第16話 サプレッサー

 ランチバッグからシュールストレミングを出し、木の根元に置いて五メートル先からHK416で撃つ、けどハズレ。二発目で当たった。


 缶詰が破裂して、悪臭が具現化したようなものが辺りに散らばった。


「うっ。キッツ」


 なかなかどうしてキツい臭いである。もうちょっと離れたほうがいいな。


 五十メートル離れたらまた同じことをして、この一帯をシュールストレミングの臭いで満たしていった。


 あのバケモノがシュールストレミングの臭いと音でよってきても、この凶悪な臭いと火薬のによりオレの臭いはかき消される。そうじゃなくても足止めにはなるはずだ。


「こんなものでいっか」


 まだ弾は残ってるが、マガジンを交換。コロニーとは反対のほうへと向けて走り出した。


 山一つ越えたら休憩。水を飲んで五分休み、また走り出す。


 おそらく十キロは離れたら周囲を探り、ゴブリンの気配を探る。


 探知内に何匹かいるが、脅える気配を感じる。まだあのバケモノのテリトリーってことかもしれないな。


 まだ日が暮れるまで一時間はあるだろうから、もう少しだけ走った。

 

 そんなことを三日続けると、大きな川に出た。


 川幅は十数メートル。水深はそれほど深くなく、流れも穏やか。泳いでいる魚が見えるくらい清らかな川だった。


「釣りがしたくなるな」


 いや、釣りなんて趣味じゃないし、釣竿を買ってまでやりたいとは思わないが、張り詰めていた気持ちが揺るぐくらい綺麗な川なのだ。


「あ、鹿だ」


 ぼんやり眺めていたら、川向こうに鹿……だと思う生き物が現れた。


 元の世界にいる鹿とは違い、角が前に鋭く向いており、背中に鱗が生えていた。


「……い、異世界だな……」


 いや、ゴブリンを散々見ておいてなんだが、ダメ女神のせいか、ゴブリンは害獣としか思わず、レッドなドラゴンとバケモノは恐ろしすぎてそんなこと思う余裕もなかった。


 こうして安全なところから草食獣(仮)を見ると、改めてここが異世界なんだと感じてしまうよ。


 あちらもオレに気づいたようで、一瞬こちらを見て山に逃げていってしまった。


「ゴブリンだけしか気配がわからないってのも難点だよな」


 まだ草食獣(仮)だからいいが、熊とかと出会ったらまた大洪水を起こすわ。


「ゴムボートでも買って川を下るか?」


 いや、どうせこの先に滝がありましたってパターンだ。そんな手には乗らんぞ。


 川の浅いところを下流に歩いて臭いを消し、向こう側に渡れそうなところを探した。


「お、ゴブリンの気配だ」


 川向こうの山にゴブリンの気配を感じ取った。


 数は四。気配の固まり方、進む速度、これはエサを探す出歩き組で間違いない。


「他にもいくつかいるな。もしかするとコロニーがあるのかもしれんぞ」


 それなら新装備を整えた分を取り返せそうだ。それに、まだまだ必要なものある。稼げるときに稼がんとな。


 浅瀬なところで川に入り、向こう側へと渡った。


 靴がビチョビチョになったので一旦セフティーホームへ。靴と靴下だけを替えて外に出た。


 気配は約三百メートル。警戒している気配はしないので、天敵はいない感じだな。


 風上とか風下とかわからんので、登りやすいところを選んで標的と決めたゴブリンの群れに向かった。


「さっきから止まってんな。なにやってんだ?」


 もう十五分くらい同じ場所にいるぞ。


 HK416を背中に回し、這うように近づいていき、見える位置を探す。


 なんとか探し当て、ゴブリンどもの様子を探った。


 ……穴を掘ってなにしてんだ……?


 しばらく見ていると、なんか黒い塊を掘り出した。山芋かなんかか?


 その黒い塊はかなりあるようで、四匹が頭を突っ込んで掘り出している。


 なんてゴブリン観察している場合ではないな。好奇心より目先の二万円だ。


 木によりかかりながらHK416を構え、気配の中心に向かって、連射で撃った。うるさっ!!


 耳栓をしてるが、音が反響して凄まじい。こんなの毎回聞いてたら難聴になるわ!


 クソ。高くて諦めないでサプレッサー買っておけばよかったぜ。


「四匹殺すのに四千五百円の出費か。ハァ~」


 ほんと、アサルトライフルの弾って高いよな。大量に買ったら安くなんねーかな?


「近くにいた群れも逃げたか」


 うん。やっぱりサプレッサーは買うべきだな。


 山を下り、川沿いに出てからセフティーホームに戻り、タブレットでHK416に合うサプレッサーを探して買った。八万三千円也~。

 

「ハァ~。十七匹倒さないと元が取れんのか。まったく、なにかと金がかかって嫌になるぜ」


 しょうがないとわかっていても愚痴が出てしまう。だって、オレは溜め込まない性格なんだもの。


「さて。サプレッサーとやらの力を見せてもらおうじゃないか」


 そう意気込んで逃げたゴブリンを追い、五十メートルくらいまで近づいた。


 オレには果てしない距離だが、警戒しているゴブリンにはこれ以上近づけない。音でバレる。


 連射から単発に切り換えてゴブリンの背中を狙い、そして、撃つ。


 ──パシュ!


 耳栓をしても聞こえる音がしたが、五十メートル先には聞こえてないようだ。他のが何事かと慌てて周囲を探っている。


 撃つ場所をちょっと変えて次を撃つ。さらにさらにで四匹を倒し、一匹は肩を。もう一匹は足に当たって逃してしまった。


「意外としぶといな」


 やはり食うものを食ってると、野生の猿並みには生命力がありそうだ。いや、猿の生命力がどんなものか知らんけど。


 まあ、なんにせよ、サプレッサーの力は見せてもらったよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る