第381話 ランダーズ(塔)
しばらく感動で動けなかった。
ただ、無事と活躍を願われただけなのに、嬉しくて堪らなかった。ダメ女神の「がんばって~」がクソにしか思えないよ……。
なんとか感動から立ち直り、気持ちを切り替えるためにアードベッグ十年を買ってストレートで飲んだ。聞いてた以上にスモ~キ~。
「一千万円に匹敵する情報ね~」
酒が入って少し落ち着き、リミット様が言った言葉(神の世界でのメールはああ言うものなんだろさ)を思い出す。
魔王と戦っている者に支援か。ダメ女神も言ってたが、報酬がホームの拡張(自由自在)だけってなんだ? オレに言わないだけで違う報酬があるのか?
たとえそうだとしても魔王と戦うのに一千万円とか酷くね? まあ、五十ゴールドしか渡さず魔王を倒せって言う王様よりはマシだけどさ。
「……魔王、か……」
ミサロからもチラッと聞いたけど、かなりの強さで、ウワサでは火竜を何匹も従わせているそうだ。
そんな相手と戦うことができるヤツってなによ? 本当に人間なの? 北の方向にある星を継承する神拳でも無理でしょ。それともチート持ちな人なのか?
確かにチートタイムで出せる力なら魔王でも倒せそうだが、それでもあちらは軍。組織で動いている。チートがあったくらいで倒せるものじゃないだろうに。
まあ、あちらはリミット様がついている。ダメ女神と違うのだから大丈夫だろうさ。まったく、オレもあんな女神様ならやる気も出ただろうによ。神ガチャに失敗したぜ。
「なにはともかく、その情報を見てみるか」
プランデットをかけ、起動させた。
マップが点滅しており、それを開くと、マイセンズの全体立体図が現れ、中央にある塔──ランダーズの中腹部に光点があった。
「……そこにある、ってことか……?」
プランデットにそこの情報はなかったが、その一角は研究施設となっており、航空警備部所属だった。
「航空警備部? なんか空飛ぶ乗り物があるのか?」
ダメ女神が詰め込んだ情報の中にはいくつかの乗り物があり、何種類かの飛行艇もあった。
「飛行艇ならありがたいかも」
この世界、とにもかくにも道が整備されてない。まだ踏み固められているならバイクで走りようもあるが、人が通るのも酷いところがある。
そんな世界で飛行艇はありがたいが、マナ・セーラがついたものは少ない。ほとんどは魔力を充填するタイプ。この都市が生きててこそ役に立つものたのだ。充填されたものがあったとしても切れたらそれで終わり。操縦を覚える苦労を考えたらいらない子だわ。
「なにがあるかはお楽しみ、ってか?」
気にはなるが、どのみちいかなくちゃならないのだからいってみてのお楽しみで構わないさ。
「ちょっと宝探しみたいでおもしろいかも」
一千万円に相当するお宝。なんかワクワクしてきたぜ。
まあ、それはカインゼルさんがきてからだな。仮拠点を留守にするわけにもいかないし。
「タカト。どうしたの?」
おっと。長いこと耽っていたぜ。
「いや、別の女神様から接触があってな、その対応をしていたんだよ」
皆で稼いだ一千万円を使ったのだからリミット様のことを黙っているわけにはいかない。先ほどのやり取りをミサロに語った。
「まともな女神もいるものなのね」
まったくだ。女神とはああでなくてはダメだろう。慈愛がない女神はバファリンより劣るわ。
「そうだな。とりあえずカインゼルさんがくるまでは動かない。アシッカのこともあるしな」
アシッカが揺らぐとこちらも揺らぐ。要となるところがあってこそ生き残れる。疎かにはできんよ。
「よし。外にいってくる。あとを頼むな」
「ええ。いってらっしゃい」
ミサロに見送られて外に出ると、二日酔いから復活したロンダリオさんたちがビニールシートを張っていた。なに?
「サウナに入ろうと思ってな」
「風呂なら用意しますよ」
「いや、サウナに入りたいんだよ。オレらは風呂よりサウナ派だからな」
「ここの男の人、サウナ好きですよね」
女は風呂のほうを好んでいるのにな。
「そうだな。休みは酒を飲んでサウナに入るのが最高だ」
「ああ。すっきりしてから地上に戻るよ」
他の人もノリノリだ。てか、アルズライズもか。サウナ、どんだけ男を魅了してんだよ? シャワー派なオレにはよくわからんよ。
「じゃあ、オレが見張るんでゆっくりやってください」
アリサたちはまだEARを慣らしているし、見張りついでに様子を見ておくとしよう。
何事もなく時は過ぎ、ロンダリオさんのチームが出発。一日空けてアリサたちが地上に戻った。
アルズライズと交代しながら体を休めたり仮拠点を築いたりしてたらカインゼルさんたちがやってきた。
「ビシャとメビもきたのか」
顔を覆うタイプのマスクをした獣人姉妹。そこまでしてくることもないだろうに……。
「すまんな。どうしても聞かなくて……」
ヤレヤレと肩を竦めるカインゼルさん。相当ゴネタみたいだな。
「あたしたちもゴブリン狩りたいよ!」
「全然出てこないし飽きた!」
オレを左右から揺らして駄々をこねる獣人姉妹。君たち、オレより力があるんだから揺らさないで。
「わかったよ。好きにしろ」
この二人を説得するなんて無理。絶対、無理。早々に諦めます。
「まずは自分たちの寝床を作れ。ここならまだ臭いが少ないからな」
防火扉が動いてくれたお陰でちょっと臭いていどに収まり、あとは脱臭剤を百個ばかり置いた。獣人の鼻でも堪えられるはずだ。
「あ、本当だ。ちょっと臭いくらいだ」
「これならなんとか堪えられそう」
「……まさか本当にくるとは思いませんでしたよ」
ドワーフやエルフたちの後ろにいる人に目を向けてため息をついた。
「そう言わんでくれ。夫として稼がないといかんのだよ」
やはり使い切ったようだ。貴族の嫁を持つのも大変だな。
「まあ、明日から稼いでください」
ゴブリン王を倒したサイルスさんは指揮もできる。いてくれるなら心強いさ。
第8章 終わり
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