第280話 デザートミーティング

 スノーモービル、めっちゃムズかった。


 まあ、ここがスキー場とか高原だったらマシなんだろうが、新雪では上手く走ってくれない。起伏があったところで横転もしてしまった。


 チートタイムを使いながら踏み潰していき、走りやすい状態にしていきながら簡易砦に向かった。


「さらに森の中は走り難いな」


 歩いて移動しているときは意識しなかったが、雪が積もると結構起伏があり、何十回と横転するわ、埋まるわで泣きたくなってきたよ。しかも、雪の重みで枝は垂れてるし、雪は舞うでトホホである。


 なんとかかんとか簡易砦に到着。服の下は汗でびしょびしょだよ……。


「マスター! これはなんですか?!」


 スノーモービルに興味津々なゼイス。お前も乗り大好き男子か?


「雪の上を走るスノーモービルと言うものだ。興味があるなら運転してみるか?」


 通り道を踏み潰してくれるならもっと走りやすくなる。


「はい! 運転したいです!」

 

 随分食いついてくるなと思ったら、パイオニアも興味があって積極的に運転を覚えたそうだ。


 パイオニアを運転できるならスノーモービルはそう難しくない。スクーターとほぼ似ている。まあ、アクセルが違うが、押せば進む。ブレーキを引けば止まるは同じ。ただ、スノーモービルが不安定な乗り物だからか、雪の上を走る所以か、体重移動が鍵となる乗り物だ。


「まずは簡易砦を一周して、スノーモービルに慣れろ。あ、スコップを持っていけ。埋まったり横転したりするからな」


「わかりました!」


 しばらく見守って、大丈夫と判断したらホームに入った。


「ん? いい匂いだな」


 今度はなにを極めんとしてんだ?


「ラーメン。煮干スープを作ってるの」


 なにに感化されて煮干ラーメンにいき着いた? ミサロがきてからラーメンは食べてないよね? なんか大宇宙から電波でも受けてんの?


「そ、そうか。ミリエルはきたか?」


「先ほどきてたわ。タカトが町の周りを回ってたから何事だってね」


「そうか。伝えてからやればよかったな」


 失敗失敗。


「夕方にまたくるそうよ」


 今は十六時前。なら、一時間もしないでやってくるな。


「風呂に入ってくる」


 カイロを貼っていたとは言え、結構冷えた。久しぶりに湯に浸かることにしよう。ふーいい湯だ。


 ぽかぽかになって上がると、ミリエルとラダリオンが集まっていた。


「少しずつ早いけど、夕食にしましょう。今日は鶏肉と野菜の煮込みラーメン味噌味よ」


 あ、煮込んでいた煮干スープは使わないんだ。まあ、煮込みラーメン味噌味も美味いからいいけどさ。


 皆で食卓を囲み、ミサロが作ってくれた煮込みラーメン味噌味を食べる。


 ラーメンは熱いうちに食え。鍋奉行ならぬ食事奉行のラダリオンの決まりでハフハフズルズルと煮込みラーメン味噌を無言で食べる。


 食べ終われば各々好きなデザートを冷蔵庫から出してきて、デザートミーティングをする。


「この雪でゴブリンが穴を掘って隠れたから町に移ることにする」


 このまま簡易砦に閉じ籠っていても仕方がない。拠点を町に移すとしよう。


「明日から人を移すから門の前を雪かきしててくれ。ヒートソードを使えばそう苦労はしないはずだ」


「わかりました。伯爵様もタカトさんと会いたいと言ってました」


 偉い人ととの挨拶は勘弁して欲しいが、拠点とするなら挨拶は必須。必要なことと諦めろ、だ。


「この雪だから挨拶するのは夜になるかもしれんな」


 スノーモービルは一台。二人乗りなので往復するだけで午前中はかかるだろうよ。


 橇を牽引する方法もあるが、オレもゼイスも橇を牽引して走らせるほど熟練してない。安全のためにも一人ずつ運ぶとしよう。荷物はホームに入れたらいいんだからな。


「伯爵様の紹介で大通り沿いの元商家だった家を借り受けました。今は職員と近所の奥様が掃除をしてくれてます」


 デジカメを出してくれ、撮影した画像を見る。


「想像してたより大きいところだな」


 一階が店で裏に広場と倉庫が二つあり、二階には部屋が四つもあった。ただまあ、トイレが外にあり、簡易トイレより粗末なものなのは仕方がないことなんだろう。これは、職人に作り直してもらう必要があるな。


「数年前から商人たちが逃げ出しているそうです」


「ゴブリンが原因か?」


「はい。かなりの被害が出てたそうです」


 弱いところに、とか配慮したように言いつつ一つの場所が終われば次の場所に、か。確実に計画的犯行だな、これは……。


「ラダリオン。コラウスはどうだ?」


「朝から晩まで雪かきしている」


「そうなると豆を集めるのは時間がかかりそうだな」


 前と同じなら馬車が往来できるまでには春まで無理っぽいな。なにか対策を考えないと町で暴動とか起きるかもしれんな。


「あ、いいのがあった」


 小学生の頃、夏休みの自由研究でやったヤツなら十五日縛り内ですぐに生るはずだ。それに、種も安かったはず。


「ミサロ。もやしを大量に買って冷蔵庫に入れておいてくれ」


「もやし?」


「ああ。豆の一種で、塩胡椒で焼いただけでも美味い食材だ」


 ビールの肴に無限もやしってのもよかったっけ。


「……もやし、ね。わかった。買っておくわ」


 どうやら次はもやし料理を極めんとするみたいだ。伯爵様にも出してやるか。


 それぞれの報告をしてから簡易砦に出て町に入ることを伝えた。

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