第418話 かましてやった

 グロゴールの観察も四日が過ぎた。


 嫌がらせ攻撃にイライラしながらもマイセンズに散っているローダーが逃げ出そうとすると追いかけ、羽をむしって逃がさないようにしている。完全にエサと認識して気に入ったようだな。


 オレたちのことは周りを飛び交うハエくらいに思っているようで、近づかなければ無視をし、嫌がらせに入ると真夜中の蚊を払うかのように執拗に追いかけてきた。


「徐々にイライラ度が増えていっているな」


 夜中になっても眠ることはなく、マイセンズを徘徊してはローダーやロスキートを痛めつけ、気が向いたら食らっていた。


「アルズライズ。オレたちはホームに入る。続きを頼む」


「了解。嫌がらせするから出るときは注意しろ」


「熱くなるなよ。じゃあ──」


 そう言ってホームに入いった。


 シャワーを浴びたら食事をいただき、中央ルームで寝る前の一時を過ごす。


「なあ、ミサロ。竜って寝ないのか?」


 ふと疑問に思ったことを口にした。


「寝るわよ。ただ、長いこと起きられているみたいね。調べた者によれば十日くらい眠らなかったって話だわ」


 十日かぁ~。確かに長いこと起きてるな。じゃあ、長期戦になるのか? それはそれで困るな~。皆の集中力も保てないだろうしなー。


「……少し、強めに嫌がらせしてみるか……」


 一度キレさせて一日放置する。ブチ切れて暴れてくれたら疲労も溜まってくれそうだしな。


 皆で考えたら早めに就寝。万全の体調で外に出た。


 グロゴールは湖のほうに移動しており、小刻みに動いていた。


「アルズライズ。外に出た。グロゴールはなにをしているんだ?」


「ローダーの卵を食っている。どうもメスは食わず、食うのはオスだけみたいだ」


 アルズライズ、ローダーのオスメスの判断がつくんだ。オレ、まったくわからんかったよ。


「そうか。オレらはこれから強めの嫌がらせを行う。ほどよくブチ切れさせたらホームに逃げる。安全な場所に隠れてくれ」


「フフ。グロゴールもお前みたいな者に狙われて哀れなものだ」


「あんなヤツに出会うオレのほうが哀れだよ」


 あんな怪獣と戦うとか不運でしかないだろうがよ。チートタイムも乱発できないんだからな。


「勢い余って倒すなよ」


「止めはアルズライズに譲るよ」


 通信を切り、湖に向かって飛んだ。


 タワマン群までは向かったら降下させ、位置を悟られないよう縫うように飛んでいき、前にカインゼルさんが陣取ったタワマンの屋上に着陸させた。


 グロゴールは湖に入り、顔を突っ込んでは湖に沈んでいる卵を食っていた。


「美味いのか?」


 さすがにローダーの卵とか食う気にはなれんが、グロゴールに食われて元気になられるのも困る。チャンスがあればサン○ールでも撒いてやろうかね。J○Yのほうがいいか?


「カインゼルさん。九時からグロゴールに嫌がらせを行います。そちらに誘導するので煙幕弾を放ってください。タイミングは任せますんで」


 通信は全方位に放ってある。アルズライズとの会話も聞いていたはずだ。


「了解。撃っても構わないか?」


「倒さないていどにな」


「フフ。努力するよ」


 通信を終わり、落ちていたバレットを拾い、マガジンを交換してグロゴールに向けた。


 こいつを扱うのは久しぶりだが、距離は一キロ。標的はデカい。嫌がらせをするのだから問題はない。あ、先にマガジンを回収しておかないと。バレットのマガジン、一本五万五千円もしやがるからな。


 五本を回収してホームに戻したら再度バレットの銃口をグロゴールに向けた。


 ハエていどの殺意などまったく感じないようで、ゆっくり照準を合わせてもこちらに気づくことはなかった。


 ちょうどケツを向けたのでファックなユーをかましてやった。


 悲鳴がここまで届いてくる。よほど痛かったのだろう。奇跡的に弱点を狙っちゃった?


 のたうち回るグロゴールに二発三発と撃っていき、十発すべて当ててやった。ザマーミロ!


 とは言え、効果があったのは最初の一発だけ。残りはすべて鱗に弾かれてしまったよ。


「おっ。さすがに気づいたか」


 痛みを堪えながらグロゴールがこちらを見た。


 伝わるかわからないが、ファックなユーを指で示してやった。いい子も悪い子も真似しちゃいけないよ。


「フッ。意味はわからなくても侮辱されたことはわかったみたいだな。賢い賢い」


 テメー殺す! とばかり咆哮をあげ、こちらに向かって駆け出した。


「イチゴ。逃げるぞ」


 背を合わせてブラックリンの後部座席に座り、落ちないようイチゴとロープで繋いだ。


「イチノセ。グロゴールが飛びました」


「了解。グロゴールの速度に合わせて逃げろ」


 飛ぶ速度はあちらが速いが、アルズライズが言ったように小回りは効かない。サッと避ければ大きく旋回しないと方向転換できない。このタワマン群ではさらに小回りできないだろうよ。


 タイミングを合わせてブラックリンをテイクオフ。フルスロットルで飛び出したらグロゴールが屋上に現れた──ら、屋上を強く蹴って向かってきた。


「イチゴ、タワマン群から逃げろ!」


 タワマン群は謂わばジャングルだ。木を蹴るように動けるってことだった。地の利はあっちにありました~!

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