第6章

第243話 履歴

「はぁー」


 ラダリオンがくるなりため息を吐かれた。お、怒ってる?


「問題は解決した?」


「あ、ああ。すべてのゴブリンは殺した。他に臭いはあるか?」


 その場にいるのはすべて殺したが、他に監視者がいないとも限らない。臭いがあるならチートタイムを再スタートさせるぞ。


「ゴブリンの臭いがキツくてわからない」


 そりゃそうか。この臭いに慣れすぎて気づかなかったよ。


「ホームから手榴弾をたくさん持ってきてくれ。証拠隠滅する」


 大規模戦闘があってミサロは死にました、って状況を作り出すとしよう。ついでに魔笛も粉々にしておこう。


 ラダリオンがホームから手榴弾を持ってくる間に真っ二つにした魔笛を回収。ヒートソードで粉々に破壊してやった。


「タカト、十個しかなかった」


「なら、それでいいよ。ゴブリンを吹き飛ぶようにばら蒔いてくれ」


 巨大化した手榴弾。とんでもない威力になるので百メートルくらい退避させてもらい、大きな木の陰に隠れた。


「01、やってくれ」


「01、了解」


 数秒後、手榴弾が投げられ、順次に爆発していった。エゲつな!


 無駄に自然破壊をしてしまったが、すべてはダメ女神が原因。オレのせいじゃない。うんうん。


「01、戻るぞ」


「01了解」


 カインゼルさんたちの気配の強さから二キロも離れていない。チートタイムを使うまでもないと、自力で向かった。


 突然消えてしまって申し訳ないが、カインゼルさんが指揮してくれてたようで、砦を囲んでいたゴブリンはほとんどが死んでおり、今は死体を集めている状況だった。


「すみません。突然消えて」


 砦に到着し、指揮を取っていたカインゼルさんに謝罪した。


「構わんよ。問題は片付けられたんだろう?」


 なにか察しているようなカインゼルさん。ダメ女神がなにかしたのか?


「はい。あとで説明します」


 さすがにカインゼルさんに黙っているわけにもいかない。あとでちゃんと説明しなくちゃいかんだろう。


「この地にいる魔王軍は全滅させました。轟雷のロドスを見張っていた魔王軍の幹部も。脅威は去りました」


 これはカインゼルさんに、ってよりは周囲にいる者たちに伝えている。このことは必ず領主代理にも伝わるんだろうからな。


「カインゼルさん。ラダリオン。あとのことは任せます。オレとビシャは報告のために戻りますんで」


 魔王軍の脅威は去って世界が平和になりました、ってわけじゃない。まだまだオレたちの戦いは続くのである。のんびりしている暇はないのだ。


「ミリエル。連れてきた者たちの指揮は任せる。無事、連れて戻ってくれ」


 まだホームに戻っている様子はない。説明する前にミサロに説明しておかないとならないわ。


「わかりました。あとでしっかり説明してもらいますから」


 額に青筋を立てたミリエルさん。君、怒ると怖いよ。もっとスマイルでいこうよ。


「あ、うん、わかったよ」


 納得されるかはわからないが、誠心誠意説明させていただきます。


「ミシニーとメビはあちらの方向に固まっているゴブリンを駆除してくれ。数は二百くらいいる」


 別動隊かはぐれかはわからない。だが、固まっているところをみると、上位種辺りが率いているんだろう。念のため駆除しておこう。


「終われば一旦ラザニア村に帰ってくれ」


「了解した。メビ。いくぞ」


「ちゃんと半分こだからね!」


 すっかり仲良くなっているお二人さん。どちらも自由人なのにな。


 体力オバケな二人を見送ったら一旦ホームに。ミサロが玄関にちょこんと座っていた。


「すぐにこれなくてすまない。オレたちは移動するからミサロも移動する準備をしてくれ」


 ホームには入ったところからしか出られない。一生ホームに閉じ籠っていられないのだから出入りは安全なとこれがいいはずだ。これから人の中で生きていくんだからな。


「その服は目立つから変えよう」


 エロい衣装が好みなのか知らんけど、さすがに露出しすぎだろう。いや、ゴブリンはスッポンポンだけどさ。服が嫌いな習性でもあるの?


「その服、魔王軍で作るのか?」


「ええ。魔王城にいる裁縫師に作らせるわ」


 想像するよりずっと文化的な組織のようだ。


「うちでは元の世界のものをこれで買う。あとで時間ができたら使い方を教えるよ。まずは服だ」


 ミサロは綺麗好きなのか、汗臭ささや独特な体臭もなく、なにか花の匂いをさせており、指先も綺麗だ。戦闘職ではなく魔法職だったのかな?


 体格はシエイラと同じくらいなので、下着はシエイラにあわせて買うとしよう。


 このタブレット、ちゃんと買った履歴が残る仕組みになっている。お陰で変なものは買えんのよね。ミリエルさんったら買ったものの履歴、ちゃんとチェックしてるんだもの……。


 とりあえず、ミリエルよりワンランク上の下着を買い、女性用の登山服を揃えた。


「これに着替えて待っててくれ。腹が減ったらこの中のを食べて構わないから」


 そう言って外に出た。


「ビシャ。いくぞ」


「……知らない女の臭いがする……」


 クンクンと嗅いでくるビシャを押し退け、カインゼルさんに出立することを告げてミロンド砦を出た。

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