第279話 ベンチャー・マルチ・パーパス

 ホームでミーティングして外に出ると、雪が降っていた。


 急激に気温が下がったから降るかな? とは思ってたが、かなりのぼた雪が降っている。これは積もる雪だ。


 ヒートソードを三百度くらいにして石の上に置いた。


 握っていれは熱は感じず、刃のほうに回れば熱は感じる作りとなっている謎技術。まあ、いい暖房具となるのだから気にするな、だ。


 ヒートソードが二本となったので左右に配置すればなかなか暖かい。そのまま横になって眠っても風邪を引くことはないだろう。


 職員やドワーフには酒を飲ませたので先に休ませ、ミロルドと二人で見張りに立った。


 一緒に、ってわけじゃないからしゃべることはないが、状況確認のために十五分毎に合流して、軽くおしゃべりして互いのことを二、三、しゃべるようにした。


 意外と、と言っては失礼かもしれないが、ミロルドは結構気さくな性格をしており、アルズライズと同じで食べることが好きなんだそうだ。


 その割には細いな、とか思ったのは内緒。きっとエルフの血がスレンダーとさせるのだろう。きっとそうだ。そうに違いない。と、自分を言い聞かせて体型のことは触れないようにした。


 午前二時に交代し、ホームには入らずヒートソードで暖を取りながら朝までぐっすり眠れた。


 午前中は手の空いている者でスコーピオンの掃除やマガジンに弾を込めに使い、午後は雪の降りが凄くて休むことにした。


「数十年振りの大雪ですね」


 さすがに一メートルも積もると見張りに立つのも危険なので、雪が止むまでは皆で焚き火を囲むことにした。


「コラウスも降っているのか?」


「おそらくここ以上に降っていると思います。前は二十日くらい家から出れなかったと聴きましたから」


 二十日もか。なら、餓死者も出ていたことだろうな。


「ゼイスはそのときいなかったのか?」


「おれはザダルム男爵領の出身で、コラウスにきたのは八年前なんです」


 へー。領外出身なんだ。


 そんなことを話していると、報酬がぽつらぽつらと入ってきた。


 もしかして、昨日のヤツか?


 自然死は報酬にならないと思ってたが、死ぬきっかけを与えたら報酬になるのか? その辺の判定がいまいちわからんな。


「ゴブリン、この雪で死にますかね?」


「いや、もっと寒い中でも生きていたから死なないとは思う。とは言え、この雪だからな。もしかしたら穴でも掘って凌いでいるのかもしれん」


 微かに町を囲むゴブリンの気配は感じる。まさか雪に埋もれているわけじゃなかろうから穴を掘って寒さを凌いでいるんじゃないか?


「少し、町を見てくる」


 ホームに戻り、防寒着を着込んできた。


「ヒートソードを二つ持っていくから焚き火で凌いでくれ」


「タカト、あたしもいく」 


「いや、ビシャは残ってろ。様子を見てくるだけなんだしな」


 さすがにこの雪ではどうしようもないし、いざとなったらチートタイムを使って逃げ出す。だから一人のほうが都合がいいのだ。


 簡易砦内はヒートソードの熱で積もってないが、外は一メートル半は確実に埋まっていた。


「こんなことならスノーモービルを買うんだった」


 ダメ女神はこのことを臭わせていたのか? まあ、ヒートソード二つあるから問題ないけど。


 ヒートソードの最大熱は二千度。とんでもない熱放射をするので、歩くスピードで溶けていってくれている。


 まあ、二千度は十分しか持たないから電池交換が激しいが、除雪機で進むよりは速く進めているはずだ。


「てか、水蒸気が凄まじいな」


 水魔法で防がないとびしょ濡れだ。てか、森から出るだけで魔力が枯渇しそうだな。


 電池が切れたので、ちょっと休憩。まったく、雪は手強いぜ。


「ゴブリンの気配はかなり小さくなっているな」


 適当に創られた命なのにゴキブリ並みに生命力が高い生き物だよ。もしかして、ゴキブリも適当に創られた命なのか?


「前言撤回。スノーモービルを買おうっと」


 今のところ七百万円はあるし、五十パーセントオフシールもある。この雪じゃマイセンズにいくこともできない。


 まあ、マイセンズも雪で埋まっているかもしれないが、あのダメ女神がいけと言うのだからいってみないと許してくれんだろう。スノーモービル一台くらい安い出費だ。と思わないとやってられんわ!


 ホームに戻ると、玄関にミリエルとラダリオンがいた。防寒着を着込んで。


「やはりコラウスも雪なんだな」


「うん。館から離れにいくのも大変。今、ゴルグたちに雪かきしてもらってる」


「町も同じです。伯爵様の館から出れない状態です」


「ハァー。広範囲で雪が降っているのか。これじゃ交代はできないな」


 パイオニアも埋まる積雪量だ。タイヤからクローラ(キャタピラー)に換える必要があるだろう。やり方は知らんけど。


「雪が解けるまでは帰れませんか?」


「いや、一人二人なら帰れる術はあるが、金次第だな」


 タブレットを使ってスノーモービルを探した。


 いろいろあるが、困ったらヤマハかホンダだ。性能なんて紙一重。好みで選ぶしかない。


「ヤマハのベンチャー・マルチ……パーポス? パーパス? ってのにするか」 


 日本語表示にしとけや。英語、そんなに強くねーんだからよ。まあ、名前が長いからスノーモービルって言うけど。


「これはバイクですか?」


「どちらかと言えばパイオニアとかウルヴァリンの仲間だな。これは、スノーモービル。雪の上を走る乗り物だ」


 スノーモービルは乗ったことがないので説明書でお勉強。フムフム。まあ、バイクと同じだな。どっちやねん! とか言わないで。オレだってそこまで詳しくないんだからさ。


「タカト。これも読める?」


 ラダリオンが小冊子みたいなのを差し出した。


「ユンボ?」


 油圧ショベル、またはショベルカーやバックホーとか呼ばれているものだ。どれやねん! 


「どうしたんだ、これ?」


「じーちゃんが買った」


 カインゼルさんが? あ、そう言えば、大きなものを買うって言ってたな。じゃあ、これを買ったのか? 働く車好きか?


「故郷の川の流れを変えたいって言ってた」


 だったら巨人に頼めばいいものを。なにか不味いことでもあるのか? 


「時間ができたらミリエルに翻訳してもらって渡すよ」


 さすがにすべてを翻訳するのは無理だが、動かし方ならそう大した量ではないからな。


「わかった。そう伝えておく」


「あ、エンジンはかけておけ。バッテリーが上がるからな」


 今は冬だし、動かさないとダメだろう。タブレットで買った乗り物は燃料満タンになっているから一冬は持つだろうよ。


「また夜に」


 スノーモービルに跨がり、外に出た。

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