第397話 殺られる前に殺れ

 ランダーズまで約六キロ。中央に建っているわけではなく、反対側が上級民の居住区や商業施設、軍事施設がメインなところだ。


 ちなみに発着場からランダーズまでは最下層民区と工場区って感じで、かなり密集して建てられ、地下も深い。ゴブリンがいるのはこちら側だ。


 低く飛び、ランダーズを越えたら二十階建てのビルの屋上にブラックリンを降ろした。


 他の建て物も二十階くらいで、二キロ先くらいにはタワマンみたいなのが三十棟くらい建っているのでこちらが見えることはないはずだ。


 ブラックリンでホームに入り、ガチャで当てたプランデット連動の偵察ドローンを引っ張り出した。


 これもエルフ製かわからんが、使うときは今。充填はしてあるし、ルンも二つセットしてある。四時間も飛べたら充分調べられるだろうよ。


「タカト、わかったの?」


「いや、まだだ。これからドローンを飛ばして調べる」


 ドローンを抱えて外に出てすぐに飛ばした。


 音はそれほど高くはなく、ビィィィンと音がするくらい。なにかの羽虫かと思ってくれたらいいんだけどな。


 プランデットでの操作なので、扱いはそう難しくない。ビルの間を飛んでいき、タワマンを越えると、ロンガルの群れがランダーズのほうに逃げていた。補食対象故の行動だろな。


 しかし、ロンガルが結構いるな。軽く見ても五十匹はいるぞ。こんな場所でよく繁殖したもんだ。と思っていたら緑が見えてきた。


 プランデットの情報では居住区なのに、今は樹齢百年は余裕でありそうな木が立ち並び、軽くジャングルとなっていた。


 発着場のほうも草木が生えていたが、こちらはなにか特別な栄養でもあるのか? 地下とは思えないジャングル具合だぞ。


 ドローンを上昇させ、天井ギリギリまで飛ばし、全体を見た。


「湖?」


 かなり広い人工湖があり、なにか海で石油などを採掘する基地? みたいなものがいくつかあり、大きな船が三隻浮かんでいた。


 ……どこかに続いているのか……?


 湖のほうに向かうと、端のほうに巨大なトンネルが見えた。


 プランデット越しでサイズ感はわからいが、大きな船が二隻並んでも余裕なくらいはありそうな感じだ。


 トンネルの先が気になるが、二十メートルくらいある反応を示した者の確認するほうが最優先。人工湖の半ばまでいったら旋回させた。


 港らしき造りになっており、湖側の木が倒されており、鳥の巣のようなものがいくつか作られていた。


 今は動体反応が消えているが、方向はあちら。一分もしないでなにか緑色の物体が見えてきた。


「……なんだ……?」


 画面越しだから迫力は感じないが、質感が甲殻っぽい。形も竜ではなく、なんか虫っぽい。


 ……火の七日間のあとに出現した虫か……?


 安全のために上昇させて旋回。ドローンのカメラを拡大させてよく観察する。


「……こいつ、なんかどこかで見たような気がするぞ……」


 どこでだ? こんなのを見たら一生忘れないんだけどな……あ! 思い出した! カマキリのバケモノだよ! マルスの町にいくときに遭遇したヤツ! 


 カマキリと言うより蜘蛛度が増しているが、頭がマルスの町で見たヤツと同じだ。


「ん?」


 名前は忘れたが、巨大カマキリが湖の中にケツを突っ込み、なにか……いや、卵を産み出していた。


「こちらのカマキリは水の中に産み出すのか?」


 海亀の産卵のようにゆっくりと卵を湖の中に産み落としている。風が吹いた時間からして産み始めたばかりだな。


 巣の数から同サイズのカマキリがいたっぽいが、今いるのは一匹だけ。またやってくると言うのか? なら、今がチャンスってことだな。


 すぐにドローンを戻した。


 戻ってきたらホームに仕舞い、ブラックリンで出てきた。

 

 全速力で向かい、カマキリの上空まできたらガソリンタンクを取り寄せ、上空から散布。カマキリは産卵に集中しているようでガソリンに意識を向けることはなかった。


「命懸けで次世代を産み出しているところ申し訳ないが、オレが安全にゴブリンを駆除できるよう死んでくれ」


 あいつになにかされたわけじゃないが、マルスの町に現れたカマキリは人を襲う凶悪な魔物と認定されていた。


 しかも、巨人にすら噛みつくようなヤツである。オレたちを見たら確実に襲ってくるだろう。なら、殺られる前に殺れ、だ。


 ガソリンを何度か散布し、RPG−7を取り寄せた。


「悪いな。死んでくれ」


 大きいから狙いを定める必要もない。ブラックリンをカマキリに向けてRPG−7の引き金を引いた。


 まっすぐに飛んでいき、カマキリの背中に直撃。爆発を起こし、散布したガソリンにも引火。そのデカい体が炎に包まれた。


 それで死ぬかわからないので大口径のEARを連射。体全体に当たるよう機首を向けたままホバリングしながら二百発近く撃ち込んでやった。


 ブラックリンのマナックが六割を切ったが、カマキリはまだ暴れている。二割を切るまで撃ち込んでいった。


 ダメ押しとM32グレネードランチャーを取り寄せ、六発の榴弾を撃ち込んでやった。


「これでも死なないか」


 その場でホームに戻ってマナック補給。榴弾を詰め換え、リンクスを背負って外に出た。


 カマキリはまだ暴れているが、動きは弱くなってきた。


「火は効果ありそうだな」


 ガソリン、ドラム缶で買っておくか。


 そんなことを考えながらカマキリが死ぬのを遠くから見守った。

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