第310話 足りない

「ゴブリンだけじゃなく、ロースランのグロも耐性がついてきたなー」


 モザイクがかかる状況なのに、なんの感情を持つことなくロースランの手足を切り落とせ、ナイフで腹を裂けている。内臓なんて素手で触っているよ。まったく、人間の慣れとは恐ろしいものだ。


「タカト。臭くてたまんないよ」


 防毒マスクをしたメビが腐ってきた内臓の臭いに泣き言を上げた。


 まあ、オレでも臭いと思ってんだから嗅覚の鋭いメビには堪えられないだろうよ。


「じゃあ、周りの雪を溶かしててくれ」


 次なる作戦のために雪があると邪魔だ。洞窟から五十メートルくらいはないと助かる。


「あ、あそこの狙撃場所も溶かしておいてくれ」


「わかった!」


 バビュンと走り出し、五百度にして地面に突き刺していたヒートソードに跳んで柄を握って地面から抜いて空中で回転。スタッと地面に着地。またバビュンと走り出した。


 いったいどんな身体能力だ? 子供であれなら大人の獣人はどんなだよ? 人間、よく獣人の村を襲えたな? この世界が怖くてたまらないよ。


「タカト様。リヤカーに載せました」


 エルフたちもグロ耐性があるのか、誰も愚痴を言ったり文句を言ったりしない。表情を変えずに解体してくれてるよ。


 ホームに入り、リヤカーをミサロに渡すと館に運んでいった。


 それを繰り返し、やっとこさロースランの片付けが終わった。ふー。


「ご苦労さんな。今日はこれで終わるからワインを飲んでいいぞ」


 ミシニーだけ異常に酒好きかと思ったが、種族的に酒が好きなようで、アルコールにも強い。ワインでは酔ったりはしなかったよ。


「ゴブリンはよろしいのですか?」


「それは明日だな」


 気配から完全に目覚めて、こちらの様子を伺っている感じだ。


「今日はゆっくり休んで早めに寝ろ。明日はさらに忙しくなるぞ」


 もちろん、警戒は必要だし、見張りも交代でする。暗くなる前にメビに洞窟の見張りを頼み、男爵のところに向かった。


 解体したロースランを焼いているのか、なかなかいい匂いが満ちていた。匂いだけなら豚だな。


「男爵様。明日はゴブリン駆除をします。今日は早めに休んで日の出前に洞窟の周辺に潜んでてください」


 一応、大雑把な計画は話してある。今回は資金稼ぎがメインでゴブリン駆除はついでだからな。


「ああ、了解した。早めに休もう」


「そうしてください。では」


 本当はもっと詳しくミーティングをしたいところだが、ロースランとの戦いで男爵たちは疲労困憊している。ミーティングしても頭に入らなさそうだから簡単でいいだろう。ダメ女神もついでにと言っていた。なら、オレたちが油断しなければ問題ないだろうさ。


 ……まっ、万が一のときは伯爵になんとかしてもらおう。寄り親だしな……。


 なんて黒い考えをしながら洞窟にくると、なにやらアリサたちが戸惑っている様子。どした?


「タカト様。ロースランの数がどうも合わないのです」


 ん? 数が合わない?


「すべてのロースランを集めて魔石を取り出したのですが、十一個しかないのです」


 ロースランは十八匹。内五つは先にホームに運んだ。で、男爵たちが一匹倒したと。足すと六個。ここにある十一個を足したら十七個となる。


 計算は小学生でも解けるが、一個足りない理由は大人でもすぐには解けない。


「逃したか?」


「いえ。そんな足跡はありませんでした」


「じゃあ、洞窟に隠れているとか?」


「それもありません。くまなく探しましたが、抜け穴等はありませんでした」


 ダメ女神が数を間違えた? なわけねーか。そんなドジをやる……ような存在だが、あのときまでは十八匹いたのだろう。


「襲撃から逃げたわけじゃないのなら、襲撃前に離れた、ってことか?」


 オレの推理ではそのくらいしか思いつかんよ。


「周辺にそれらしい足跡はあったか?」


「ありませんでした。メビ様にも報告して探ってもらってます」


 しばらくするとメビが戻ってきた。


「いたか?」


「ううん。足跡もなかったよ」


 うーん。ゴブリン関係には勘が働くのだが、それ以外はうんともすんとも働いてくれない。つくづくゴブリン仕様なオレだよ。


「いないものは仕方がない。安全を考えてゴブリン駆除を前倒しするか」


 不可解なことではあるが、今のオレたちにどうこうする手段はない。さっさとゴブリン駆除を終わらせるとしよう。


「誰か男爵様に前倒しすることを伝えてくれ。ロースランが一匹いないこともな」


 なにかあれば問題を被るのは男爵領。ちゃんと報告しておくべきだろう。


「すまないが、酒は帰ってからだ。鹿をいい感じに焼いてくれ。終わったら百メートルくらい離れて待機だ」


 もうちょっと洞窟周りの雪を溶かしかったが、この状況では仕方がない。やれることをやるまでだ。


 オレも内臓を捨てた穴に日本酒をかけてゴブリンの食欲を煽ってやる。


 洞窟の中で鹿を焼き始めたようで、なかなかいい匂いを漂わせていた。帰ったら燻製肉でビールを飲もうっと。


「タカト。焚き火、あのくらいでいいかな?」


 この辺を暖めるために焚き火を起こしていたメビがやってきた。


「ああ。充分だ。よし。狙撃場所に移動するぞ」


「了ー解」


 RPG−7を撃った場所に向かった。

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