第281話 アシッカの町

 朝になり、まずはオレの運転でゼイスを後ろに乗せて町に向かった。


 門の前にはミリエルたちがいて迎えてくれた。


「ご苦労さんな。アルズライズ。これで雪を解かしてくれ。暖かくなったと勘違いしてゴブリンが土の中から出てくるかもしれんからな」


 ヒートソードを二本と乾電池の箱を渡した。


「あたしもやる!」


 と言うことでアルズライズとメビにやらせることにした。


「ゼイス。あとは頼む」


「わかりました」


 ゼイスには残りの皆を運んでもらう。オレはやることがあるんでな。


「サイル。段取りはできているか?」


 先に町に送り込んだ職員の一人で、サイルとカナルは兄弟だ。


「はい。食料と給金を出すと言ったら子供まで集まりましたよ」


 それだけ切羽詰まっているってことか。まさに滅びる五秒前、だったんだな。


「まあ、暴動を起こされるよりはマシだな。ゴブリン駆除ギルドが活動しやすくなるように上手く町の者を使ってくれ」


「はい。お任せください。女たちにも炊き出しさせて、朝食を作らせてやる気を上昇させてます」


 そう指示は出したとは言え、スムーズに用意できるんだから優秀な兄弟だよ。


「なるべく冬の間にゴブリンは片付けておきたい。やりたいときた者は可能な限り雇ってくれ」


 町の周りにはゴブリンの死体が重なり合っている。それが春になって腐ったらとんでもないことになるのは目に見えている。そうなる前に死体は埋めておくべきだろうよ。


「かなりの金額になりますが、大丈夫なんですか?」


「大丈夫。損失はあとで回収するから」


 オレに商才はないが、チートはたくさん持っている。ホームを通せば数百キロ先から商品を持ってこれるし、腕輪の力を使えば物資は増やし放題。町の者に金を渡して物を売る。どうかマッチポンプ野郎と罵ってくださいませ。


「それと、酒だけは出すなよ。酒は支部のほうで売るからな」


 食料不足に陥ってたのだから酒なんかもないはずだ。ならば、酒を売っているとわかれば酒飲みは絶対に買う。オレなら買う。だって仕事終わりの酒は至高だもの。


「マスターはアシッカ伯爵領を乗っ取るつもりですか?」


「ゴブリン駆除するだけで精一杯なのに、領地経営までやってらんないよ。アシッカ伯爵領から海までは四日って話だ。コラウス、アシッカ、海までの道を築くのがオレの目的だ」


 水の魔石は海の魔物から取れる。なら、中間地点のアシッカは味方にしておくべきだろう。


「……壮大なことを考えるんですね、マスターは……」


「ゴブリンがいなくなればいるところに移動しなくてはならない。そのための道は必要なんだよ。より速く移動できるようにな」


 旅から旅のゴブリン駆除業などごめんだ。せめて出張ていどに抑えておきたいよ。


「もし。めぼしい人材がいたら確保しておけ。コラウスからアシッカに移動したくないのならな」


 ゴブリン駆除ギルドはまだ人材不足。アシッカに支部を置くならコラウスから人を送らなければならない。なら、今働いているヤツに、ってのが自然な流れ。じゃあ、サイルとカナルってことだよね、ってことだ。


「わ、わかりました! 人材を確保しておきます!」


 やはり優秀なだけあってオレの言いたいことを理解してくれた。


「ミリエル。支部に案内してくれ」


 伯爵と会う前に支部を見ておきたいんでな。それに、この格好で会うのは失礼だろう。領地は貧乏でも伯爵はかなり高い地位なんだからな。


「はい。こちらです」


 ミリエルの案内で門を潜ると、中も大量に積もっており一人歩くのがやっとの道ができていた。


 ここら木造建築の家が多く、二階建てがほとんど。ただ、所々空間ができている。雪の重みで潰れたのかな?


「薪不足で空き家から板なんかを持っていったそうですよ」


 なるほど。木造建築も悪いことばかりじゃないんだな。いや、悪いことが起こっている状況だけど!


 町は東京ドームくらいだろうか? 町としてはとても小さい。よくこれで成り立ってるよな。食料や薪を貯蔵するのも大変だろう。


「昔は城壁の外にも町はあったそうですよ。遥か先まで麦畑も広かったとか」


「今はその面影もなしか」


 コラウスでもそうだったが、ゴブリンは本当に害悪にしかなってないな。こりゃ人間が脅かされるわけだよ。


「ここです」


 何日か前から掃除を始めていたからか、デジカメの映像より綺麗になっていた。


「家具や道具は館から運びました」


「買っていて正解だったな」


 これからもっと人が増えるだろうとゴルグや人間の職人に家具を頼んで使ってない部屋に入れておいた。それが役に立つんだから備えあれば憂いなし、だ。


「マスター」


 支部を任せていたカナルと近所の奥様と思われる女性陣がやってきた。


「ご苦労さん。随分と進んでいるようだな」


「はい。近所の方々が手伝ってくれましたので」


「それはありがとうございました。報酬は弾むのでよろしくお願いしますね」


 ご近所さんとは仲良くしておくべき。ましてや奥様連中とはな。


 ……大きなお姉様方を味方につけておくのが大切と工場で学んだよ……。


「ああ、もちろんさ。あんたらがきてくれて命拾いしたからね。いつまでもいておくれよ」


「ええ。ゴブリン駆除ギルドの支部を置きたいですしね。皆様のお力をお貸しいただけると助かります」


 にっこり愛想よく奥様連中にお辞儀した。


「カナル。あとはよろしく」


「はい。お任せください」


 駆除員用の部屋に向かい、そこからホームに入った。

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