第278話 血円磁ヨーヨー

 プライムデーも終わり、休日を挟んで町に入る作戦を開始する。


 朝、太陽が昇ると同時に簡易砦を出発。森が途切れる手前でサーチアイを放ち、ゴブリンの様子を探る。


 ゴブリンは相変わらず町を囲んでいる。あいつらはなにをそんなに町に執着するんだ? 軽く四千匹は同胞が殺されたと言うのに……?


「ゴブリンは約二千。狂乱化した状態だ。死を恐れず襲ってくるだろう。サイルとカナルは町に入ることだけを考えろ」


 作戦はそう難しくはない。処理肉でゴブリンを引き寄せ、その間に職員の二人を町に向かわせる。それだけだ。


「は、はい」


「わかりました」


「ビシャとミロルドは、状況次第では町に入れ。問題なければ町を迂回して簡易砦に戻れな」


 二人はサイルとカナルを守るための護衛であり、道を開く要員でもある。


「大丈夫。任せて」


「失態は二度としない」


 なに気に馬が合っている二人。性格が似てるんだろうか?


 四人には遠回りで町の正面門側に移動してもらい、作戦開始時間は十時。ホームから処理肉を百キロをダストシュート。職員たちに美味しく焼いてもらった。


 前と同じくチートタイムをスタートさせて上空にジャンプ。ホームに入った。


 臭いに釣られて集まるゴブリンども。学習しないヤツらである。


 山となるゴブリンどもに手榴弾の雨を降らせ、無慈悲に爆死させてやった。


 それでも狂乱化は収まらない。仲間の血肉にさら狂い出していた。まあ、それならそれで職員とドワーフたちによる一斉射撃。それを上空から缶コーヒーを飲みながら眺め、手持ちの弾が切れたら外に出た。


 血の海に立ち、むせ返るような血の臭いの中で辺りを見回す。


「三、四百匹は倒せたか」


 まあ、この人数と9㎜弾では倒したほうだな。スコーピオンはそんなに射程は長くないし。


「さて。オレもやるか。チートタイムスタート!」


 血が地面に染み込む前に魔法で集めて圧縮。少しずつ回転させていき、薄く速く硬くしていき、ヨーヨーをイメージする。


 完成するまで一分以上もかかってしまったが、イメージしたものができた。


血円磁ちえんじヨーヨー!」


 魔力の糸を振り回し、押し寄せてくるゴブリンどもを斬り裂いてやった。スパなロボをやっていたら元ネタがわかるよね? 


 五十秒間だけの攻撃で大した数は倒せなかったが、後悔はない。オレは大満足である。次はもっと早く完成させて二つを作り出せるようにしてやるぜ。


「退くぞ!」


 グロックしか持ってこなかったのでさっさと逃げ出させてもらいます。


 森に入ったら補給地点へ。職員やドワーフたちは空になったマガジンを交換。オレはVHS−2装備に着替えた。


「第二ラウンド、いくぞ!」


 皆を連れて森から出て処理肉をばら撒く。


 狂乱化すると食欲が増すのか、簡単にゴブリンどもを釣ることができる。


 集まってきたゴブリンどもを横一列になって一斉射撃。弾が尽きるまで撃ち続けた。


「下がるぞ!」


 用意していたビニール袋に詰めていた処理肉をヒートソードで斬り裂いた。


 ゴブリンは町に執着しているようだが、最優先されるのは食欲。目の前に食い物があれば本能が放っておかない。狂乱化の臭いに誘われて続々と集まってくる。


 次の補給地点にきたら防毒マスクを全員につけさせ、五丁のM32グレネードランチャーで催涙弾を襲いくるゴブリンどもの中に撃ち込んでやった。


「気分の悪いヤツはいるか?」


「大丈夫です!」


 防毒マスクをしていてもこの刺激は結構くるものがある。何度も使っているオレでも未だに慣れないよ。


 催涙弾により苦しむゴブリンだが、止めを刺すのはあと。まずは場所を移動す。準備時間がなかったので、弾切れを起こしてグロックにしか弾が入ってないのだ。


 風上に移動したら順番にスコーピオンのマガジンに弾を込めていき、オレはM32グレネードランチャーを片付けたりホームから9㎜弾を持ってきたり、アサルトライフル用のマガジンを入れ換えしたりする。


 一時間ほどで終了させたら催涙弾を放ったところに戻り、苦しむゴブリンを始末させた。


 オレは辺りを警戒。催涙弾から逃れたのも結構いるんでな。


 ──パンパカパーン!


 どうやら二万匹から連絡音を変えたようだ。


 ──二万一千匹突破しましたー! 周辺にいるゴブリンは残り千六百匹くらい。それを駆除すれば一段落するよ。マイセンズに向かう前にゆっくり骨休めしてね~。 


 一段階、ね。また今回のようなことが待っているってことか? まったく、命がいくつあっても足りないぜ。いや、まだ一つも失ってないけどさ!


 しばらくすると、ビシャとミロルドの気配が近づいてくるのに気がついた。どうやら職員を町に入れる作戦は成功したようだ。


「タカト!」


 相当動いただろうに元気に走ってきて、オレにタックルしてきた。


 受け止め切れずに倒れてしまった。チートタイム外はオレ、弱すぎ。


「ご苦労様。ほら、まずは簡易砦に向かうぞ。がんばったご褒美に今日は焼き肉パーティーだ」


「やったー! あたし、アグー肉が食べたい!」


 焼き肉と言ったら牛肉なのに、ビシャは豚肉好き。そのうちミサロにトンカツでも極めてもらうか。


 まだ生きているゴブリンはいるが、太陽が傾いてきたし、気温も急激に下がってきた。あとは寒さがゴブリンを殺してくれるだろう。


「よし。撤退するぞ」


 職員やドワーフたちもさすがに疲れているようで、欲より休息を選んで速やかに撤退した。

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