第417話 弱者の強者

 ブラックリンを飛ばして洞窟の前に降ろした。


「マイズ。ロスキートをこちらに誘導する。全員で倒すぞ」


 グロゴールがロスキートを食うかもしれないが、うろちょろされて邪魔されたくない。サイルスさんたちが引きつけてくれている間に排除する。


 ブラックリンをホームに戻したらイチゴがいる場所に向かった。


 イチゴはロースランが巣くっていた洞窟の中に入ったようで、そこら辺にロスキートの動体反応が犇めき合っていた。


「マイズ。EARを持つ者で仕掛けろ。オレとメビは援護だ」


 EARなら四百発撃てる。畳みかけるなら最適の武器であり、ロスキートなら充分殺せる威力はあるからな。


 マイズたちエルフが前に出てロスキートの背後から襲いかかった。


 イチゴに集中しているからロスキートはオレたちに気づかないままにミンチにされていく。背後から襲うのクセになりそう!


「メビ。EARに交換して洞窟に入れ」

 

「わかった!」


 オレの持つEARとメビの持つリンクスと交換する。


「マイズ。メビに一人つけさせてくれ。残りはロスキートの魔石を取るぞ」


 せっかくの魔石。放り出してはいけんでしょう。


 洞窟に入っただろうロスキートはメビたちに任せ、オレたちはミンチの中から魔石を探った。


 ほとんどを集め終わったら洞窟からメビたちが出てきた。


「タカト、魔石いっぱい取れたよ」


「ご苦労さん。まずは場所を移すぞ」


 魔石が入った袋を受け取り、団地に向かう。ここは視界がいいからな。ゆっくりできる場所に移ってから休憩だ。


「イチゴ。洞窟にロースランはいたか?」


「いませんでした」


 場所を移したか? 変なところで遭遇しないといいんだがな。


 団地に入り、グロゴールが侵入されないよう地下に降りた。


 まずはルンの補給。アポートポーチからペットボトルを取り寄せて皆に配った。


 一息ついたら皆にグロゴールの説明と大まかな作戦を伝える。


「このメンバーは俊足ばかりだ。安全な場所からグロゴールに嫌がらせをしてくれ。怒らせて冷静な判断をさせないようにする」


 相手は強者。弱者を狩るのに考えて狩るなんてことはない。ただ一方的に狩るまでだ。仮に知恵があったとしても野生の生き物が怒りを制御できるとは思えない。理性より本能を優先するだろう。


 その見極めをするためにも嫌がらせは最適だろう。こちらは相手の位置がわかり、通信ができる。さらにあの巨体では建物の中に入ってはこれない。建物を壊すほどの力があるなら体力を削れるってものだ。

 

「ふふ。竜相手に嫌がらせですか。マスターはおもしろいことを考えますな」


「弱者はいつだって頭を使って生き残るしかないんだよ」


 グロゴールのように速く走れないし、鋭い爪もない。相手を知って勝てる道具を作って安全な場所から敵を弱らせ群れて止めを刺す。


「オレたちは弱者だ。だが、弱者だからって素直に狩られる立場にいると思うなよ。弱者には弱者の戦い方があるってことを教えてやる。最後に勝つのはオレたちだ」


 こんなところで死んでたまるか。ダメ女神の駒として死んでやるものか。オレは生きて老衰で死んでやるんだ。グロゴールなんかに食われてたまるかよ!


「メビ。ハンバーガーとおにぎり、水はたくさん買っておく。嫌がらせにはHスナイパーを使って弱そうなところを狙え。グロゴールは速くて視力がいい。見られたら即座に逃げろ」


「あたしも逃げ足は速いから大丈夫だよ」


 そうだったなとメビの頭を撫でた。


「オレとイチゴは遠くからグロゴールを観察して、皆に報告と指示を出す。いつでも畳みかけられるよう体調は万全にしておけよ」


 生き残れたらいい酒を飲ませるから、って言葉は飲み込んだ。完全に死亡フラグだからな。


「マイズ。あとは任せる。誰かのために死ぬなんて絶対にするな。仲間のために生き残れよ」


「安全第一、命大事に。確実に勝つ。セフティー・ブレットの名に恥じぬ一撃となりましょう」


 エルフたちがニヤリと笑った。


 戦士系のヤツらばかりだからノリが汗臭い。オレはスタイリッシュなスパイ系が好みなのにな。


 まあ、ノリは大切なのでニヤリと応えて外に向かって走り出した。はっずかしぃーっ!!


 ホームからブラックリンを出してきて操縦はイチゴに任せ、オレは後ろに跨がった。


 上空に飛び立ち、三次元マップを展開。動体反応センサーを重ねる。


「イチゴ。十時方向三キロ先にグロゴールがいる。天井ギリギリをゆっくり飛んで向かえ」


「ラー」


 ブラックリンを上昇させて、まさに天井ギリギリで飛ばすイチゴ。いや今かすったよ!


 頭を低くして三次元マップに集中する。


 グロゴールは一ヶ所に止まっているが、小刻みに動いている。隠れたカインゼルさんたちを掻き出そうとしてるのかな?


 アルズライズとビシャの反応は……あった。団地の屋上にいるな。


「イチゴ。背後から近づけ。いざとなったらホームに入る」


 二百キロでホームに入ったらガレージに突っ込んでしまう。事前に言っておけば対応してくれるだろう。頼むからね。


 ブラックリンを降下させ、速度を上げる。


 グロゴールはこちらに気づかないまま三百メートルまで近づけた。


 今ならRPG−7を撃てるが、それで倒せる確証はない。ブラックリン搭載のEARをぶっ放した。


 予想どおり背中の鱗に弾かれた。が、痛覚はあるようで掻き出そうとするのを止めてこちらに目を向けた。


 ……大洪水を起こしそうな眼力だぜ……。


「イチゴ、上空に逃げろ」


「ラー」


 凄まじい速度で追ってくるが、アルズライズが言ったように飛ぶのは苦手なようで飛んで追いかけてくることはなかった。


「イチゴ。三キロ離れろ」


「ラー」


 グロゴールは追ってこない。雑魚と思われているようだ。


「今のうちにナメておけ。強者の弱者め」

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