第380話 *メールです*

 二日ほど休息したら地上に戻る準備に取りかかった。


「タカトさん。では、出発しますね」


 まず最初にミリエルと護衛隊、そして、ミシニーがベースキャンプに向けて出発する。


 ベースキャンプは一旦片付けたので、ホームに入れるミリエルが先行して調えてもらうのだ。


「ああ、気をつけてな。ウルトラマリンは買っておくから」


 カインゼルさんならすぐ覚えてしまうだろうから、もう一台買うことにしたのだ。


「はい」


 ミリエルたちが仮拠点を出発したらアリサたちにブランデットとEARの使い方を教える。ちなみにロンダリオさんたちはまだ二日酔いで死んでます。


 まあ、一番がんばった人たち。今は静かに唸らせておきましょう。数日前のオレらも同じだったし。


「しかし、エルフの識字率高いな。やはりマサキさんの影響か?」


 数千年前の文字が今に伝わっているのも凄いよな。よく受け継がれたものだ。


「はい。神から言語チートをもらったと言ってました」


 オレは言葉しかもらってないんですけど。マサキさんのときは一匹一万円だったし、代を重ねるごとに待遇が悪くなってんのか?


「今はもうないのですが、おばあ様の時代は神の碑と呼ばれるものがあって、それを使って古代言語を復活させたと言ってました」


 神の碑? なんだそりゃ? 


「まあ、ここは古代エルフがいた地。ゴブリンを駆除したらいろいろ調べるといいさ。自分たちのルーツがわかるかもしれんぞ」


 データ化されているから碑みたいなものはないだろうが、ブランデットがあれば生きてるデータを探せるかもしれない。動力がなくなったからってデータまで消去されたわけじゃない。なにか動力があればデータを吸い取れるはずだ。


 言語を知っているだけにどんな働きをするか説明するだけだから楽なものである。EARもスコーピオンを使わせていたからすんなり理解してくれたよ。


「少し、練習してくるといい。ただ、集めすぎて狂乱化はさせるなよ」


「はい。いってきます」


 アリサたちが練習に出たらエルフたちが使っていたスコーピオンを軽く掃除してホームに運んだ。次は巨人に持たせるとしよう。地上にも特異体がいないとも限らない。巨大化したスコーピオンなら充分通じるだろうよ。


「タカト。アシッカから人がきて食料が欲しいって」


 あ、そろそろ尽きる頃か。すっかり忘れていたよ。


「ラダリオン。悪いがアシッカまでいってくれるか? 食料を巨大化させてくれ」


「わかった。それと、シエイラが五日前にコラウスに戻った。なんか、サイルスのおじちゃんと交代するって」


「サイルスさんと交代?」


 なにやってんだ、あの人は? 領主代理の夫とは言え、重要な立場にいるのには違いない。そんな人が他領に出ていいのか?


「報酬がなくなったってさ」


 もうかい。どんだけ使ってんだよ? ハーフエルフの……なんだっけ? そいつのと混ぜたら二、三百万円はあるはずだよな? 貴族には二、三百万円ははした金なのか?


「まあ、本人がいいってんなら構わないか。まだ八千匹以上はいるんだからな」


 あ、ガチャやっておかなくちゃならんな。また買ってから七十パーオフシールが出たら嫌だからな。


「砦の食料はどんな感じだ?」


「昨日出したばかりだから足りてる」


「じゃあ、砦を離れても大丈夫だな。食料は買っておくよ」


「うん、わかった──」


 ラダリオンが出ていき、タブレットをつかんでさくっとガチャをやる。


 一回目、回復薬中百粒。いいんじゃね。


 二回目、マルチシールド。まぁ、当たりだな


 三回目、マルダート。ん? 手榴弾? 四十発? なんじゃこりゃ?


 四回目、アポートポーチ。これで三つ目か。アルズライズに持たせるか。


 五回目、偵察ドローンブランデット連動型。充填百パーセントで二時間稼働。ルンを二つセットしたら四時間稼働か。サーチアイをつけたら広範囲をマッピングできるな。


「今回はまあまあの当たりだったな」


 七十パーオフシールが出なかったのは残念だが、前に当てたヤツは何枚か使っただけ。がっかり感は少ないさ。


 ガチャ品を片付け、ウルトラマリンや食料を買っていると、ポーンとタブレットが鳴った。ん? なに今の?


「え? はぁ? メール? 誰からだよ? てか、そんな機能があったの?!」


 左上に✉️のマークが出ている。なんかすっごく怖いんだけど。


 開けるかどうか迷っていると、早く開けろとばかりにチカチカ点滅し始めた。


 恐る恐る✉️をタップすると、見知らぬ女性が映し出された。


 ダメ女神に似てはいるが、ダメ女神ではない。別の女神か?


「初めまして。一ノ瀬孝人さん。わたしは、リミット。あなたにお願いがありメールしました」


 メールと言うかテレビ電話では?


「メールです」


 あ、はい。メールですね。すみませんです。


「な、なんでしょうか?」


 とりあえず、突っ込むのは止めておこう。心、読まれてるっぽいし。


「こちらが要望する品を一千万円分、買っていただけませんでしょうか? 謝礼として、それに匹敵する情報をお渡し致します。きっとあなたの力となるでしょう」


「い、一千万円分、ですか? またなぜに?」


「魔王と戦う方の支援です。わたしはセフティーほどの権限はありません。その世界に干渉できることが限られているのです」


 ダメ女神の下位、ってことか?


「そう思っていただいて構いません。セフティーホームは一種の神界。わたしの権限でもどうにかできます。一時的に魔王と戦う方のセフティーホームと繋ぐことができます。一千万円分の物資を送ってもらいたいのです」


 なんだろう。ダメ女神より女神らしく見えるんだけど。


「わ、わかりました。でも、一千万円分は相当な量になりますよ」


 おそらく生活物資だろう。細々としたものを送るとなると凄い時間がかかるぞ。


「問題ありません。こちらで操作します」


「は、はぁ、わかりました」


「ありがとうございます」


 報酬表示から一千万円が消えた。え? それで終わり?


「必要な情報はプランデットに入れておきました。あなたの無事と活躍を願っております──」


 リミット様が消え、いつもの画面に戻った。

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