第309話 マギャ石

 男爵たちはまだロースランと戦っていた。五人もいて倒せないのか?


 少なくとも一時間近く戦っていて、倒し切れないとかどうなんだ? 男爵も兵士も弱そうには見えない。プロレスラー並みに体がいいぞ。


 三人が槍で戦い、二人が弓で援護。素人のオレでも連携が取れていることがわかるし、五人が強いってことがわかる。なのに、なぜ倒し切れてないんだよ? 下手したらグロックでも倒せる相手だぞ?


 介入したらいいのか悩んでいたら、後方にいた弓の兵士が放った矢がロースランの背中に突き刺さった。


 そこから流れは男爵たちのほうに変わり、五分もしないでロースランを倒してしまった。


 もしかして、だけど、ロースランは視認できる攻撃は防げるが、視認できないと防げない、とかか?


 弾の発射速度は音速とか書いてあった。すべての銃がそうなのかはわからんが、発射された弾を見切れるなんて斬鉄剣を持つ人くらいだろうよ。いや、チートタイムを使えばオレにもできるか? 


「お怪我はありませんか?」


 激戦だったようで、前衛にいた兵士は息を切らし、男爵も凄い汗をかいている。それだけの相手ってことがよくわかるぜ。


 次、ロースランと戦うようなことがあれば過信しないで全力で当たることにしよう。男爵たちの戦いは戒めだ。気を引き締めなおそう。


 水を出してやり、男爵たちに飲ませた。


「もう暗くなります。これ、どうします?」


 このロースランは男爵たちが狩ったもの。所有権は男爵にある。ここに捨てるのも運ぶのも男爵次第だ。


「避難小屋に運ぶ。ロースランの肉は貴重だからな」


 大人気だな、ロースラン。そんなに美味いのか? ちょっと挑戦してみようかな?


「血を抜いて運ぶぞ」


 よく魔物の解体をしているのか、兵士たちの手つきが慣れている。首と足首を切って血を流し、腹を切り裂いて臓物を捨てた。そこは食べないんだ。


 軽くなったロースランを兵士四人で持ち上げ、避難小屋へ運んだ。


「オレらはロースランが潜んでいた洞窟に移ります。こちらは男爵様にお任せしますね」


 もう完全に暗くなり、男爵たちも疲労困憊。言葉少なく返事をした。


 ヘッドライトをつけ、洞窟に向かう。ゴブリンは穴の中で目覚め始めているようで、気配が強くなっている。臭いで地上のことを探っているのかな?


「ほんと、適当に創った割には優秀な種だよ」


 洞窟の前では火が焚かれ、各自持っていたライトで周辺を照らしていた。


「ご苦労さん。まずはメシにしようか」


 リヤカーに積まれたロースランを牽いてホームに入る。


 ホームにはミリエルやラダリオンもいたのでロースランを下ろすのを手伝ってもらい、マイセンズの砦にも持ってってもらった。


「ミサロ。職員に言って魔石を売ってもらってくれ。なるべく銅貨を多くしてもらってくれ」


 まだすべてのロースランから魔石を取り出してないが、先に取り出した八個をミサロに渡した。


「今日は外で寝るが、交代で入ってくる。なにかあれば印を出しておいてくれ。あ、もう一本のヒートソード、どこにある?」


 最後に貸したのは……どこだっけ?


「あたしが持ってる」


 と、ラダリオン。そっちにいってたか。


「雪を溶かすから貸してくれ。寝ているゴブリンを誘き寄せるからよ」


「わかった」


 外に出て、五分くらいしてヒートソードを持ってきてくれた。


「じゃあ、各自安全第一でな」


 そう告げて外に出た。


 ヒートソードを柔らかい土のところに突き刺し、五百度に設定。電池が切れるまで放置する。


 もう一本も反対側に突き刺したら夕飯の準備を始める。今日はロールキャベツスープだ。


 ロースランは食わんのかい! とか言わんといて。ロールキャベツスープはミサロが用意してくれたもの。ロースランはそのうち出てくんだろうよ。


「タカト。洞窟の鹿、食べられるみたいだよ。血抜きもされてて保存がいいんだって」


「何頭くらいあったんだ?」


「四十匹くらいらかな? 内臓も抜かれてた」


「ロースラン、器用だな。どうやって解体したんだ?」


 木のこん棒を持っていたヤツが何匹いたが、刃物を持っているヤツはいなかったよな?


「石を割ったヤツなら中にあったからそれで捌いたんじゃないかな?」


 気になったので見にいったら紫の石が落ちていた。


「これで切ってたのか?」


 アメジスト、ってわけじゃないな。黒曜石の紫版か? ファンタジーな世界の石だからよーわからんな。


「アリサ。これは貴重な石か?」


「いえ。この辺でよく取れるマギャと呼ばれる石です。わたしたちもナイフに使ってました」


 なんだ。よくある石か。でも、綺麗な石だし、いっぱいある。いくつか持って帰るか。


 オレ、幼稚園児の頃、石集めが趣味だったんだよね。小学校に上がったら興味も失せたが、こういう綺麗な石だと欲しくなっちゃうんだよね。


「そんな石、どうするの?」


「この辺ではよくあるものでも別の場所では高額になったりするもんだ。どこか大きな町にいったら鑑定してもらおう」


 綺麗どころを身繕い、ホームに持っていって、ミサロに捨てられないようガレージの工具箱に入れておいた。


 ふふ。磨いてもらって館の部屋にでも飾っておこうっと。


 女子たちに怪訝な目を向けられたが、男の趣味は女には理解されないもの。気にしなーい、だ。

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