか?」


 大柄なアルズライズには使い難いかもしれないが、四百発撃てるのは強みだ。撃ちっぱなしの状態にならなければ余裕で一日は戦えるはずだ。いやまあ、余裕でやれていたのはかなり前だけど……。


「いや、バールを使う。最近、銃ばかり使って体力が落ちたからな」


 金印は言うことが違うな。銃を使うと体力が落ちるんだからよ。


「少し、体を温めてくる」


 新しい金テコバールを買ったようで、身軽になって部屋を出ていった。


 オレも少し動いて酒を抜くか。どっちにしろホームに入らないといけないんだからな。


 柔軟体操を三十分。ヒートソードで素振りを百回。腕立て伏せ百回。スクワット百回でいい感じに汗が出てくれた。


 三回の肉体上昇により並みの冒険者くらいには体力がついた感じがする。今ならゴブリン五匹を相手にできるかもしれない。マチェットを持てば、だけど。素手じゃ一匹が精々だわ。


 さらに素振りを百回して酒が抜けたらホームに入った。


「──タカトさん!」


 ずっと待っていたのか、ミリエルが玄関で弾入れをしていた。


「勝ったよ。夜中にはそちらに向う」


「無理しないで休んでください」


「大丈夫だよ。充分休んで、ちょっと準備運動しただけだから」


 間違ったことは言ってない。


「そちらはどうだ?」


「ゴブリンたちは隠れてしまったので静かなものです」


 理性(?)を取り戻したか。まあ、空腹になれば騒ぎ出すだろうけどな。


「じゃあ、明日の朝までゆっくり休め。オレらは夜中にロンガルを狩ってゴブリンをミリエルたちのところから引き離す。そしたらそこを引き払って中心部に移動してくれ。オレらから合流するように動くから。あ、バッフやノズを確認した。建物の中に入ったら注意しろよ」


「わかりました。ロンダリオさんたちに伝えます」


 頼むよと言い、シャワーを浴びにユニットバスへ向かった。

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