第29話 最終ラウンド(*ラダリオン*)
お腹が空いて目が覚めた。
……昨日、あんまり食べられなかったからな……。
タカトと出会ってから毎日お腹一杯食べられるようになり、自然に目覚めるようになった。けど、昨日はタカトが心配でいつもの半分しか食べられなかった。
「そうだ。タカト!」
マットレスから起きて玄関にいくと、タカトが手足を伸ばして眠っていた。
「……よかった……」
思わずタカトに飛びつきそうになったけど、慌てて自分を止めた。小さくなったとは言え、あたしはマーダ族。人とは体の作りが違う。タカトが言うには巨体を支えるために筋肉のつきが人の何倍もあるそうだ。
よくはわからないけど、タカトが持てないようなものを持てて、タカトより小さいのにあたしのほうが倍以上重い。小人とは違うことはわかった。
だから手加減しないとタカトを潰してしまう。触るときは力を加減しないとダメなのだ。
「タカト」
優しく揺らすが、タカトが起きる気配はなかった。
ここでは体が痛くなるだろうからタカトを持ち上げてマットレスに運んだ。
……タカトは相変わらずいい匂いがするな……。
今は汗をかいてるけど、それでも大人たちのあの鼻が曲がるような臭いとは全然違う。タカトががんばった汗。あたしは好きだ。
なんて嗅いでる場合じゃなかった。タカトががんばったあとはあたしががんばらなくちゃいけないんだ。
冷蔵庫からケーキとオレンジジュースを出し、買い置きしていた食パンにたっぷりジャムをつけて食べ、残っているバナナとリンゴを食べた。すべてを完食し、オレンジジュースを飲んでちょっとお腹が落ち着いた。ふー。
親といたときはお腹一杯なんて食べられず、いつもお腹を鳴らしてばかりいた。子供だからとちょっとしかもらえなかった。
でも、タカトといるとお腹一杯食べられる。どんなに食べても怒られない。それどころか食べ切れないほど出してくれた。まさか食べ切れなくて残す日がくるなんて夢にも思わなかった。
けれど、それはゴブリンを殺さないとできないこと。タカトが神より与えられた使命だ。
タカトのためにもあたしのためにもゴブリンを殺さなくちゃならない。そのためにもいっぱい食べなくちゃならない。これからはお腹を満たすためじゃなくゴブリンをたくさん殺すために食べなくちゃならないんだ。
でも、朝は満腹にしない。もうちょっと食べたいな~ってくらいで止めておいたほうがよく動ける。
だから朝はケーキ一つだけ。がまんはできる。だって、昼にも食べられて、夜には三つも食べられるんだから。
少し食休みしてから準備に取りかかった。
練習で何度か着たからすぐに着ることができ、武器と装備の確認をする。
背中にマチェット。右手にはショットガン。弾は腰の袋にいっぱい。熊避けスプレー二つ。ガスマスクにイヤーマフ。そして、最後に消火器二つ。
大丈夫。使い方は覚えた。練習もした。あたしはやれる。
そう何度も呟き、自分を鼓舞する。
窓から外を見る。
太陽はとっくに昇っていて、近くにゴブリンの姿はない。よし! と外に出た。
「すごい臭い」
火薬の臭いとゴブリンが焼けた臭い。タカトがガスマスクしろって言った意味がよくわかる。直接嗅いだら吐いちゃいそうだ。
この臭いでゴブリンの位置がわからないけど、問題ない。動いているものは撃て。潰せ。薙ぎ払え、だ。
「燃えてはいないか」
タカトが火を爆発させるから森が燃えるかもしれないって言ってたけど、火が上がってるのは見えない。廃村から煙が上がってるのが見えるだけだ。
けど、セフティーホームに入ったところから結構離れてる。煙の中で燃えてるかもしれないから消火器は捨てないで持っていく。
「あ、ゴブリン」
火傷したゴブリンがいたので消火器で潰しておく。
廃村に近づくにつれ、火傷したゴブリンがたくさん出てきた。
最初は潰してたけど、さすがに多すぎる。まずは廃村に向かうのを急ごう。
「……いっぱい死んでる……」
煙でよくわからないけど、臭いからよくわかる。あたしじゃ数え切れないくらいのゴブリンが死んでいる。
「少し木々が燻ってるかな?」
山火事は怖いので、消火器を使って廃村の周りに噴きかけ回った。
「あ、ゴブリンふんじゃった。汚っ!」
子供の頃はゴブリンを足で踏み潰して遊んだものだけど、タカトと暮らすようになってから清潔にしてたらゴブリンを踏むことが気持ち悪くなってしまった。
……消火器は使い捨てだから問題はない……。
「そう考えると、銃っていいかも」
うるさいのが困りものだけど、ちょこまかと動くゴブリンを殺すには最適だ。飛び血もかからないし。
空になった消火器を遠くに投げ捨てる。
マチェットを抜いて転がるゴブリンを掻きよけてると、他のゴブリンより大きなゴブリンを発見した。
「これがゴブリンの王かな?」
ゴブリンの王を見たことないけど、あたしの腰くらいまである大きさなら王で間違いないだろう。
「あ、生きてる」
マチェットで仰向けにしたらビクッて動いた。さすが王。生命力が強い。
少し離れてショットガンを構え、引き金を引いて王を殺した。
「呆気ない」
ゴブリンも王ともなればマーダ族の大人にも勝てる強さがある。昔のあたしならあっさり殺されたかもしれない。タカトが弱らせて、ショットガンがなければこうもあっさりと殺すことはできなかっただろう。
「ん? 生き残り?」
木々の間からゴブリンが見え、逃げ出してしまった。
「昼までまだあるし、タカトが起きるまで殺すか」
タカトは高いところからセフティーホームに入った。なら、出るときも同じ高さ。あたしが受け止めないといけないのだ。
「いっぱい殺してタカトを驚かせよう」
ショットガンの弾を入れ換え、生き残りのゴブリンを探しに向かった。
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