第476話 15 *ミルド*

 無事、ワイニーズ討伐が終わった。


 ってまあ、おれはなにもしてないんだけどな。ただ、連れてきてもらっただけだったよ。


「ミルドもご苦労様。いい経験になったでしょう」


 今回の代表として、ビシャが皆に声をかけ、おれのところにもやってきた。


 見た目は完全に上だが、年齢はおれより下なのだから情けなくなる。年下がこれだけの働きをして、おれは見ているだけ。この差になにも感じないなら男として終わっているよ。


「ああ、そうだな。自分の無力さを学べたよ」


 周りから優秀と囃し立てられて図に乗って、やれたことは荷物運びと解体くらい。役に立ったのか怪しいくらいだ。


「それはあたしもだよ。タカトにおんぶにだっこだったのがよくわかったよ」


「充分、やれていたと思うけどな」


「それは皆が協力してくれたからだよ。あたし一人じゃなにもできなかったよ」


 なんだかタカトさんみたいなことを言う。


「力がないのなら身につけるだけさ。失敗してもタカトたちが助けてくれるからね」


「強いな、ビシャは」


「あたしなんてまだまだよ。だからもっと強くなる。ミルドも嘆いてばかりいないで強くなることを考えたほうがいいよ。教えてくれる人や見本なる人がたくさんいるんだからね」


 そう、だな。落ち込んでいても仕方がないか。こうして学ぶ機会を与えてくれたんだ、しっかり学ばないと与えてくれた母上や父上、タカトさんに申し訳ないな。


「──それなら職員のほうに混ざる?」


 と、ミリエルが入ってきた。


「職員のほう?」


「ええ。マイヤー男爵領に入ったところで職員たちがゴブリン駆除を行っているわ。やる気があるならそちらに加わってもいいわよ。ミルドもゴブリン駆除請負員となればいろいろ買えるしね」


 ゴブリン駆除請負員か。確かに母上がなれるものならなりたいと言っていたな。


「加わらしてもらうよ。そして、ゴブリン駆除請負員となる」


 ゴブリンならおれでも相手できる存在だ。まずはそこから始めるとしよう。


 ミリエルにゴブリン駆除請負員にさせてもらった。え? これで終わり?


「ふふ。いつでも辞められ、制約がないのが請負員よ。あまり思い込む必要はないわ。一年ゴブリンを駆除しなければ請負員として失効するけど、別に罰則もない。また請負員になれるはずよ」


 随分と緩い組織だな。でもまあ、それならそれで気楽にやれるというもの。強くなるためにがんばるとしよう。


「ミリエルねーちゃん。おれも混ざっていい? もう報酬がないんだ」


「いいわよ。でも、ちゃんと大人の言うことを守ること。なにかあればタカトさんがゴルグさんから怒られちゃうからね」


「わかった。ちゃんと言うこと聞くよ」


「じゃあ、ラダリオンに案内させるわ。わたしはパイオニアを出したりしなくちゃならないからね」


 そう言うと消えてしまい、しばらくしてラダリオンが現れた。


「話は聞いた。マルグ。これを使って。ルガー10/20ってライフル。これならマルグでも使える」


「銃? 使っていいの?」


「タカトの許可はもらっている。威力が弱いけど、ゴブリンくらいなら問題ない。明日練習するからライフルに慣れておくといい」


 ライフルと言う武器の威力は散々見た。まだ七歳のマルグに持たせるには危険ではないか?


「ありがとう、ラダリオンねーちゃん!」


 まあ、マルグの喜びもわかる。おれも師匠から杖をもらったときは嬉しかったっけ。


「ミルドはこれを使って」


 ビシャたちが腰に装備している拳銃を渡された。


「銃がどんなものかわかっていれば支援の方法もわかってくる。請負員は銃を使っている者が多いからね」


 確かに。魔法を使うおれが前に出ることはないしな。連携するならどんなものか知っておくべきだろう。


「ミリエルねーちゃん。あたしらも混ざりたい」


「メビはダメよ。あなたが混ざると職員たちの取り分を奪っちゃうからね。やるんならコラウスにいるゴブリンを駆除してちょうだい。タカトさんは会合で忙しいからね」


「わかったー」


 そう言えば、またゴブリンが出たと城で耳にしたな。もしかして、ゴブリン駆除業って美味しい商売ではないのか?


「明日、太陽が昇ったら出発する。今日は早めに寝ること。ビシャたちも。帰るまで油断しないこと」


 その日は早めに眠りにつき、太陽が昇る前に目覚めて準備を始めた。


 太陽が昇る頃には用意が整い、朝食を終えたらビシャたちはパイオニアでコラウスに向けて出発した。


 それを見送ったおれたちは、ラダリオンに銃の扱いを教わる。


「なかなか当たらないものだな」


「何事も練習あるのみ」


「確かにそうだが、マルグを見ていると自信をなくすな」


 初めて使っただろうに、ちゃんと的に当てている。おれ、五十発撃ってやっと当たったっていうのに……。


「マルグはずっとスリングショットをやってきたから勘が鍛えられている。当てられて当然」


 そう言うものなんだ。おれも火の矢を放っているんだけどな~。


「そろそろ出発しようか。荷物はあたしが持つ。先頭はミルド。次にマルグ。最後尾はあたし。危険になるまであたしは口を開かない。ミルドが判断して二人で行動すること」


「わかった。マルグ。よろしくな」


「うん。目はいいから任せて」


 頼もしい七歳児だよ。


 いや、おれも負けてはいられないな。杖を強く握り締め、出発した。


 ─────────


 ワイニーズ討伐編終了。第10章も終わり。

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