第394話 パレトザー
ミサロの無言の圧力が怖かった。
「……ご、ご理解をいただけると助かります……」
まるで嫁に小遣いを要求する旦那のようであったが、結婚したことがないのでたぶん違うはずだ。
「ハァー。わかったわよ」
「ありがとうございます!」
腰を九十度に曲げて謝意を表した。
「それで、この状態からどう入れるわけ?」
「アシッカに倉庫を建ててそこに仕舞う」
セフティーブレットの本部にも倉庫と発着場を造るが、まずはアシッカに倉庫と発着場を造り、そこに運び入れる。
もちろん、マイセンズの砦にも造るが、戦闘仕様のマンダリンはアシッカに置くほうがいいだろう。ゴブリンが群れたら自然と集まるのがアシッカなんだからな。
まあ、ゴブリン以外も集まってくるだろうが、手出しするのも躊躇われるほど突出すればいい。ケンカするより仲良くしたほうが得ってな。
そのためにもアシッカに戦闘仕様のマンダリンを置くほうがいい。そこには巨人もいて傭兵奴隷もいる。しかも現代兵器を持っているのだ。実力行使するバカがいるなら逆に見てみたいよ。
あとは伯爵が政治力を身につけてくれたら万々歳なんだが、それまでは周りを寄り子たちにがんばってもらい、裏切らないだけの利を与えてやればなんとかなるだろうよ。
「館にいる巨人に倉庫を造ってもらって、通常型のマンダリンを四台置く。盗まれる心配はないが、燃やされたら困るから警備する人を立ててくれるようシエイラに伝えてくれ」
「シエイラも大変ね」
「そうだな。帰ったらシエイラにはなんかプレゼントしてやらんとな」
てか、シエイラってなにをあげたら喜ぶんだ? 服や宝石で喜ぶタイプとも思えないし、食事は館にいれば美味いもの食える。金か? 金をやったらいいのか?
「タカトはそういうところがダメだと思う」
なぜか突然のダメ出し。はぁ? なにが?
「シエイラ一人にプレゼントをすることか? それなら職員全員にボーナスを出すとするか」
「タカトはなにか大事なものが欠けていると思う」
ダメ出しからのオレ否定!? いや、確かに立派な人間じゃないが、一般的常識は持ち合わせているぞ。元の世界の常識だけどさ……。
「まあ、シエイラになにかしてあげたいならデートにでも誘えばいいんじゃない? 奥様たちが女を喜ばせたいならデートに誘えといいって言ってたわ」
デート? シエイラとは仕事関係の仲で恋仲ってわけじゃないぞ? まあ、そこまでウブでもないから恋人関係じゃないデートがあることも知ってるが、こんな世界でどこに連れていけと? ドライブか? 景色を見にか? 魔物に遭遇する未来しか見えないぞ。仮に街だとしてもあんな臭いところでデートとか萎えるだけだわ。
「うーん。まっ、帰ったらシエイラに尋ねてみるよ」
男の独りよがりとか女にしたら迷惑以外なにものでもないしな。これはがんばってくれるシエイラへ感謝の気持ちを物で示すものなんだしよ。
「……これは、わたしたちではダメだわ……」
「ん? なにがだ?」
なんか聞き逃したか?
「もういいわ」
なにか呆れられた感じだが、なんなのか説明してもらってもよろしいでしょうか? とても不安なんですけど……。
「と、とりあえず、十八時に戻ってくるよ。ラダリオンが入ってきたら伝えてくれ」
ため息で返されたが、了承と判断して外に出た。まったく、歳は取りたくないものだ。十代の女の子が謎でしかないよ……。
「──タカト、ビニールシート張ったよ!」
同じ十代でもメビはわかりやすくていい。アラサーの心を癒してくれるのはメビだけだよ。注意。オレはロリコンではありません。変な誤解をしないでください。
「ありがとな。イチゴ。マンダリンからフォークリフトに魔力を充填させておいてくれ」
ブースターケーブルでフォークリフトに充填できるのだよ。
「オレは骨を片付けるな」
フォークリフトを動かすにはこの骨は邪魔でしかない。ったく。エルフも命を弄るなら巣を綺麗にするように弄れよな。片付けるのが骨だわ。骨だけにな!
「あたしもやる!」
メビは本当にいい子だよ。そのまま素直に育ってくれよ。
フォークリフトに魔力が充填されたらパレットブルドザー──パレトザーになって骨を外に落とした。
十八時になったらホームに入り、待機していたラダリオンとミリエルに戦闘仕様のマンダリンがあったことやアルズライズを向かわせたこと、アシッカに運び出すことを伝えた。
「そちらに人を送りますか?」
「いや、こちらはイチゴがいるから大丈夫。ミリエルにはフォークリフトの扱いを覚えて欲しい。さすがに積み降ろしが大変だからな」
こちらはイチゴがいればパレットに積むのも簡単だし、ホームに運ぶくらいならハンドリフトを使えば問題ない。マンダリンも台車とパレットを使えば楽に移動させられる。ホームにフォークリフトがあるほうがいいのだ。
ミリエルはパイオニアやウルトラマリンを運転できるからフォークリフトも十分くらいで扱えるようになった。この子も感覚派である。
「ラダリオンにも覚えて欲しいんだが、お前の場合、フォークリフト並みにパワーと機動性がいいからな~」
まるで空のコンテナボックスをリヤカーに積み込み、ハンドキャリーを引くかのようにあっさりと引いて外に出る。フォークリフトに勝てる巨人。スゲーとしか言いようがないわ……。
「今日はゆっくり休んで明日からやるぞ」
明日のためにも今日はゆっくり休む。パイオニア二号+トレーラーを出してメビに風呂を設営さてやるか。ガレージも空けておきたいしな。
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