第396話 風が吹いた
適度な仕事。適度な休息。適度な食事。人は適度が健やかに生きられるものなんだと異世界にこなくてもわかるわ!
なんて怒りが湧いてくるほど健やかな日々だった。
自分でもなにを言っているかわからないが、身も心も健やかすぎてわけがわからなくなっているだけですよ。
「タカト。風が気持ちいいね」
「そうだな」
長いこと地下に籠っているからか、マスク一つでもこの臭いに文句を言わなくなったメビ。吹いてくる風に気持ちよさそうにしていた。
………………。
…………。
……。
いや、ちょっと待て。風が吹いているだって? ここ地下だよ。地上から二、三百メートルは下だぞ? エルフが地下に避難するために造られた都市なんだぞ? 風が吹くってなんだよ? 動力は死んでいて空気清浄機も止まってんだぞ? なぜそこで風が吹くんだよ? 明らかにおかしいだろう!
「……そう言えば、たまに洞窟の奥から風が吹いてくるって言ってたよな……」
なんだろう。体が震えてきたんだけど……。
「いや、落ち着けオレ。まだ焦るときじゃないだろう」
単純に考えたらどこかが開いて風が流れ込んできたってこと。じゃあ、それはどんな理由で開いた? 偶然? 風が強いときに起こる現象か? 季節によるものか?
考えるがオレの推理力では答えは導き出せない。
だが、これまでの経験からこれは悪いことが起こっているとわかる。メッチャ不味い状況に流れているとわかってしまうんだよ。クソが……。
なにが起きているかわからない。だが、急を要するってことはわかる。
「建物の外にいる者は急いで建物の中に入れ! 緊急事態だ!」
チートタイムをスタートさせて全員に叫び、プランデットに備わるアラートを鳴らした。
「タカト、どうしたの?」
「どうも不味いことになっているかもしれん」
「風が吹いたことが?」
「そうだ。戸締まりしていた家に誰か入ってきた状況だ」
よくよく考えたらこのマイセンズはおかしいことばかりだ。
ゴブリンがいるのはまだしもロースランはどこから入ってきた? バッフは? バッフのエサになった鳥は? なにより、ロンガルがいることだ。
自分できたのではないのなら誰かが連れてきたってこと。あの巨体を連れてこれるだけの存在が。
そう考えたらロースランの行動も見えてくる。十メートルもある特異体が隠すように子供を育てていた。それは狙われるから。その存在はロースランも食うから大切な子供を守っていたのだ。
どれもオレの妄想でしかないが、なぜか答えを導いてしまった感が凄い。
間違っているならそれでいい。皆には間違いでしたと謝ればいいだけだからな。だが、当たっていた場合を考えたら安全を優先させるべきだ。ロンガルやロースラン食う相手とまともに戦ってられるかよ!
「イチゴ。メビを地上に連れていけ」
「あたしも残る!」
「ダメだ。いざとなったらホームに逃げられなくなる。一人のほうが生き残りやすいんだ」
相手が動く存在ならホームに逃げたほうが安全だ。入れないメビがいるほうが危険である。
「まずは状況を確認する。それがわからない以上、逃げる。ダメなら隠れる。そのためには一人のほうがいいんだ。勝つために退け。そして、生き残るために準備をする。メビも生き残るための一つだ。いけ!」
いけ! は、イチゴに命令したもの。理解したイチゴは「ラー」と答え、メビを抱えて発着場から飛び出した。
マンダリンに乗り、ホームに入った。
「ミサロ! 非常事態だ! ガレージに待機してくれ!」
そう叫ぶと、ミサロが中央ルームから飛び出してきた。意外と俊敏なんだよな、こいつって。
「なにがあったの!?」
「わからん! だが、なにか危険なものがいるっぽい! これからそれを確かめる。ラダリオンとミリエルがきたら非常事態と外に伝えるように言っておいてくれ。なにが起こっているかわかるまでそこを動くなともな」
今、こちらにこられても困る。二人がバラけていることも重要なのだからな。
「ブラックリンで出る」
パワーと機動力はこっちが高い。それに、催涙弾を積めば煙幕の代わりになるだろうよ。
積める数は十二発。ちょっと心もとないが、大口径のEARは魔力盾も展開できる。RPG−7でも防げるだろうよ。
……まあ、だからって受ける気はないけどさ……。
マナックが入っていることを確認し、プランデットとの連動させる。
「無茶しないでね」
「ああ、無理もしないよ」
まずは状況確認が最優先。できたら速攻で逃げるさ。
起動させて浮かせたら玄関に移動。そして、外に。発着場から飛び出した。
「捉えられる距離に動体反応はなしか」
プランデットは装着者の魔力で動いており、機能もそれに反比例する。オレの魔力では二キロが精々だ。通信でもそのくらいが精々だろうよ。
だが、今回はブラックリンから魔力をもらえばチートタイムと同じくらい捉える範囲が広がる。
「……反対側でかなり大きい動体反応があるな……」
サイズまではわからないが、この反応からしてロースランの軽く十倍。特異体の三倍はありそうだ。
「怪獣でもいるのか?」
魔力反応も高い。まさか竜とかじゃないよな? アルズライズを呼ぶか?
いや、すべては確かめてからだ。
あちらにどれだけの察知能力があるかわからない。なるべく低く飛び、マナ・セーラを抑えて反対側に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます