第475話 14 *ビシャ*

 まずは天高く上昇する。


 ワイニーズは高い位置から風に乗って地上の獲物を滑るように狩る。


 翼は風を受けるためのもので羽ばたくものじゃない。上空に向かえばワイニーズは追ってこくることはない。追うにしてもまず風に乗らなくちゃ上昇はできない。もしできるとしたら自ら風を出しているかだ。


 って、タカトが言っていたっけ。


 襲うなら上空から。三位一体で一匹ずつ狩っていく──が基本だけど、今はワイニーズが山の頂上辺りにいる。それなら上空から襲いかからせてもらいましょう。


 かなり上空まで上昇したらいっきに降下する。


 どんどんと山が近づいてきて、ワイニーズが今まさに飛び立とうとしているところだった。


「やるよ!」


 マンダリンに取りつけたEARのグリップをつかみ、射程に入ったら引き金を引いた。


 他の二人も同じくEARの引き金を引いて、ワイニーズに魔弾を降らしてやった。


 魔力抵抗値は強くないのでワイニーズを撃ち抜いていく。


 五秒ほどだったけど、固まっていたので結構な数を撃ち抜けたと思う。子も吹き飛ばしていたのも見えた。


 マンダリンの機首を上げてそれぞれに散会。木々を掠めるように飛び抜け、また上空へ上昇する。


 五、六匹のワイニーズが逃げたみたいで、風に乗って別々の方向に飛んでいった。


 すぐに合流して三位一体でワイニーズを狩る。


 四方に逃げていったのでかなり時間がかかったけど、難なくワイニーズを討伐することができた。


 熱い展開はなかったものの、無事討伐できたのだからよかったよかっただ。まあ、このあとが大変なんだけどね……。


 かなり広範囲にワイニーズを落としてしまった。こりゃ、何日かかるかわかったものじゃないな。


「落ちた場所に発煙筒を投げて!」


 広範囲すぎて場所を覚えるのも大変。まずは発煙筒で特定させて大体の場所を覚えるとしましょうかね。


 あとはベースキャンプに戻り、一人を乗せてその場所に向かった。


 それでも魔石を回収するだけで三日もかかってしまった。ほんと、討伐にきたんだか魔石を回収にきたんだかわかんなよ……。


 でも、討伐がどれだけ大変かわかったよ。次はもっと効率よくやってやる。


「終わったね」


 ベースキャンプに戻り、ワイニーズの魔石を集めて討伐が終わったことを示した。


「ええ。終わったわね」


 あたしの呟きにアリサが答えた。


「無事に終われたね」


「まだだよ。帰るまでが討伐。油断はするんじゃないよ」


 タカトも言っていた。帰るまで油断するなってね。


「とりあえず、休もう。イチゴ。警戒をお願い」


「ラー」


 もうちょっとで暗くなる。その前に風呂の用意をして汗を流すとしよう。


 ホームからいろいろ出していたらミリエルねーちゃんが出てきた。


「終わったみたいね」

 

「うん。誰一人怪我もなく終われたよ。魔石もちゃんと集めた」 


 集めたワイニーズの魔石を見せた。


「ご苦労様。ミサロがたくさん料理を作ってくれたから運んでくるわ。甘いお菓子もあるから考えて食べるのよ」


 ミリエルねーちゃんにそう言われたら腹の虫がグゥ~と鳴った。集めるので必死でまともに食べてなかったっけ。


「ふふ。なにか食べたいものある? ご褒美になんでも用意するわよ。タカトさんも好きなものを食べせてやれって言ってたしね」


「──じゃあ、寿司が食べたい!」


 メビが割り込んできて寿司を要求した。


「あたしは肉がいい」


 メビは肉も魚も食べるけど、あたしは断然肉派。毎日肉を食べても飽きないくらい肉好きだ。牛の肉を食べたいです!


「はいはい。好きなものを用意するから落ち着きなさい。アリサたちもなにか食べたいなら言ってね」


「高級な酒が飲みたいです!」


 エルフもブレないな~。食べ物より酒なんだから。


「ふふ。タカトさんの棚から持ってくるわ」


 いやそれ、タカトが泣くんじゃないの? 大事なコレクションとか言ってたよ。


 まあ、これが終わればゴブリン駆除に力を入れられる。たくさん殺してタカトにお酒をプレゼントしてあげようっと。


「今日はわたしも見張りに立つから好きなだけ食べて、好きなだけ飲みなさい」


 こういうとき、タカトもミリエルねーちゃんも豪気だよな。あたしも仕事が成功したときは仲間を労ってあげるとしよう。


 ミリエルねーちゃんが料理を運んでくる間に風呂の用意を進め、皆に汗を流させた。


 皆がすっきりしたら料理が出され、お酒もたくさん並べられた。


「ビシャ。あなたが音頭を取りなさい」


「わかった。皆、飲み物を回して」


 お酒が飲めない派と飲める派でそれぞれカップに飲み物を注いだ。


「よし。回ったね。じゃあ、ワイニーズ討伐成功を祝して、カンパーイ!」


 面倒な挨拶はなし。がんばったことを喜び合おうじゃないか。でも、リーダーとして帰るまで油断はしないし、食べすぎもしない。がんばってくれた仲間たちを労ってやることを優先する。


 皆と乾杯しながら声をかけ、褒めて、お礼を言い、次はゴブリンをたくさん狩ろうと励まし合った。タカトがやっていたように、ね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る